R18恋愛官能小説 青山倉庫

ガマガエルと鶴の群れ

第12話「モデルの子」

 ぼくたちは地方の観光地へ撮影旅行に来ています。
 写真サークルの良いところは、撮影旅行という名目で、いろいろな観光地や寒村を巡ることができること。旅行するだけのサークルもありますが、明確な目的意識のない旅行を月に二度もやっていればスグに飽きてしまいます。
 大きな商店街みたいなところを歩きながら、ぼくたちは街の風景を撮影して回る。斉藤さんは神社方面に、満井さんは港へ向かった。ぼくとカオリンは商店街を歩き、すぐ後ろから沖田がついてくる。沖田は中判カメラを手にしていて、新幹線の中でひとしきり自慢して満足していた。
「修学旅行生が多いね」とカオリンが言う。
「いまそういう時期なのかな?」
 目の前を女子高生の集団が通過し、立ち止まると、背後でカシャンとシャッター音が響く。沖田がフリッツ・ビクターの中判を構えて、高校生たちを撮る。女子高生の一人が気づいて、沖田を指さす。サキちゃんアレ絶対撮られたよ、文句いいなよ、やだよ気持ち悪い。沖田は下を向いたままフィルムを巻きあげて、今度は振り返っているぼくとカオリンを撮る。シャッターが切れる瞬間、ぼくもカオリンも顔を逸らす。
「昼食って、どこに集まるんだっけ?」とカオリン。
「なんとか公会堂の前かな?」
「瑠偉くん、場所わかる?」
「マップ見ればわかるよ」
 カオリンがスマホを出してマップを表示する。拡大する。沖田が割り込んで公会堂の場所を指さして、ここだよと言う。カオリンはピンを差す。
「あたし水車小屋観に行くけど、瑠偉くんはどうする?」
「ぼくは山頂までいくよ」
「一人の方が撮影はかどるもんね」
 ぼくたちは大通りを北上する。沖田がどうでもいい物を撮っているタイミングを見計らって、ぼくは撮りたいものを撮る。馬を連れた御者、修学旅行の中高生、出前の配達バイクに乗ったオジサン、アイスを頬張る子供とその母親、写真を取り合っている女の子たち。写真を撮るときに明確な被写体とテーマがなければ、レンジファインダーは焦点を合わせることすら難しい。ファインダーからみえる世界は実像と陸続きで、右目で覗いて左目も開けば空中に50ミリのブライトフレームが浮かんでいるようなカメラでは、構えて画作りする余裕は無い。だからぼくはこのカメラを大日本光学のI3よりも多用する。写真を撮るのは自分自身であって、被写体とぼくとの間に介在するだけのカメラには何も主張して欲しくない。沖田のようにカメラに写真を撮らされる人間にはなりたくない。
 その沖田は中判フィルムカメラの扱いに慣れていなくて、どんどん引き離されるから、一枚撮っては駆け足でぼくたちに追いすがる。真似撮りの癖は相変わらずだけど、ぼくは沖田がなにかにレンズを向けたタイミングを見計らって、別のものにカメラを向ける。通りかかった学生たちも、堂々と写真を撮るぼくとカオリンにはあまり関心を示さない。沖田のように下心を抱いて、中判のように何を撮っているかわかりにくい撮影スタイルのカメラでこっそり女の子を撮影していては、盗撮を疑われてしまうのも無理はありません。
「じゃあ、瑠偉くん。後でね」
 カオリンが手を振って水車小屋へ向かう。ぼくは丘の一番上を目指して歩く。振り返ると、沖田はカオリンについていく。サークルで唯一の女子である上に、カオリンはあまり自分の意志表示をしないから、そうやって沖田みたいな男につきまとわれやすい。

 定食屋で昼食。
 ぼくは沖田から一番離れた席に座る。となりでうどんでも食われたら食欲をなくす。いまチラ見したら紙ナプキンで鼻くそをほじっていた。
「天候悪いよな」と斉藤さんが呟く。
「降るなら降る、晴れるなら晴れる、曇るならはっきりくっきりどんより鬱々と曇ってほしいね」と満井さん。
「どうすっかな、女の子ナンパして早めに飲み行っちゃう?」
「修学旅行生ばっかだよ。撮っても載せられないだろうし」
「まあねー」
 沖田が天麩羅定食を頬張りながら手を挙げる。
「あの、聞きたいことがあるんすけど」
「なに?」と斉藤さん。
「モデルに許可もらえば、ポートレート掲載できるんですよね?」
「できるけど、期間指定があるよ。永久掲載はできない」
「あー、そっかー」
 満井さんの生姜焼き定食が運ばれてくる。ぼくが注文した海鮮丼はまだこない。
「モデル撮影するの?」と満井さんが聞く。
「あーいや、読モの子と知り合ったので、こんど撮らせて貰おうかなーと」
「いいじゃん、なにに載ってる子?」
「あーそこまでは聞いてないっす」
「沖田くん、彼女の写真撮ればいいじゃん」と斉藤さん。
「いやー、それはやりたくないっす」
「なんで?」
「身内みたいなものなので」
「じゃあ読モならいいの?」
「それはそれじゃないですか。斉藤さんもモデルの写真載せてるし」
「俺、彼女の写真も載ってるよ」
「まじっすか?」
「身内は載せない、自分も載せない、でも他人なら、モデルやってる子なら、ってダブスタじゃね? 人撮るのって、相応の覚悟がいるんだよ。瑠偉に聞いてみな」
 急に振られてぼくはちょっと慌てるのだけど、沖田はぼくになにも聞かず、ああそうかー難しいなーといい加減な台詞を棒読みする。
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