R18恋愛官能小説 青山倉庫

ガマガエルと鶴の群れ

第20話「セフレ」

 九月下旬のシルバーウィーク、ぼくたちは撮影旅行で南の観光地へ来ました。
「ごめん、瑠偉くん。遅くなった」
 カオリンが公園の入り口に駆けてくる。ぼくたちはみんなバラバラに街を撮影に出たのだけど、ぼくはカオリンと公園で待ち合わせた。残暑が厳しくて、汗が滲む。日陰でも蒸し暑い。
「沖田につかまった?」
「うん、あの人ほんとしつこい」
「愛ちゃんたちは最初から沖田と関わらないようにしてるね」
「あたしがいろいろ話したもん」
「そうなんだ。どうりで」
「沖田くん、アーケードで女子中学生撮ってた。あたしがいたからいいけど、ヤバイよあのひと、捕まるよ」
「捕まったら知らん顔しよう」
「そうだね」
 先週も沖田は神社で撮影したときに、お手水にいる親子連れや、制服姿の女子中学生を後ろから盗み撮りしていて、掃除をしていたおばさんに「何撮ってるの?」と呼び止められた。そのとき、沖田は素早くSDカードをフォーマットして「撮影練習なので何も保存してません」と言い張った。保存した写真を全部消さなきゃいけないくらい卑屈な写真のことを世間では『盗撮』といいます。
 ぼくたちは城塞跡のあるお堀をつたって、カップルしかいない百合園へ。花の写真は花だけ撮っても美的な調和を得られない。花はなにかとカップリングするための背景です。だから、ぼくは車椅子のおばあさんとそれを押すおじいさんを画面におさめ、百合の花の列を添える。
「ねえ、瑠偉くん。あたしたちって、つきあってることになるのかな?」
 カオリンが聞く。振り返る。
「どっちがいい?」
「うーん、あたしは、曖昧なままでいたいかな…」
「ぼくはキープなの?」
「違うよ、瑠偉を好きになると、あたし嫉妬するよ」
「誰でも嫉妬するものじゃないの?」
「そうだけど、瑠偉は、いろんな子と寝るじゃない」
 背筋が凍る。部室を貰ったときの飲み会で、斉藤さんたちが何かをしっている雰囲気があったことを思い出す。
「しってるの?」
「しってるよ、ずっと前から」
「いつから?」
 カオリンはうつむいて、石垣に沿って歩きながら言う。
「瑠偉くんが高校生のとき、噂になってた。ネットで」
「あ…」
 厭な記憶が蘇る。
 ぼくがSNSを嫌いになった原因ですが、ぼくが高校三年のときのこと。受験も終わって進学先も決まって暇が出来て、二年生のときより女の子たちと遊んでいました。そのとき仲が良かった小六の安奈ちゃんの女子グループをSNSに誘って、乱交サークルをつくって、セックスの写真や動画を共有していたのですが、同じSNSでセフレだった高二の潤那たちに知られてしまい、共有写真を流出されてしまったのです。
 流出の危険もあるかもしれないとぼんやり考えていたぼくは、共有写真は全部トリミングして自分の顔が映らないようにしていたのですが、そんなリスクヘッジのお陰で首の皮一枚で官憲の縄にかかることを免れました。しかし、噂は瞬く間に知り合いの間で拡がり、すぐにぼくの名前は特定されたのです。
 噂を知った高校からは、担任に面談を受けただけで、事実関係の確認はありませんでした。進学先も決まっていたぼくの不祥事で学校の面子に傷がつくのを立派な先生方が嫌ったのです。あのときほど、あのサラリーマン教師たちの事なかれ主義にあやかったことはありません。
 児童ポルノ法のお陰でぼくの写真は必要以上に拡散することもなく、P2Pも下火の昨今においては、関係のない第三者がみることもないとたかをくくっていたのですが。
「あたし、最初はやだっておもってたけど…。瑠偉くんと同じサークルで一年過ごしてきたから、瑠偉くんがテニサーとかに入ってるがっついた男と全然違うことがわかってきて、というかちょっと惹かれてきて。不思議だね、やっぱ魅力あるんだよ瑠偉くん。あたし性欲あんまり無い方なのに、つきあい始めてからヤバイもん…」
「カオリンは、そういう関係でいいの?」
「いいよ…それが今は一番いいかも。先のことはわからないけど…」
 カオリンが手を曳く。石垣の影になっているベンチに座る。陽が傾いて、すこし涼しくなってきた。カオリンとキスをする。片手で胸を触る。背が小さい割に、カオリンは胸が大きい。
「ここでする?」とカオリンが聞く。
「一回ホテルに戻ろっか」
「そうだね、見られそうだもんね」
 ぼくたちは手をつないで、ホテルへ戻る。

 ぼくたちが泊まっているホテルの裏手にある居酒屋で食事。
 夕方先に部屋に戻ったぼくとカオリンは、食事の時間ギリギリまで散々セックスしていました。タイマーが鳴ってもカオリンは着替えずに、あたし沖田と会いたくないから食事パス、と言った。
「沖田にあたし瑠偉くんとつきあってるって言おうかな…」
「言う?」
「瑠偉くんが迷惑しそう」
「ぼくは平気だよ」
「あーやっぱ会いたくない。あの顔見るだけで食欲なくす。沖田くんクチャラーだしススラーだし煙草吸うし、前歯汚いし老けてるし…。気分悪いから寝てるって斉藤さんに伝えて」
 ぼくはカオリンの部屋からこっそり出て、居酒屋まで一人で行く。みんな先に集まって食べ始めている。ぼくは手前の席に座る。
「あれ、カオリンは?」と沖田。
「なんか具合悪いから食事パスだって」
「フーン」
 沖田はスマホを弄り始める。カオリンにメールしているかもしれない。斉藤さんが乾杯の音頭を取る。愛ちゃんと莉奈が奥に座っているから、ぼくはまた沖田の目の前です。
 適当に焼き魚と刺身の盛り合わせ、串盛り、サラダ、地鶏の炭火焼き、みんなでつまめるものを追加で注文する。
「愛ちゃんたち、どこまで行った?」と満井さんが聞く。
「あたしは神社に行って、莉奈は空港方面?」と愛ちゃん。
「そう、空港行こうとしたら、路上ライブやってて、撮影禁止っぽかったからノーファインダーで撮ってました」
「ノーファインダーで撮れるの?」と満井さんが驚く。
「撮れますよ。結構絞るけど、練習すれば簡単ですよね」
「すごいね、瑠偉もノーファインダーやるよね」
 急に話を振られて戸惑う。
「オスカーはファインダー自体あてにならないので」
「フィルムユーザってすげーな」
 莉奈が愛ちゃんの影から身を乗り出す。
「瑠偉くん、いまオスカー持ってる?」
 ぼくは鞄に入れたままのオスカーを取り出す。莉奈に手渡す。莉奈はシャッター速度を60にして、絞りを開放する。
「M4かー、いいなー。フィルムは?」
「イルフォードの400だから、ここでも撮れるよ」
 莉奈がレンズを上からみて測距する。フィルムを巻き上げて、片手で構えて向かいの斉藤さんと満井さんに向ける。二人ともキメ顔。体を前後に動かして微調整し、シャッターを切る。
「あれ、いまフォーカス合わせた?」と満井さんが不思議がる。
「合わせましたよ」
「片手で合わせられるの?」
「構える前に合わせるんですよ、ここ見て」
「あーなるほどーそれがタネかーって余計スゴイわ!」
 莉奈がカメラを差し出す。受け取ろうと手を伸ばすと、莉奈はカメラを高く掲げる。
「これでハメ撮りするの?」
 愛ちゃんと斉藤さんが笑う。突然のことで、何を聞かれたかわからない。
「えっなに? 聞こえなかった」
「瑠偉くん、ハメ撮りするんだよね。超ヤリチンだよね」
「ちっ、ちがいますよ、ぼく童貞ですよ」
「アハハッ、目が合うとヤられるって橘さんが言ってたよ」
「橘さんってホルモンの?」
「そう」
「ぼくあの人のことよく知らないし…」
「カオリンともヤった?」
 愛ちゃんがますます笑う。ぼくは莉奈が油断した隙にカメラを取り返す。愛ちゃんに覆い被さるようになってしまって、二人ともきゃーきゃー大騒ぎ。隣の客が振り返るほど。
「てかカオリンって処女っぽいけどな」と斉藤さん。
「あーわかる、すげえ遊んでるか、処女かのどっちかだよね。てかカオリン理想高そうだからなー」
 満井さんがそう言うと、沖田が弄っていたスマホをテーブルに置く。ビールを飲んで言う。
「俺、最近カオリンと仲良しなんすよ。今日の撮影も一緒に行ったし」
「マジで? お前彼女と別れたばっかでなにしてんだよ」と斉藤さん。
「いや、結構前からメールでやりとりしてますよ。一緒にご飯食べることもあるし」
 カオリンが一度だけ沖田の誘いを断れずに、マクドナルドでやっすい食事をしたことを聞いた。そのときにすぐ近くで食べたことで、沖田のくちゃくちゃをダイレクトに味わってしまって、嫌悪感を感じるようになったらしい。
「どうよカオリン、処女だってよ」と満井さんが沖田を小突く。
「あーそうですね、処女なんですかね。処女ってめんどくさいらしいですけど」
「初めての男になっちゃう感じ?」
「いや、仲はいいけどまだそこまでは…」
「なんだよ、急がないと盗られちゃうぜああいう可愛い子は。ちょっと仲良くなったら早めに誘っちゃわないとだめだよ」
「そうすかねー。ちょっと俺も幸せになってみたいかなー。元カノがちょっと酷すぎましたからね」
「あれだろ、食事の時しか呼ばれないんだろ」と斉藤さん。
「ええまあ」
「てかヤってたの? 元カノとは」
「そりゃ一応は。てか斉藤さんの彼女の話もしてくださいよ」
「俺のはいいだろ、さんざ話したろ」
「結婚するんですか?」
「あー、俺はねー、結婚はどうでもいいけど、子供好きだから、子供は欲しいんだよね」
「そうですね、俺も子供だけ欲しいです」
 愛ちゃんと莉奈が目で語り合っている。斉藤さんも沖田も同じ台詞を言っているのに意味が違って聞こえる。その上、二人はカオリンが沖田を嫌っていることをしっています。ぼくは焼き鳥を串から外すのに夢中。沖田はもう酔っぱらって顔が真っ赤。
「今度の休みに温泉行きたいと思ってるんですよ」
「おーっ、カオリン誘っちゃう?」と満井さんが冷やかす。
「いやー、どーなんすかね、えへへへ」
 へらへら嗤いながら、ぼくが外したばかりの焼き鳥を口に放り込んでくっちゃくっちゃくっちゃ。大皿から取り分けるのもぼくや愛ちゃんたちがやって、沖田はもりもり食べるだけ。沖田と二人だけで飲みに行くと煙草をめちゃくちゃ吸って全然飲まないからわからなかったけれど、お酒に弱いのかもしれません。ちょっとお手洗い、と言って沖田は席を立つ。
 斉藤さんが愛ちゃんと莉奈を交互に指さして聞く。
「二人さ、カオリンと仲良いの?」
「あたしは愛経由で知り合ったんですけど、すごい可愛い子ですよ」と莉奈。
「まあ、仕草とかね。ちょっとロリコン趣味だけどね」と斉藤さんが腕を組む。
「見た目めっちゃ幼いですよね。初めて会ったとき、あたし、えっ大学生?って思ったけど」
「女子高生だよねどことなく」
「ですよね、カオリンってタイプ同じ男の子がすきだから…」
「タイプ同じ?」
「んーと、カオリン可愛い系だから、背の高い人とか好きそうじゃないですか。でも同じ可愛い系が好きだって」と言ってぼくを見る。
「つまり沖田じゃないってことだな」
 愛ちゃんと莉奈は顔を見合わせて、うーんないないないない、と言って嗤う。スマホが振動する。カオリンからメールが来ている。確認する。
『沖田のメールがめっちゃウザイ(怒』
 ぼくは席を立つ。お手洗い行ってきます。通路の突き当たり。男子トイレに入る。沖田が手洗い場の向かいの壁にもたれかかって誰かにメールしている。ちょっと顔をあげるけど、ぼくを無視してすぐスマホに目を落とす。
「カオリンなら部屋で寝てるよ」とぼくは言う。
 沖田は口を半開きでスマホに集中していて、一瞬こっちをみるけど無視。ぼくは個室で用を足す。またスマホが振動する。確認する。
『沖田くんから温泉行かないかって誘われた。気持ち悪い通り越して、怖いよ…。どうやって断ればいい?』
 個室を出る。沖田はまだスマホを弄ってる。ぼくは洗面台の前に立って手を洗いながら言う。
「カオリンは諦めなよ」
 沖田はしばらくぼくを無視してスマホを弄っていたけど、急にスマホを閉じて隣の洗面台に立つ。
「なんすかそれ、僻みっすか?」
 そう言って沖田は顔を洗い始める。転校してきて友達が居なかった時代からこのどうしようもない男に絡まれ続けてきて、おとなしく支えてやった挙句、なにもかも仇で返された。もうこいつには何も期待できない。ぼくはスマホの動画を起動する。カオリンの動画を再生する。狭いお手洗いにカオリンの喘ぎ声がこだまする。顔を洗っていた沖田が上体を起こす。ぼくは洗面台の鏡越しにカオリンのハメ撮り動画をみせる。
「カオリン、ぼくのセフレだから」
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