R18恋愛官能小説 青山倉庫

69H

06. プレゼント


 健二が動き始める。
 あたしは両手の指を絡めて、律動に身を任せる。頭を上げると、健二が枕を頭の下に入れてくれる。あたしの中に突き刺さり、休み無く出入りするペニスを見せ付ける。ベッドが軋む。健二の先端があちこち突き上げて、あたしは押し殺した嗚咽を漏らす。
 健二と付き合い始めて三ヶ月、毎晩あたしの部屋に来て、セックスして、朝になると帰る。一度も避妊してくれなくて、ときどき、一緒に暮らそうと言う。
「サキ、あいしてるよ」
 そう言って健二はあたしの肩を抱いて唇を何度も重ねて、腰を回転させてあたしの内臓をぐちゃぐちゃにかきまわす。お尻の溝を体液が伝う。加湿器が噴き上げる蒸気が揺れる。さっきより濡れていて、健二が動くたびにぴちゃぴちゃ音がする。あたしは熟れて潰れた柿をおもい浮かべる。静岡の田舎で生まれ育ったあたしは、学校の帰りに道端で潰された柿を見るたびに、自分もそのうち熟れすぎて木から落ちて潰されて中身が飛び出して、誰からも見向きもされずいつか土に還るんだと子供心にひどい焦燥を感じていた。
 健二は、イク、イク、と言って、ペニスを抜き取って、あたしのお腹の上に出す。いっぱい飛び散る。じっとしてると、ティッシュを取って拭いてくれる。健二は終わるとベッドから置き出して、座卓の前で煙草を吸う。いつもそうする。二回以上しない。あたしは手を伸ばして、健二の背中を指先で撫でる。汗をかいている。
「あたし、明日、ダンススクールの人たちと飲み会だから、遅くなるよ」
「そう。明後日は?」
「明後日は大丈夫」
「じゃあ、メールするよ」
 健二はベッドに潜り込んで、背を向ける。あたしはその背中を抱く。健二は、サキあったかい、と言う。そのまま寝てしまう。

 ダンススクールの飲み会は断った。
 時計は午後十時を回っていて、帰りの電車は混んでいる。鈴木町駅で降りて、コンビニに寄る。ヨーカドーは閉まっている。ウーロン茶とゆで卵を買う。児童相談所の前を通って、アパートにたどり着く。着替えを畳まずにバッグに詰め込んだから、鍵が見つからなくて、ごそごそしていたらあたしの部屋の前に誰かが立っている。彼はベージュのニット帽を被った頭を下げる。寒そうなジャケットを羽織っただけの格好。
「久しぶり」
「孝志、何しにきたの?」
「話があるんだ」
「あたしはないわ。どいて」
 孝志はドアの前に立ちふさがる。あたしはもう一度、どいて、と言う。孝志は脇に避ける。まだ鍵が見つからない。ロッカーに忘れてきたのかも知れない。孝志は足踏みしながら言う。
「沙紀。お父さんが入院したの、聞いてないの?」
「知ってるわ」
「帰らないのか」
「あんたには関係ないでしょ」
「そうだな」
「そんなことを言いに、わざわざ来たの?」
「違うよ。沙紀に話があるんだ」
「なに?」
「ここ、寒いから。どっか入ろう」
 あたしは渋々、孝志についていく。
 孝志は前の彼氏だったけど、三ヶ月前に別れた。孝志の実家は豆腐屋さんで、長男の彼が家業を継ぐことになると、東京に引っ越したあたしとはせいぜい月に一度くらいしか会えなくなり、あたしは自然消滅は厭だからと言って別れた。それ以来、孝志はあたしに返事ひとつよこさないでいた。
 工場に挟まれた脇道を通って、小さなショットバーに入る。孝志は黒ビールを、あたしはモスコミュールを注文する。テーブルチャージが千円もするのに、出てきたオードブルは貧相だ。この店、絶対潰れる。
「今、ダンサー目指してるんだっけ」
「そういうんじゃないわ。話ってなに?」
 あたしはバッグの中身を出して、ソファの上で整理する。スウェットのポッケにも鍵は入ってない。落としたりしてない。大屋さんに開けてもらうにも、こんな時間じゃ迷惑になる。
「話ってなに?」
 あたしはもう一度聞く。孝志は黒い紙で包装された箱を差し出す。
「なに?」
「プレゼント」
「なんなの、今更…」
「俺、色々悩んだんだ。家のこととか、失踪した弟のこととか。俺も東京に出てこようかなっておもったけど、やっぱりダメだった。沙紀に別れてくれって手紙を受け取って、ずっと考えてたんだ。返事が遅くなってごめん」
 孝志は下を向いてしまう。あたしは運ばれてきたモスコミュールを飲む。バーの天井にはシーリングファンがゆっくり回っていて、大きなダーツボードにメニューが貼ってある。カウンター席に座った客が、煙草に火をつける。煙がゆっくり昇る。EGO-WRAPPINの色彩のブルースが流れる。
 あたしは包装を開いて、黒い箱から紺色の指輪ケースを取り出す。孝志が言う。
「いらなかったら、捨ててくれ」
「あたし、いま…」
「もし、ぼくの期待に応えてくれるなら、戻ってきて欲しい。待ってるから」
 孝志は立ち上がって、お会計を済ませて出て行く。あたしはケースを開く。シルバーリングが光っている。その輝きをぼんやりと眺める。口をつけていない孝志の黒ビールのグラスがいっぱい汗をかいている。

 あたしは健二のアパートに転がり込んだ。結局、鍵は見つからなかった。
 シャワーを浴びて、ベッドに倒れこむまでに、CDのケースとかティッシュの箱とか空き缶とかいろんなものを踏みつけた。一週間前に片付けてあげたばかりなのに、どうやったらこうも完璧に元通りに散らかせるのかわからない。
 健二の上になって、体中を舐めてあげる。首筋、乳首、脇腹、内股、焦らすだけ焦らして、飲み込むときは一気に根元まで。喉の奥で刺激する。唇を滑らせる。飽きるほど何度も何度も。健二が溜息を漏らす。
「サキ、すごいよ。どうしたの?」
「ねえ、健二」
「なに?」
「今日は、朝までしてくれる?」
「どうしちゃったんだよ。いつもマグロちゃんのお前が、あっ、あーっ、すご…」
 あたしは袋を舐めながら、竿をしごく。先端を口に含む。カリ段から根元まで、大きなストローク。先っぽが喉の奥にずんずん突き当たって、咥えたまま咳き込む。健二は腰を上下させて、あたしは動かずに彼のピストンを喉で受け止める。奥まで突きこまれて、健二はあたしの口の中で果てる。少し飲んでしまって、鼻にも入った。あたしはこぼさないように口を離して、健二に覆い被さる。唇を押し付ける。精液を流し込む。
「ぐ、ぶへ。なにするんだよ」
 起き上がろうとする健二の手首を押さえつける。鼻をつまんで、再び唇を押し付ける。残りの精液を流し込む。
「飲みなよ。自分で出したんでしょ」
 健二は泣きそうな目であたしを見る。
「飲んで」
 健二の喉仏が蠕動する。咳き込む。涙が滲む。
「おいしい?」
「なんか、辛い」
 あたしは股間を健二のペニスに擦りつけながら、舌をからめる。精液の匂いがする。精液の味がする。健二が体をずらして、あたしの中に這入ってくる。あたしは四つん這いになったまま、下から激しく突き上げられる。安っぽいパイプベッドが軋んで、散らかった座卓の上に絶妙なバランスで積み上げられたバイク雑誌とDVDと煙草と財布と小説が崩れて、床にばらばらに散らばる。
「けっ、んっ、ひっ、だめ、だめ」
「サキ…、きもちいいよ」
「だめよ、もっとゆっくりして」
「ゆっくりが、いいの?」
「あたしを、ゆっくり味わって。あたしの奥の潤んだヒダのひとつひとつまで」
「エッチだね」
「あたしがイキそうになったら、めちゃくちゃにして」
「サキがそんなこと言う子だなんて、思わなかった」
「イヤ?」
「イヤじゃないよ」
「じゃあ、して。ゆっくり、舐めるみたいに」
 あたしは体を入れ替えて、下になる。健二は言われたとおりにゆっくり、艶かしく腰を波打たせる。速くなりそうだったら、ゆっくり、ゆっくり、と耳元で囁く。エアコンが生ぬるい風を送る。健二は一度抜き取って、先端であたしの割れ目をまさぐって、もう一度入れる。ストロークが螺旋を描く。いろんなところをかきまわす。精液で濡れた唇をすりあわせる。健二の肩を掴んで言う。
「ねぇ、バックでして」
「いいの? お前、怖いって言ってたじゃん」
「いいよ。レイプするみたいに、激しくして」
 ペニスが抜き取られて、あたしはうつ伏せになる。おもいっきり恥ずかしい格好で、背中を反って、アソコを上に向けて、犯って、と呟く。彼が再び這入ってくる。突く。一番奥まで突かれる。あたしはアソコの粘膜がめくれ上がったような気分になって、涎を垂らしながら、青い枕を必死で掴んで、あられもない声をあげて、絶頂する。背中を丸めて、太腿がぶるぶる震える。健二は腰を密着させる。
「サキ、イッた?」
「や…め…」
「なに?」
「やめ…ないで。続けて」
「大丈夫なの?」
「朝までするって、約束でしょ」
 健二は再び動き始める。あたしはベッドのパイプを掴んで、絶頂の余韻もなく硬くなった子宮をごんごん突き下ろされて、彼の顔が見えなくてとても怖いのに、乱暴されてるような気がして、めちゃくちゃ濡れてしまって、恥ずかしくて、きもちよくて、わけがわからなくなって、悲鳴に近い声で、もっと、もっと、とせがむ。
 枕に頭をのせて、前後にゆさゆさ揺れて、真っ黒なブラウン管テレビの画面にあたしの恥ずかしい姿が映っているのを眺める。

 朝、まだ早い時間に、川崎駅で東海道本線に乗る。
 六番線電車が参ります、黄色い線までお下がりください。お隣五番線に電車が到着次第の発車となります。代々木駅構内で転落事故があり、現在ダイヤが乱れて大変ご迷惑をおかけしております。駅構内や電車内で迷惑行為がございましたら、お近くの駅係員または乗務員までお知らせください。当駅では喫煙所を除きまして終日禁煙になっております。駆け込み乗車は危険ですのでおやめください。
 元々、荷物は少なかった。着替えとお財布と飲み物と携帯と孝志の指輪だけ持って、それ以外の家具とか雑貨はリサイクルショップに売却した。ゴミも出したし、忘れ物もない。ダンススクールで出来たばかりの友達と別れるのは辛かったけど、三ヶ月も居れば東京にあたしの居場所なんてないことぐらいわかる。
 電車が動き出す。
 携帯を開いて、メールを打つ。健二くんへ、沙紀です、私は実家に帰ります、突然でごめんなさい、一昨日の夜は、ほんとうはさようならを言おうと思ってました、短い間だったけど、ほんとうにありがとう。しばらく迷って、窓の外から見えるビル群を眺めて、向かいのおじさんがうとうとしてて、あたしは液晶画面を見ずに送信する。
 一時間半くらい電車に揺られて、熱海で乗り換えて、三島でも乗り換えて、静岡駅についたらバスに乗る。水道町で降りる。ケーキ屋さんでフランボワーズを買う。東京みたいに簡単にはタクシーが捕まらないから、歩く。別に何かに急かされることもない。歩けばいい。緩やかな坂道を登って、増田豆腐店の幟が見えてくる。リヤカーに豆腐の入った青いケースを載せる孝志の姿を見つける。
 孝志はあたしに気づくと、手を振る。あたしも手を振る。
 春の匂いが混じった柔らかな風が、青い幟をはためかせている。
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