R18恋愛官能小説 青山倉庫

掌編

03. ダダ


 宏斗が私に覆い被さって、ゆっくり入ってくる。
 私は痛みを堪えて、唇を噛んだまま、宏斗の肩にしがみつく。
「お姉ちゃん、痛くない?」
 私は首を横に振る。宏斗を見つめる。唇を重ねる。そのまま宏斗は私を突く。私は力なくゆさゆさ揺れる。

 実の弟の宏斗を初めて意識したのは、去年の秋だった。
 私は中学二年生で、宏斗は一年生。中学に入学してすぐにサッカー部に入った宏斗は、急に女子の注目を浴びた。最初はなぜだかわからなかったけど、月刊のサッカー誌にサッカー部の写真が掲載されたのがきっかけだと同じクラスの若菜ちゃんに聞いた。宏斗は自分が載った雑誌を買わなかったし、私は結局その写真は見てないけど、いつも扱いの小さな中等・高等サッカー部のコーナーが特集号だけ大きくて、宏斗の写真がデカデカと載ったという。
 宏斗は中性的な顔立ちで、年下のくせに落ち着いた雰囲気があったけど、性格は男の子で、おおらかで、細かいことは気にしなくて、誰にでも好かれるタイプで、私とは正反対。子供の頃はあまり仲がよくなかったけど、進学して、声変わりして、背も高くなった宏斗は、私に対する態度が急変して、怒らなくなったし、他人に対するような親切を見せるようになった。喧嘩もしなくなった代わりに、宏斗と私の生活空間は明確に分けられて、今まで一緒に生活していた一階の子供部屋から私が二階に遷って、生活の上でも接点が少なくなった。だから私も宏斗を気遣ってあげればよかったのに、私は無頓着なままだったから、宏斗を傷つけることになってしまう。

 夏休みも宏斗は部活があって、夕方帰ってくるとシャワーを浴びて、パンツ一枚で肩にタオルをかけて自分の部屋に戻る。宏斗は洗面台のドライヤーをいつも持って行ってしまうから、私は何の気無しに回収に行った。ノックもしないでドアを開けて、「ヒロくん、ドライヤーまた持ってった」と言いながらづかづか踏み込んで、ベッドの上でひとりエッチしてる宏斗を見つけて、びっくりしてしまって。
「あっ、ごめん」
 気の利いた言葉は思いつかなかったし、慌ててしまってドライヤーは回収できないし、その日宏斗は部屋から出てこなくて、私たちは気まずい雰囲気のまま数日過ごした。宏斗はしばらく私と目も合わせてくれなくて、私はそんなに気にしていないのに、私が思っている以上に傷ついているようだった。
 宏斗が私に対して挙止動作が変わったように、私も宏斗に対して態度を変えて、以前よりずっと優しく振る舞い、優しい声をかけ、プライバシーを尊重して、その代わり少しだけ距離を置いた。それが宏斗の心を癒してくれることを願って。

 そんな事件から三ヶ月が過ぎても、私たちはいつもの姉弟に戻れなくなった。宏斗は私が朝おはようと言うだけでへどもどしてるし、私は宏斗に指先が触れるだけで心拍数が上がって、いつものような所作が取れない。小さくて意地悪だった弟が、いつの間にか一番身近で照れ屋さんな男の子に変わっていることに気づいた。
 それから、私は弟の名前を呼ぶだけでも意識して、イントネーションが狂って、そういう自分が余計に恥ずかしくて小さくなってしまって、宏斗は宏斗で今まで強くて支配的だった姉がただの弱いおんなだと気づいたみたいで、かと言って尊大に振る舞うわけでもなく、優しく気遣ってくれることが嬉しかった。

 冬にサッカーの地区対抗試合があった。
 私は宏斗に内緒で応援に行った。前半で3-0の大差をつけられたにも関わらず、後半宏斗の活躍で2点を取り返して、ロスタイムに相手チームのオウンゴールで同点に終わった。私はそのままこっそり帰ろうとしたけど、宏斗は荷物を掴んで挨拶もそこそこに私を追いかけて来た。
 宏斗は前半が終わったとき、私が応援に来てることに気づいたと言う。私は「ヒロ、かっこよかったよ」と言う。宏斗は照れて下を向く。私も下を向く。宏斗は私の手を握る。私はその時、自分が弟を好きになったことを初めて自覚した。

 それから私と宏斗は一緒にいることが増えた。
 年末年始には一緒に初詣に出かけ、成人式の日は一緒にどんど焼きを見に行って、毎日部活が終わると、私は先に校門で宏斗を待っていた。私たちは姉弟だから、一緒に帰っても、どんなに仲良しでも、へんな噂は立たない。でも、帰りがけに宏斗が同級生の女子と喋っているのを見ると、抑えられない感情に駆られる。そして私はこれ見よがしに宏斗と手をつないで、早く帰ろうと引っ張る。
 その日は雪がちらついていたからよく覚えている。
 宏斗は私に手をひかれながら、「姉ちゃん、嫉妬してるの?」と聞いた。
 私は振り返らずに「自惚れないで」と答えた。
 宏斗は私の腕を掴んで振り返らせて、抱きすくめた。スキー用の厚手のマフラーから純白の雪が散って、吐く息が白くて、真っ白な空に無機質な電柱が黒い影を浮かべて、私はしばらく何も言えないで空を見つめていた。その時、もしかすると生まれて初めてかもしれないけど、宏斗が私の名前を呼ぶのを聞いた。音禰、好きだ。
 私はいつの間にか私よりずっと背が伸びた弟の腰に腕を回して、小さく頷いた。

 普通のカップルよりもずっと一緒にいる時間が長いのに、私たちは何事にも時間がかかったと思う。それが急展開したのは、生活環境の変化――母の蒸発がきっかけだった。自衛隊の船に乗っている父はアフリカの東に派遣されて長い間帰ってこなくて、母は洋服と預金通帳を持ち出していなくなった。家に取り残された私と宏斗はお互い助け合って生活しなければならない。その代わり、私たちは二人きりになれた。子供の頃から父を悪く言っていた母がいなくなったとき、宏斗は淋しそうだったけど、私は何も感じなかった。私と母は仮面親子だったから。
 宏斗は毎晩なんとなく私の部屋で過ごし、私の部屋でテレビを見たり、音楽を聴いたり、漫画を読んだり、とりとめもない話をして、夜になると自分の部屋に戻ってしまうけど、今日だけはいつまでも入り浸っていた。そわそわしていた。私は宏斗の焦燥に気づいていたけど、どんな風に振る舞えばいいかわからなくて、隣に座って、テレビの方を向いていたけど、番組の内容は全然見ていなくて、やがて会話が途切れて、私たちは沈黙してしまって、時間だけが過ぎて、一階で零時の時報が鳴って、宏斗は両脚を伸ばして、私の手を握る。私も握り返す。宏斗は私の肩を抱いて、ぎこちなく引き寄せる。私は目を閉じて、宏斗に身を任せた。

「ヒロ、きもちいい? あっ、私の…中、きもちいい?」
「きもちいいよ、お姉ちゃん…、すごい」
 私も宏斗も初めてだったから、私は全然余裕がなくて、宏斗がよければそれでいいやとおもって、だけど宏斗の腕に抱かれて滅多突きにされてるうちに、だんだん頭がぼんやりしてきて、私の潤んだ粘膜を抉る宏斗の熱を感じて、私は自然と甘い声を漏らす。
「あっあっうっ、おっ、ねえちゃ…、いっ…イキそっ」
「いいよ、ヒロ…、イって、いいよ」
「お姉ちゃ…」
 宏斗は息ができないくらいきつく抱きしめて、私も宏斗をきつく締めつけて、壊れそうなくらい滅茶苦茶に突かれて、宏斗はひとつ身震いをして、私の中で果てる。
 長い長い痙攣。私は汗びっしょりの宏斗の肩を撫でながら、天井の照明を見つめる。からっぽになる。ようやく呼吸と鼓動が落ち着いてくると、宏斗は私の上からそっと起き上がって、私の隣に寝転ぶ。私たちは横向きに抱き合う。キスをする。そして私は口を開く。
「いいのかな、こんなことして…」
「いけないことかな?」と宏斗は独り言みたいに呟く。
「いけないことよ」
「じゃあ、ぼくたち、地獄に堕ちるね」
 再びキスをする。宏斗の髪を撫でる。
 地獄でもどこでも堕ちればいい。宏斗と一緒ならどこでも変わらない。今は難しいことは考えたくない。
 私は宏斗の肩に頭をのせて、つけっぱなしのテレビを眺める。衛星放送の深夜番組はミニシアター系の映画を流していて、子供の頃に両親に捨てられた兄弟が大人になって殺し合う憂鬱なドラマで、マックス・エルンストの彫刻を背景にした暴力的な場面はダダイスムとかそういう当時の世相を表しているのかもしれないけど、セックスしたばかりで、宏斗の鼓動を聴いているだけの私には全然理解できない。
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