R18恋愛官能小説 青山倉庫

69H

07. 鋏

「すごい枝毛だらけでしょ。一日で埃だらけになるの」
 あたしはフローリングの部屋の真ん中に座って、章子に髪をカットしてもらう。章子のレザーケースには、銀色に輝くいろんな形の鋏とか剃刀とか櫛とかが並んでいる。歯がギザギザの鋏を手に取って眺める。
「これって、章子の?」
「違うよ、借りたの」
「自分の道具は持ってないの?」
「持ってないよ。それ全部で五十万以上するよ」
「そんなにするの?」
「美容師の鋏は高いの」
「すごいね。切れ味いいんだ」
「千鶴の髪は切ってあげられるけど、きみの倦怠までは切り落とせないよ」
 章子の鋏が奏でるパチパチという軽快な音を聞きながら、姿見に映る自分のヒドイ顔を観察する。寝起きで瞼が腫れていて、すっぴんだし、顔色も悪いし、美容院の両手が出るポンチョみたいなやつじゃなくて頭を通す穴を開けただけのゴミ袋を被って、とても不憫な子に見える。染めすぎた茶色の髪の毛先が揃えられて、剃刀を当てられる。
「新しい彼氏とは、うまくいってるの?」
「うん…。まあまあ」
「まあまあって何よ。なにか悩んでるの?」
「うーん、悩みってほどじゃないけど」
「なに」
「彼ね、外でしたがるの」
「外?」
「エレベータの中とか、デパートとか、喫茶店とか」
「喫茶店でしてるの? カップル喫茶?」
「ううん、普通の喫茶店だよ。人に見られそうな場所で、触ったりするのが好きみたい」
「大丈夫なの、カレ」
「そんなにイヤじゃないんだけど。あたしが変な男に育てちゃったみたい」
 遠くで電車が通り過ぎる。あたしはリモコンを取ってテレビをつける。早く起きたつもりなのに、もういいともが始まっている。章子があたしの髪の毛をくしゃくしゃにして、刷毛で髪の毛を払い落として、ゴミ袋を破いて、あたしの手を取って、ユニットバスに連れて行く。介護を受けるおばあちゃんみたいに背中を丸めて、洗面台で髪を洗ってもらう。タオルで髪を巻き上げて、水気を吸わせて、ドライヤーをかけてもらって、ワックスをつけてもらう。自分でつけると髪の中に塊を作っちゃうけど、章子につけてもらうと綺麗に仕上がる。
 姿見に映るあたしに微笑みながら、章子は熟れたラズベリーのような艶のある唇であたしの髪の毛先を咥える。

 あたしは裕也のアソコから口を離す。顎から唾液が伸びる。
 あたしは試着室の中で膝をついて、裕也にフェラチオしながら、指先で自分のアソコも刺激する。裕也は試着室のカーテンの隙間から腰を突き出して、あたしにアレコレ命令する。
「アソコの音、聞かせてよ」
 あたしは指先をスナップさせて、ぴちゃぴちゃ、音を出す。太腿がぶるぶる震える。あたしは裕也の体に寄りかかって、彼のアソコにほっぺたをくっつけて、コーデュロイのパンツの生地を掴んで、息を荒げる。あたしはぎこちなく、裕也のペニスを手でしごく。
「指を一本入れて、出し入れしてごらん」
 あたしは中指を入れる。出し入れする。さっきより大きな音がする。近くをお客さんが歩く足音が聞こえる。あたしは息を殺して、指先だけを激しく上下させる。裕也のアソコははちきれそうなくらい大きくなって、硬くて、店員さんが来たらズボンに隠せないかもしれない。裕也はあたしの頭を撫でる。
「もう一本入れてみて」
 あたしは薬指も入れる。ゆっくり出し入れする。少しづつ速く、とても速く、すごく大きな音がする。狭い試着室に粘膜の音が蔓延する。裕也のアソコをしごく。裕也は一度カーテンの外を見て、あたしに言う。
「ねぇ、千鶴。そろそろ入れたいんだけど」
「ここで入れるの?」
「だめか?」
「ダメって言うか、無理だよ。届かないし、絶対、見つかっちゃうよ」
「じゃあ、場所変えよう」
 裕也はあたしに命令するけど、厭なことを強要したりしない。背が高くて、彫が深くて、好き嫌いが分かれる顔だけど、あたしには不釣合いなほどカッコイイ彼氏。章子にも一度会わせたけど、彼女は好みじゃないと言う。
 あたしは裕也に手を曳かれて、結局試着しなかったデニムのパンタロンをレーンに戻して、エスカレータに乗って、ハンズの非常階段の脇に連れて行かれる。裕也が防火扉を背にして座って、あたしは裕也の膝の上にまたがる。裕也はしまえなくなったアソコをハーフコートの中に隠していたけど、あたしは最初からショーツも履かせてもらえない。今日は暖かかったけど、フレアスカートだけじゃやっぱり寒いし、濡れてしまって股間が冷たい。裕也があたしの割れ目に指を滑り込ませながら、あたしの首を抱く。唇を重ねる。最初は唇の先だけで、ついばむみたいに、やがてねっとり、甘く、甘く、絡み合う。
「すごい濡れてるな、お漏らししたみたいに」
「そんなこと言っちゃだめ」
「千鶴のお豆が、びんびんだよ」
「や…だ」
「いやらしいこと、言って欲しいって、最初に言ったのはお前だぜ」
「こんなとこで言わなくてもいいでしょ」
「じゃあ、これから言わないことにするよ。黙ってする」
「いじわる…」
「千鶴はエッチなことを口に出して欲しいタイプなの、出して欲しくないタイプなの?」
「出して欲しい」
「口に?」
「もう、ばか」
 あたしは裕也の肩を叩く。裕也は中指を入れてきて、ゆっくり出し入れしながら、人差し指であたしのお豆を弄る。あたしは体中の力が抜けて、両手を裕也の太腿に突く。背後を他のお客さんが通り過ぎる。ここは柱と防火扉の影になってるから、見えないとおもうけど、投げ出したおとこの足の上におんなが座ってる光景なんて普通じゃない。
「千鶴、乗って」
 裕也があたしの乳房を片手で弄びながら言う。あたしは腰を浮かして、裕也のペニスを体内に沈める。裕也は小刻みに上下に動いて、あたしは裕也の肩を掴んで、唇を重ねたまま、ああすごい、ああすごい、と囁く。舌を入れる。階段をのぼる足音。お客さんの話し声。あたしたちは人目を憚らずにこんなところでキスしてるカップル、そう見えていればいいけど、あたしはさっきからずっと上下に揺れているし、ときどき、ちゅぷちゅぷ、体液が混じりあう音がする。

 ベッドの上で裕也とつながったまま、あたしはリモコンでチャンネルを変える。
 裕也の部屋はケーブルテレビだから、海外のドラマが視聴できる。シリーズ化してるCSIとかHerosとか見放題。セックスしながら真面目に見る気なんてないけど、何か音がないと間が持たない。裕也があたしのお尻を持ち上げて、掬い上げるようにピストンする。あたしのよがり声が、ゴミ箱と小さな本棚と青いカーテンと着替えの入ったクローゼットだけの生活観の無い部屋に響く。自分の声の大きさに驚いてしまう。
「千鶴、きもちいい?」
「きもちいい…よ」
「俺、来週末は実家帰るんだ。試験の結果報告」
 裕也は養成学校を出た介護福祉士で、最近は色々な資格を取るために頑張っている。付き合い始めた頃はいつもいつも図書館に篭って勉強ばかりしてる、生真面目で実直で淡白な性格だった。あたしがいろんなことを教えたら、こんなエロ助になった。
 裕也は一度引き抜いて、指であたしのアソコを広げる。あたしに見せようとして、お尻を持ち上げる。あたしは首を振って嫌がるけど、裕也は舌を入れてきて、ぱっくり割れたあたしの花弁を裕也の舌がつるりと這うのを眇める。唇が密着して、入り口をぐるぐるとかき回される。テレビはCSI:マイアミを流していて、ホレイショは役者さんも声優さんも悪役みたい。容疑者を連行するよりスーツケースに爆弾でも詰めて歩いた方が似合うに違いないとぼんやり考えていると、裕也が再び入ってくる。あたしに見えるように、腰を律動する。膣内の空気が破裂するおと。いやらしいおと。
「一緒に来て欲しいんだけど」
「どこに?」
「だから、実家に」
「裕也の実家って、京都だよね」
「うん」
「もう、桜咲いてるかな」
「観光に行くんじゃないよ」
「わかってるよ」
 裕也があたしを抱き上げて、膝の上に載せる。あたしはベッドのバネを使って上下に飛び跳ねる。さっきよりいやらしい音が響く。裕也は上体を反って、両手をベッドについて、あたしを下から激しく突く。ベッドが軋む。二人とも汗だくで、ファンヒータが暖かい風を送って、灯油の販売車が通り過ぎて、ホレイショが真犯人を逮捕して、裕也のたくましく引き締まった腹筋のうえに指先を載せて、あたしは惨めなくらい弱々しい悲鳴を漏らしながら、裕也の胸に凭れかかって、両脚を引き攣らせて声も出さずに絶頂する。裕也が唇を重ねる。あたしは呻いて、唇を離す。裕也があたしの髪を撫でる。
「ねえ、あたしがイッてるときは、じっとしてて欲しいの」
「あ、うん…。ごめん」
「あたしがイッてるのって、わかんない?」
「今のはわかったけど、時々気づかない」
「そっか。あたしイクって言わないからね」
「震えてたよ」
「どこが?」
「おまんこ」
「もお、どうしてキミはそんなにエッチになっちゃったの?」
「千鶴に調教されたんだよ」
「調教とか言わない」
「ねえ、今度は後ろ向きにつながってみよう」
「どうするの?」
 あたしは腰を浮かして後ろ向きになって、再び裕也のペニスを腹の中に収める。裕也があたしを引き寄せて、あたしは裕也の体の上に仰向けになって、両手で乳首を刺激されて、白い天井を見上げながら裕也の先端に一番感じる部分を突きあげられて、またあられもない声で快感を訴える。
「あたし、なに、着ていけば、いい?」
 裕也のご両親に会うのに、ひらひらの服やジーンズは着ていけない。章子に何か借りなきゃ。

 あらかじめ作っておいた薔薇のプリザーブドフラワーで、章子のためにアレンジを作る。
 いつもはお店の余り物の生花を使うけど、髪を切ってもらって服まで貸してもらったから、たまには贅沢な材料を使う。章子のリップグロスのような艶はないけど、同じくらいありえない赤に染めた。百円均一で買った籠に素焼きの鉢を入れて、フォームを敷き詰めて、ひかげで形を作って、薔薇を挿して、ヒペリカムで色を添える。章子があたしの肩越しに覗き込む。鋏に指先で触れる。
「不思議な形だね」
「生け花鋏だよ。みたことないの?」
 章子は首を横に振る。
「指入れるところがないね」
「小指と薬指で挟むの」
 あたしは鋏を使って、薔薇の茎を少し残して切り落とす。ほんとはだめだけど、ワイヤーもカットできる。章子は立ち上がって、紅茶淹れるねと言って、電気コンロでお湯を沸かす。章子には何人も彼氏がいる。でも彼女は誰も愛していない、誰も愛さないと言う。あたしはその理由を聞かない。遊んでる子は何人かしってるけど、章子はそういう子たちと違って、惚気話も自慢話もしない。ときどきうちに遊びに来て、ベランダでぼんやり外を眺めているときに、男から電話がかかってきても取ろうとしない。
 章子は畳んだ座卓を広げて、ポットとティーカップを置く。紅茶を注ぐ。あたしの分も。章子は一口飲んで、後ろのベッドに凭れかかる。
「結婚するの?」
「それがね、まだちゃんと聞いてないの」
「なに? プロポーズしてもらってないの?」
「うん」
「まあ、無理に言わせるものじゃないからね」
「そうだね…」
「自分からしちゃえばいいじゃん」
「なにを?」
「プロポーズ」
「あはは、それはやだ」
 あたしは仕上げたアレンジを入れるための箱を組み立てる。そっと入れる。リボンは結ばない。蓋を閉じて、テープで止めて、おしまい。破片の散らばった新聞紙は丸めて可燃物のゴミ箱に捨てる。
「できた」
「あ、箱に入れなくてもよかったのに」
「人にぶつかると壊れちゃうよ」
「そっか」
「湿気と直射日光に気をつけてね。大事にしてれば、結構長持ちするから」
「うん、ありがとう」
 箱を座卓の上に置く。章子の隣に座って、テレビをつける。リサイクルショップで五千円で買ったブラウン管の21型テレビは、電源を入れると、ボガ、と音を出す。ぬるくなった紅茶を飲む。時計は七時半をさしている。外はもう真っ暗で、出しっぱなしの洗濯物を取り込む気にならない。ソーラーカーのだん吉が海沿いでバッテリー切れになる頃、章子はベッドに頭をのせて眠っている。あたしはハーフケットをかけてあげる。
 ダウンコートを着て、鍵を持って夕食の材料を買いに出かける。外に出ても息が白くならない。もうすぐ春になる。花屋は今が一番忙しい季節。裕也のご両親はあたしなんかを気に入ってくれるだろうか。あたしは川沿いの道を歩きながら、雲のない澄んだ夜空を見上げる。
 真ん丸のお月様が東の空に浮かんで、黄檗色に輝いている。
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