R18恋愛官能小説 青山倉庫

69H

22. 本能(トッカータ)

「あっあっあっあっ…ゆぅ、くふ…んっ」
 ラブホテルの天井を背景に、全裸の優くんがあたしの上で前後に揺れる。あたしは汗に濡れた優くんの肩に指を滑らせる。キスをする。あたしはイキそうになって、優くんの肩に爪を立てる。
 ベッドの上でつながったあたしたちの隣で、下着姿の志保がミスチルを歌う。クッションに腰掛けた亮子ちゃんが順番を待つ。志保が歌い終わると、カラオケに得点が出る。九十点。亮子ちゃんが残念そうな声で笑って、ショーツを脱ぐ。Tシャツだけになる。マイクを受け取って、別の曲をかける。
 中学生でも簡単に入り込める郊外のラブホテルは、朝七時から夕方五時までサービスタイムで、優くんのお小遣いだけで長時間入り浸ることができる。あたしと志保はお盆の前にこのホテルをみつけて、お手伝いの保木さんがいるときはホテルで優くんと遊ぶようになった。亮子ちゃんがついてきたのは今日が初めてだけど、亮子ちゃんは志保と二人で時々優くんと遊んでいたらしい。
 朝からあたしたちはカラオケで得点を競い合って、得点の低い順に服を脱ぐ。あたしと優くんは音痴ではないけれど、歌の上手な志保と亮子ちゃんにはかなわなくて、早々と全裸になって、高得点をはじき出す志保と亮子ちゃんの横でセックスする。二人とも同点になることが多くて、なかなか決着がつかなくて、その間にあたしと優くんは何回も絶頂して、お腹もお尻もベッドも優くんの体液に濡れそぼって、あたしは下になっているだけなのにもうへとへと。
「あーっ、いくいく、いくっ、あーっ」
 自分でもびっくりするような恥ずかしい声。優くんが乳首を強く吸って、長いおちんちんがあたしの子宮をずしんずしんと突き上げる振動が背骨を伝って、あたしはあっという間に絶頂する。自分でするときと違って、優くんのセックスは滞空時間がとても長い。あたしは意識が遠くなるほど優くんにしっかり抱きしめられて、からだじゅうが自分の意志に反して痙攣する。
「はぁ、はぁ、麗羅ちゃん…」
「あっ…、あっ、あはは、ケーレンが、とまんな…」
「お腹空いた…」
「もぉ。優くん、朝ご飯たべてないの?」
「うん、おにぎり…、あっ、ああぁっ」
 あたしが笑うと優くんは圧迫されて、あたしのなかでピクピク動く。それが可笑しくて余計に笑うと、優くんはあたしのなかで果てる。あたしの胎内で脈動して、泡を吹いて、さっきよりたくさんの精液が噴き出す。これが他の男の子だったらイヤだけど、あたしにとって優くんは一番相性がいい相手なのかもしれない。汗も、精液も、体臭も、セックスのときの声もなにもかもがあたしにとっては性的な刺激。だけどあたしは優くんのことを友達以上の関係に見ることができない。最高のセックスフレンドは、恋人にはならない。
 あたしは両脚を優くんの腰に巻き付けたまま、二度目の絶頂の波に襲われて、昨日の夜のことをおもいだす。

 紺色のカットソーと黒いチェックのクォーターパンツを履いた那須野菜奈は、夜の闇に溶け込んでいた。
「ブランコに乗るのって、なんか久しぶり…」
 菜奈はあたしを電話で公園に呼び出した。菜奈は母子家庭で、お母さんは看護婦さんだから、遅い時間にも出歩くことがある。ベリーショートの髪で、暗い色合いのボーイッシュな格好を好む菜奈は、男の子に間違われるからナンパもされないと言う。近頃はあたしたちみたいな中学生でもナンパしてくる奴がいる。
 あたしは家に保木さんがいたから、部屋にいる振りをしてこっそり居間から抜け出してきた。あたしはブランコに揺られる菜奈の前に突っ立ったまま、聞く。
「話って?」
「麗羅ちゃんも座ったら?」
「あたし、あまり長く空けられないの」
「門限とかあるの…?」
 あたしは答えない。菜奈は立ち上がる。あたしの隣の鉄パイプの枠に腰掛ける。
「麗羅と彩奈って、どっちがタチ?」
「え?」
「彩奈ちゃんって、気が強いけど、意外とネコっぽいかも」
「なにそれ?」
「えー、知らないの? 攻めがタチで受けがネコ。あたしと友恵だったら、あたしがネコで友恵がタチ」
「よく、わからないんだけど…」
「ウチらも、麗羅と同じことするために、屋上に登ったんだよ」
 あたしは言葉を失う。よろよろとパイプに腰掛ける。踏切の鐘の音が聞こえてくる。
 昨日の盆踊りに出かけたとき、アヤと二人で公民館の屋上に登り、愛撫し合っていた。そこを菜奈と友恵の二人に目撃された。そのことで呼び出されたとわかっていたから、強請られるのか、脅されるのか、興味本位であたしたちの関係をほじくり返すのか、そういう悪い方向にばかり想像していたけど、ウチらも同じだなんてカミングアウトはまったく思い浮かばなかった。あたしは踏切の方角の空を見上げたまま、体を硬くする。
 最寄り駅は使われていない錆びた線路がいくつかある。昔はそこに貨物列車が停まっていて、夜の間はヒヨコの泣き声がうるさかったとおばあちゃんに聞いた。今は夜になると夜警団が巡回していて、このあたりはとても静かになる。だから、あたしたちの会話は公園を囲む住宅の壁に反射するほどよく通る。
「あたしと、アヤは、そういうのないかも…」
「麗羅、上になってたよね。彩奈ちゃんが攻められてた。結構間近で見てたよ。彩奈ちゃんがあんあん言ってて、なかなか気づかなかったけど」
「どっちが攻めとか受けとか、まだよくわからないよ」
「そういうのリバって言うらしいよ。どっちにもなれるタイプ」
「そうなの?」
「ねぇ、麗羅ちゃんたちさぁ、あたしたちと交換しない?」
「なにを?」
「ウチらって、一応友恵がタチだけどさ、ほんとはお互いネコなんだよね。いつも違和感があってさ。それにあたしたち長いから、刺激が欲しいの」
 菜奈はそう言って、あたしの手をそっと握る。あたしには自覚が足りなくて、ただアヤのことが好きなだけでこうなったから、タチとかネコとかリバとかそういう単語を実際に人から聞くのは初めてだし、菜奈に手を握られて寄り添われて、ハスキーな声で「刺激が欲しいの」と囁かれて、あたしは酷く緊張してますますからだを硬直させる。
「菜奈ちゃん、女の子が好きなの?」とへんなイントネーションで聞く。
「麗羅と同じだよ」
「あたし、アヤのことが好きなだけよ」
「あたしだって、友恵のことが好きなだけだよ。それは変わらない気持ちだけど、そのうち退屈してくるの」
「そう…かな」
「あたしは麗羅のカラダに興味があるだけ、安心して」
 菜奈はあたしの手を握る。手が震えてる。不安そうにあたしの目を見つめる。あたしの気持ちを探ろうとしている。かわいい男の子みたいな菜奈は、見た目と違って強引じゃないし、多分あたしより怖がっている。
「菜奈ちゃん、あたしとアヤじゃないとだめ?」
「麗羅だけでもいいよ」
「ううん、そうじゃなくて…、菜奈って男の子には興味ないの?」
「全然」
「そっか…そうだよね」
「どうして?」
 生温い風が街路樹をざわめかせ、あたしは夜空を見上げる。菜奈が囁く。ねぇ、どうして。

「はい、五千円から。千二百円のお返しになります。ありがとうございまーす」
 あたしはバスタオルを体に撒いて、宅配ピザを受け取る。ドアを閉める。
 茶髪の配達員は慣れているみたいだったけど、終始下を向いていた。汗だくの女子中学生がバスタオルを体に撒いて、部屋から志保と亮子ちゃんの二人分の喘ぎ声が聞こえてくる状況は、あたしだったら切羽詰まってしまう。
 ピザをテーブルに置いて、箱を開ける。一切れ食べる。仰向けの優くんの頭を跨いでいた志保がベッドの上を這う。ピザを取って、一切れを亮子ちゃんに渡す。激しく突き上げられている最中の亮子ちゃんは、ピザなんか食べられる状況じゃない。
「あれ、イカのトッピングは?」と志保が聞く。
「ないよ。選んでないもん」
「お姉ちゃん、それアタシのウーロン茶」
「ウーロン茶もう一本あるよ」
 志保はウーロン茶のカップにストローを挿す。一口飲む。ベッドの縁に座り直す。
「ピザ屋さん、へんな顔しなかった?」
「ううん、慣れてるみたいだったよ」
「ふぅん。うちらみたいな子って、多いのかな?」
「そういうわけじゃないとおもうけど…」
 優くんと亮子ちゃんが体位を変える。うつぶせになった亮子ちゃんを、後ろから優くんが突く。亮子ちゃんが受け取ったはずのピザを優くんが咥える。
 志保はリモコンを取って、テレビを点ける。チャンネルを回す。民放は映りが悪いし、有料放送はエッチなチャンネルばかり。志保はリモコンを投げ出して、あたしに身を寄せる。
「お姉ちゃん、ちゅーして」
「志保、唇腫れてるよ」
「いいの、ちゅーして、して」
 あたしは志保に唇を重ねる。熱く火照った志保の唇に舌を這わせる。そっと滑り込む。絡める。音を立てて絡める。抱きしめる。志保はあたしや優くんよりもキス魔になってしまって、見境無くキスばかりする。あたしは唇をすりあわせながら囁く。
「こういうの、好き?」
「みんなでセックスするのは好き」
「うん…」
「アヤちゃんともしたい」
「うーん…」
「だめ?」
 あたしは唇を離して、志保を抱きかかえる。あたしの膝の上に載せる。
「志保は優くんとならいくらでもエッチさせてあげる。でもアヤはだめよ」
「どうして?」
「アヤはあたしの大切なひとだから」
 志保は曖昧に頷く。あたしを抱きしめる。志保はお姉ちゃんがだいじ、と囁く。志保のからだはあたしより細くて、軽くて、あったかい。痩せた肩越しに、間接照明に照らされた趣味の悪い絵と、鏡に映ったあたしたちを見つめる。快楽を貪って艶めかしく蠢く幼いからだ。抱き合うあたしたちの傍らで、亮子ちゃんが今度は仰向けになる。覆い被さった優くんが突き下ろして、二人の股間から悲惨な音が響く。ゆさゆさ揺れる。頬を真っ赤にして、かすれた悲鳴を上げて、あたしに腕を伸ばす。あたしが手を握ると、全身を痙攣させて絶頂する。
「はっ、ひっ、とまっ、とまって…」
「きもちよかったの?」と優くんは動きを止める。
「んふぅ、きもちひぃ、きもちひぃ、あっ……、あっあっあっあっ、だめっだっあっあっ…あぐっ」
 優くんは痙攣のおさまらない亮子ちゃんを、再び残酷に突き下ろす。亮子ちゃんの薄い顎がピストン運動にがくがく揺れて、あたしやアヤにはない本能の悦びに満ちた表情で、焦点の定まらない目があたしをぼんやり見つめる。
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