R18恋愛官能小説 青山倉庫

69H

48. 初めて

 私は十七の誕生日に家に居るのがイヤで、友達のミキの家に泊まった。同じ部活のトモやサヤカも一緒に泊まって、ミキのお母さんと一緒にお料理して、ミキのお父さんにみんなでお酌したりして、サヤカは社会勉強だとか言って笑っていた。でも、私はミキと二人きりの方が気楽だった。
 トモもサヤカも彼氏が居て、それなりに経験済だったし、ミキも新しくできた彼氏の話をするようになって、私は一人取り残されたような気分で、それでも雑誌とか聞いた話とかそういう知識を総動員して話を合わせていた。だけど、その夜四人で集まってしまったことで、私が取り繕っていた体面とか矜恃が綻んでばらばらに崩れてしまった。
「由利恵の彼氏って、どんな人?」
 トモの一言で始まった惚気話は夜が更けるにつれて猥談に変わり、私はみるみる口数が少なくなっていく。私はモテないわけじゃないけど、みんなほど恋愛に積極的でもなく、誰かを好きになっても、自分の好きでいる気持ちだけで満足していた。周りはどんどん大人になっていくのに、私は小学生の頃から自分がちっとも変わっていないように感じられて、いつも気後れしてしまう。
 そんな私の焦燥を嗅ぎ取ったのか、サヤカが「彼氏とはまだ何もないの?」とストレートな訊き方をする。私は曖昧に返事をしたけど、私は会話の輪から外れてしまって、適当に相槌を打つだけの首振り人形になったみたいで、すごく惨めで浅ましい気持ちのままミキの部屋のクッションを抱いて早めに眠ったふりをしなければならなかった。
 私は十七になるまで、彼氏もいなかったし、キスだってしたことがなかったから。

 トオルくんはバスケ部だったから、バドミントン部の私は雨の日に体育館で練習することを楽しみにしていた。
 最初は、あ、いるな、程度に遠くから眺めているだけだったけど、荷物の置き場所が隣り合ったとき、トオルくんが話しかけてきて、私は目が合わせられなくて、トオルくんを意識してる自分に気づいた。
「由利恵ちゃん、傘持ってる?」
「う…うん」
「今日一緒に帰ろうよ、方向一緒だよね」
「傘、忘れたの?」
「風で壊れちゃった」
「そっか、いいよ」
 その日、私は練習中ずっとそわそわして身が入らなくて、帰りがけもろくに着替えもせずにトオルくんが待っている西門前のエントランスに走っていった。トオルくんには彼女がいるって噂で聞いていたけど、相合傘で一緒に帰ったその日から私はトオルくんのことばかり考えるようになってしまって、だけど自分からどうこうするってわけでもなく、ただ遠くから練習姿を見ているだけでも満足だった。
 そんなささやかな幸せを感じて過ごすことができたのはほんの一ヶ月くらい。サヤカと二人で帰りに百貨店のアクセサリーショップに立ち寄ったとき、私はロッテリアの店内に座るトオルくんを見つけた。制服姿のまま携帯をいじっていたトオルくんは私には気づかなくて、棚の陰から様子を伺っていると、トレーにポテトと飲み物とハンバーガーを載せたミキが向かいの席に座った。トオルくんはミキの腕を引いて、自分の隣に座らせて、咥えたポテトの端をミキに食べさせようとしていた。
 私は手足から血の気が引いてしまって、黙ってその場を離れた。

 私に彼氏がいないってことは薄々みんな感づいていて、トモとサヤカは気を利かせてくれたのか、別の学校の男の子たちと遊びに行く機会を作ってくれた。
 私たち三人は、トモのお兄さんが通っている男子校の二年生三人と、有楽町に映画を観に行く。ビックカメラの中にある映画館は広いけど、座席は狭くて、私はラグビー部の星野くんと文芸部の内藤くんに挟まれて座る。二人とも体が大きかったから私は圧迫されるみたいで、トモとサヤカは映画が始まるまでギャル男っぽい峰岸くんと喋ってて、私は小さくなって黙っている。
「由利恵ちゃんって、何部?」
「バドミントンです」
「バドミントンなんてあるんだ」
「はい…」
 会話が続かない。
 そうこうしているうちに映画が始まる。あまり興味のない映画だったから退屈してしまう。しかも途中でお手洗いにいきたくなって、全然映画に集中できないまま終わってしまう。
 映画の後でご飯を食べに行く。私は特に何もしていないのに妙にくたびれてしまって、適当なファミレスで適当なメニューを注文して、その間男の子たちはトモとサヤカの二人とずっと喋ってて、会話がだんだんディープな恋バナになってしまって、私は入り込む隙がなくて、手持ち無沙汰で、ときどき話題を振られても、うんとかううんとか曖昧に返事をする首振り人形になってしまう。
 トモもサヤカも私が口下手だって知っていて誘ったのかもしれない。そんな邪推が心をよぎってから、私は二人と、今日初めて会った男の子たちに、強い猜疑心を抱いてしまう。時間が経つにつれてだんだん惨めになってしまう。一分一秒が苦痛でしょうがない。早く帰りたい。帰って布団に突っ伏して自分の浅ましさにしくしく涙を流したい。
 だけど私は解放されずに、三人でカラオケに行く羽目になる。

 いつもお父さんかお兄ちゃんが使っていてあまり触ることのなかったパソコンを立ち上げたのは、家中が寝静まった深夜二時くらい。
 携帯で久しぶりにSNSの日記を更新しようと思っていたけど、ミキの日記にトオルくんとホテルに行った話が詳しく書かれているのを見て止めた。薄暗くて手しか見えない受付のことや、内装が豪華なことや、窓がないことや、どうでもいいことばかり。ミキは読み逃げ禁止なんて頭のオカシイことは言わない子だから、私は特にコメントもしない。そんな気にはなれない。
 私は出会い系サイトを調べる。私が中学の頃は隠語が飛び交う目的指向のサイトが多くて、友達と一緒に冷やかした覚えがあるけど、私の調べ方が悪いのか、検索にひっかかるサイトにそういう毒々しく賑わった雰囲気がない。少し調べてみると、それらのほとんどが出会えない系サイトだとすっぱ抜かれている。今時は携帯ゲームとかプロフとかSNSまがいのサイトで相手を見つけるらしく、時間も手間もかかるらしい。私は少し安心するけど、同時に落胆する。毎日家族の目を盗んでパソコンの前に座る隙なんてない。
 眠気も飛んでしまったし、明日は休みだったから適当にいろんなサイトを見て回る。壁の時計が深夜三時のベルを鳴らす。ツーショットチャットを見つける。私はチャットがどういうものかよく分からずに空き部屋に入室する。名前と年齢を入力して、性別、住んでいる地域を選ぶと、『男性が入室されるまでお待ちください』とページの中央に表示される。私はその文字を見て、急に緊張してしまう。同い年くらいの男の子と喋るのにそれほど抵抗はないけど、見ず知らずの、それも年の離れた男性相手にチャットルームで誘ってること自体が自分にとってすごく浅ましいことのように思える。だけど私は私が小学生の頃に死んだおばあちゃんが使っていた部屋で、暗闇に浮かぶモニタを見つめたまま硬直していて、チャットルームを出ようとしない。もしかすると死んだおばあちゃんが私の肩越しに一緒にモニタを見ていて、悲しんでいるかもしれないとか、妙な雑念が湧き起こる。そんなことを考えているうちに時間が経過していって、待機できる限界が訪れようとしたとき、チャットログにメッセージが書き込まれる。
『トモキさんが入室されました』
 私は慌てて『許可』のボタンをクリックして、メッセージを入力する。
「こんばんは」
「こんばんは、由利恵さん」
 私はハンドルネームに本名を入力していたことに気づく。今更どうしようもない。

「由利恵さんは、いくつ?」
「17です」
「高2?」
「はい」
「俺、19。大学生だよ。由利恵さんって彼氏とかいないの?」
「いないです。どうしてですか?」
「とりあえず聞いておかないと。彼氏いる子に誘いかけても骨折り損じゃん」
「そうですね・・・」
 トモキと名乗る大学生はタイピングが早くて、人差し指打法の私はついて行けない。私は考えることとキーの入力は別々だから、余計にゆっくりになる。
「住んでるところ関東なんでしょ? どの辺りに住んでるの?」
「杉並区です。高井戸」
「mjd? 俺、荻窪人だよ@@;」
「近いですね」
「へー、じゃあ高校はアソコらへんかぁ」
「どこだとおもいます?」
「アソコはアソコだよ、ア・ソ・コ」
「・・・」
「ごめんごめん、こういうの、ダメ?」
「だめじゃないですけど、私、トモキさんのことよく知らないし」
 トモキはしばらく沈黙する。最後にメッセージを入力してから、右上のカウンタが減っていく。沈黙が三十秒以上続くと、男の人は強制的に退室させられてしまう。心配になる。急にメッセージが流れる。
「携帯で話さない?」

 ゴールデンウィーク直前なのに、外は肌寒い。
 私は近所の公園までカーディガンを羽織って出かける。チャット上で教わったトモキさんの携帯番号を打つ。待ち構えたようにつながる。
「もしもし、由利恵ちゃん?」
「トモキさん」
「よかった。電話こないから、無視されちゃったのかと思った」
「そんなことしないですよ」
「声は大人っぽいね」
「そうですか…」
 私は円柱型の滑り台の下に腰掛ける。カーディガンの袖を手に被せる。
「何だったら、俺からかけ直す? 電話代かかるし」
「いえ、大丈夫です」
「そっか。あのさ、ゴールデンウィークって、なんか予定ある?」
「なんでですか?」
「二日にディズニーシーいかない? チケット貰ったんだ」
「えっ…、でも」
「無理だったらいいよ。先輩にあげちゃうし」
 私は二日から連休を利用して、家族で伊豆に出かけてしまう。自由になるのは明日だけだ。
「その日は無理なんです、明日なら…」
「明日かぁ…、俺、明日は自宅待機なんだよなぁ。いや、今アパート住んでるんだけど、光回線引くから、明日は家にいなくちゃいけないんだ」
「そうですか…」
「なんならウチこない?」
「えーっ?」
「うそうそ、冗談」
 ディズニーシーでも荻窪でも、今の私には同じようなもの。私は少し間を置いて言う。
「いいですよ…」

 荻窪駅を下りて改札をくぐり、階段を下りて待ち合わせのルミネ前にいく。
 そこにはスーツを着たおじさんと、リュックを背負ったオタクっぽい青年が二人。私の足は自然とルミネ前を通り過ぎて、行く当てもなくふらふらと行ったり来たり。写メくらい交換すればよかったと後悔するけど、今更どうしようもない。知らない振りして立ち去ろうか迷って振り返ると、さっきの青年と目が合う。リュックの青年は携帯を取り出す。どこかに電話をかける。私の携帯が鳴る。私の心臓も飛び上がる。
 私は携帯を手にしたまま、出ようか出るまいか迷う。リュックの青年がこっちをチラチラ見ている。私は意を決して、ルミネに背を向けて携帯を取る。もしもし。
「もしもし、由利恵ちゃん、どこ~?」
「ルミネの前です…」
「えーっ、あ、いたいた」
 私が顔を上げると、横断歩道の向こうに背の高い男の人が見える。携帯を持った手を私に向かって振る。リュックの青年は人違いだった。トモキくんは横断歩道を走って渡ってきて、ルミネを指さして言う。
「由利恵ちゃんお腹空いてない? お昼食べていこっか。まだ業者くるまで時間あるし」
「はい」
 言われるがまま、私はトモキについていく。五階に上がる。比較的空いているカレー屋さんに入る。ランチメニューのキーマカリーを注文する。トモキはカツカリーとタンドリーチキンを注文する。あと食後のコーヒー。
「てか、由利恵ちゃん可愛いね。俺もっとお姉さんっぽい子を想像してた」
「そうなんですか、私、声が低いから」
「うん、声だけ聞くと艶っぽい、落ち着いてるよね」
「はは、艶っぽいですか…」
 トモキは無骨にならないくらい絶妙にりりしいタイプで、ショートレイヤの髪を少しだけ染めていて、カジュアルなジャケットが似合っている。クラスメートの男の子たちよりずっと大人な男性。きっとこういう人は、個人的な好みを問わず、広く好まれるタイプだとおもう。
「ゴールデンウィークはどこか行くの?」
「連休は、家族で伊豆に行くんです」
「へぇ、由利恵ちゃん、兄弟いる?」
「二つ上のお兄さんがいます」
「へぇー、俺と同い年じゃん」
「トモキさんほどかっこよくないですけど」
 トモキは私を見つめて微笑む。カレーが運ばれてくる。トモキはチキンをフォークで突き刺す。私は手をあわせていただきますと言う。私は男性とテーブルを差し挟んで食事なんてしたことないから最初は緊張したけど、カレーの香りに食欲をそそられて、私の意識は目の前の食べ物に奪われる。
 トモキは私のことを根掘り葉掘り質問する。私はずっと自分のことばかり喋る。家族のこと、友達のこと、部活のこと、クラスのこと、先生のこと、好きだった人のこと。やがて私は真ん中に置かれたチキン皿のポテトをフォークでつつきながら、聞かれてもいないことを色々喋ってしまう。トモキは聞き上手で、あまり自分のことを喋らない。食後にコーヒーが運ばれてきて、私はひとつだけ質問する。
「トモキさん、彼女とか、いないですか?」

 んっ…、む。
 生まれて初めてのキスは情熱的なディープキスで、私は頭の芯が痺れてクラクラ目眩がする。
 カーテンから斜陽が差し込む畳部屋で、私はトモキに押し倒されて、ワンピースの上から胸を撫でられる。緑色のワンピースはロングスカートにもなるツーウェイだけど、トモキにとってはただの邪魔な服でしかないみたいで、荒々しく私の口腔をかき回しながら、肩紐をひとつずつ外す。トモキの指先が私の鎖骨を滑る。首筋を愛撫されて、私は自分でも初めて聞くような甘い声で喘ぐ。
「由利恵って、初めてじゃないの?」
「初めてだよ…。トモくんは、慣れてるね」
「そんなことないよ」
 トモキは私の上半身を抱き起こして、ワンピースを脱がせる。まだ明るい時間で、トモキの部屋の白いカーテンは遮光性が低い。私は二の腕を抱いて小さくなるけど、トモキは再び私を仰向けにする。
「恥ずかしいよ…」
「大丈夫だよ、由利恵、綺麗だよ」
 トモキは私のブラを片手で外す。トモキの指先と舌が肌の上を滑る。だんだん体が熱くなってきて、トモキの指先が乳首に触れただけで敏感に反応してしまって、私の声が部屋の天井に反響する。
 トモキは高校のときから付き合っていた彼女がいたけど、トモキが東京の大学に入って離ればなれになった。相手のことを嫌いになったわけじゃないけど、離れてもなお気持ちを維持する自信がなくて別れたと言う。トモキの大学は理系だから女子の割合がとても低くて、一年生から実験と課題に追われて誰かと知り合うチャンスもない。夜遅くまで実験室に泊まり込んだ日に、学内のパソコンでチャットルームにつないで暇つぶしをしていて、私と喋った日はたまたまよく見ているチャットサイトがメンテナンスしていたから、興味本位でツーショットチャットを利用してみたと言う。私とトモキがあの日あのサイトで喋ったのは、色々な偶然が積み重なっている。それが私には少しだけ運命的な気がするけど、少しだけ後ろめたい感覚が残っている。
 トモキが私の太股に唇を押しつけて、少しずつ内側に移動する。私は腰を浮かして、トモキがショーツを脱がしやすくする。トモキの舌が濡れた粘膜に滑り込んで、ぴちゃぴちゃ音を立てる。恥ずかしくて、くすぐったくて、自分でびっくりするくらい大きな声で喘ぐ。
「由利恵、きもちいいの?」
「わかんない…、きもちいい…ような気もする」
「すごい濡れてるよ、ほら、ほら」
「やぁん、だめ…、恥ずかしいよぉ」
 トモキは指先を私のアソコに滑らせて、くちゃくちゃ音を立てる。ときどき敏感な部分に触れると、私の体は私の意志に反してビクビク跳ねる。トモキは私の体に覆い被さって、私の敏感なポイントを同時に責める。くすぐったいような、きもちいいような、不思議な感覚。想像していたのと違って、トモキはすごく時間をかけてくれて、私の未熟なからだもだんだん溶けていって、トモキが私の耳元で囁く言葉に自然と頷く。
「ねぇ、俺のも、して」
「いいよ…」
 トモキはシャツを脱いで、膝を立てたままベルトを外す。私は恐る恐るジーンズのホックを外して、ジッパーを下ろす。肌触りのいいボクサーパンツの中で、トモキのアソコは大きく硬くなって、行き場を失って左に曲がる。私はジーンズとボクサーパンツをまとめてトモキの膝までおろす。根元に片手を添えて、裏側を舐める。咥える。ゆっくり飲み込む。上目遣いでトモキを見上げる。きもちよさそうな表情。私はトモキの敏感そうな先端に舌を巻き付けながら、自分のペースで前後に揺れる。自分がしてもらってるときは時間が過ぎるのが早いのに、自分がするのは思ったより大変。だんだん顎が疲れてきて、口を離して息継ぎをする。トモキは腰を下ろして、私の頭を撫でる。唇を重ねる。
「ねぇ、由利恵、入れていい?」
「はいるかな…」
「怖い?」
「うん、大丈夫」

 トモキが覆い被さってからは早かった。
 痛いとかきもちいいとか、何かを感じ取る前にあっという間に終わって、私はトモキの肩に頭をのせて壁に掛かったカレンダーを眺める。お互いまだシャワーも浴びて無くて、トモキは私よりたくさん汗をかいていて、私の髪に指を絡める。
「暗くなる前に帰らなきゃ、由利恵…」とトモキが私の肩を撫でる。
「まだこうしていたいよ」
「大丈夫?」
「うん、平気。明日学校だけど…」
 トモキの指先が私の頬を撫でる。唇を重ねる。ファーストキスをした同じ日に、私はトモキと数え切れないくらい何回もキスをする。
「ねぇ、由利恵。今こういうことを聞くのは、順番違う気もするけど…」
「なぁに?」
「俺の彼女になってくれる?」
 私は一番親しいひとにも見せたことのない表情で微笑んで、頷く。またキスをする。いっぱいキスをする。
 窓から差し込んでいた夕暮れの気怠い光はいつのまにか街灯の白い光に変わり、表を帰宅途中の子供たちが駆けていくぱたぱたという足音が遠ざかる。据え付けのキッチンの緩んだ蛇口から滴る水の音を聞きながら、私たちは再び愛撫し合い、時間を忘れてもう一度セックスする。
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