R18恋愛官能小説 青山倉庫

ガマガエルと鶴の群れ

第10話「撮影旅行」

 ゴールデンウィーク三日目の早朝、撮影旅行です。
 駅前で待ち合わせたぼくたちは時間には全員集まる。沖田はコンビニでずーっと煙草を吸っていて臭い。ぼくたちは斉藤さんのミニバンで移動する。首都高から東北自動車道に入り、パーキングエリアでぼくは運転を代る。斉藤さんは狭い首都高でもめちゃくちゃ飛ばすけど、ぼくは安全運転。沖田が助手席に座って、朝方はいびきをかいて寝ていたのだけど、突然目を覚ます。
「ああ? いまどこ?」と沖田。
「まだ半分だよ」
「あー、まだそんなもんかぁ」と大あくび。
「満井さんがお手洗い行きたいみたいなんで、次のサービスエリアでも駐まるよ」
「ふん、高速なんだからもうちょっと出してもいいよ」
「安全運転でいくよ、いっぱい人乗ってるし」
「疲れたら交代するよ」
 後ろでカメラを窓の外に構えていた斉藤さんが顔を上げる。
「お前こないだ横浜の撮影会で鳥かなんか避けようとしてスったじゃねえか」
「あれはー、自分の車だからいいんですよ」
「俺の車は運転するな、危ない」
 斉藤さんと満井さんはカメラを持って窓の外に構えて、カオリンはスマホでマップをみながらぼくをナビする。沖田は寝てばかりか、目を覚ませば運転にけちをつける。しばらくするとスマホに目を落とし、ツイッターを眺める。ときどきツイートする。
 下道に入ってファミレスで休憩する。
 ぼくらは禁煙席で食事を摂るのだけど、沖田は入り口で煙草を吸う。休憩の度に二本ずつ吸う。吸いすぎて前歯が真っ黒です。
「庇村って雪の時期が綺麗なんじゃないですか?」と沖田が席に着くなり言う。
「庇村じゃなくて大守村だよ、あれ、予定変更した連絡してるよね?」と満井さん。
「あれ、メールきてました?」
「送ったよ。届いてない?」
 沖田はスマホでメールを確認する。あーありました、と言う。
「大守村ってめっちゃ遠いじゃないすか」
「だから一泊するんだよ」
 行き先も把握していないようです。最近の沖田は撮影に来ると、気分が乗らないと言って写真をほとんど撮らない。新しい記事も他の四人で持ち回りしていて、沖田は碌に写真もあげていない。
「そういや新入生来ない理由がわかったよ」と満井さんが言う。
「なんですか?」とぼく。
「新勧パンフに載ってない」
「え? なんで?」
「橘連絡とれなくてわかんない、沖田くん、新勧パンフ掲載の原稿って、橘に送ったよね?」
 新入生向けにゼミや必修のとりやすさなどを紹介するパンフレットを発行する『姫百合ホルモン部』の部長が橘さん。内容が過激だから大学からは公式サークルとして認められていないけれど、パンフレットの発行部数は学生の人数より多い。
「あれ、学生課に出しただけですよ」
「へ?」
 沖田以外の全員が顔を上げて唖然とする。
「橘には渡してない?」と斉藤さん。
「誰です、それ?」
「お前、姫百合にいてホルモン部しらないのかよ」
「いやぁ、しらないっす」
「うわぁ、どうりで新入生来ないわけだ」
 みんな頭を抱える。黙り込む。沖田はスマホを弄り始める。ぼくがお手洗いに行こうと席を立つと、カオリンに手を曳かれる。一度、店の外に出る。
「どうしたの?」
「さっきね、駐車場から歩いてるときなんだけど」
「うん」
「沖田くん、なんか手に小型カメラ持ってて…」
「まじで?」
「あたし撮られたかもしれない」
「えー? でも同じサークルなんだし、撮りたいなら言えばいいのに」
「ね、隠し撮りとか超キモい。てかあたしがメールのやりとりで優しくしてたのが悪いのかな?」
「彼、勘違いしそうだね…」
「でも、沖田くんって彼女いるよね?」
「うん、へんなオバサンみたいなのがいるよ」
「なんか男の人ってよくわかんない」
「ほんとに小型カメラだった?」
「多分…。ちょっと恐いから、次運転変わるよね、隣に座ってくれる?」
「わかった」

 ぼくは後部座席でカオリンと並んで座っていて、ずっとカオリンが密着してて、つい昨日まで女子高生二人と乱交していたことをリアルに思い出してしまって、勃起してしまう。パーカーの下でみぞおちまで反り返ったおちんちんを隠すため、ぼくは革製のボストンバッグを膝に抱いて、ノートパソコンをのせて、過去に撮った写真を見せ合う。満井さんは運転する斉藤さんと喋っていて、沖田はまた助手席で寝ている。
 斉藤さんの運転で、ぼくたちは大守村の河川敷に到着する。
 機材をおろして、ぼくたちはめいめい撮影に向かう。カオリンはぼくにくっついてきて、沖田もぼくの後についてくる。沖田はナイロンコートに軍用ブーツ、革の手袋をはめて、オジサン臭い帽子を被る。三脚を担いでずっと後をついてくる。ぼくは水辺で立ち止まって、そこから見える鉄橋を一枚撮影する。カオリンは水の流れを撮る。沖田が三脚を拡げながら言う。
「カオリン、いいと思った場面は最低三枚は撮った方がいいよ。オートブラケットで露出を変えながら三枚撮って、あとで選別すればいいから」
「オートブラケット?」
「あー、富士のミラーレスにはついてないかも。この露出ダイヤルの…」
 そう言いながら沖田はカオリンのミラーレスを手にとって説明する。カオリンが上体を反らす。抱かれるのを厭がる猫みたいです。
「まあ、無理せずイイ場面は多めに撮っておかないとね。フィルムは連射できないからこういう技は使えないんだけどね」とぼくを見て言う。
 電車が通りかかる。ぼくは鉄橋をもう一枚撮影する。カオリンも撮る。沖田は準備ができていない。斉藤さんは川を下って望遠で狙い、満井さんは丘の斜面を登って広角で撮る。電車が通過するのは二時間に一回。貴重なチャンスです。
「瑠偉くん撮れた? 鉄道デビューおめでとう」と沖田が言う。
 ぼくは沖田を無視して村の景色が見渡せる丘へ向かう。カオリンもついてくる。斉藤さんと満井さんの姿は見えない。撮るもののない場所で三脚を拡げた沖田は河川敷に置き去りにする。

 夜が更けて、ぼくたちは旅館に一度チェックインした後、また河川敷に戻ってきてバーベキューをする。リゾート旅館で食事付きは選べない。実家の資産自慢に余念のない沖田は食事付きを主張したのだけど、カオリンが厭がった。
 満井さんが花火を持って来ていて、カオリンと沖田が打ち上げ花火をあげている。ぼくは斉藤さんと一緒に肉を焼く。
「フィルム何本つかった?」と斉藤さん。
「今日は三本ですね、まだ五本くらいあります」
「結構撮ってるね、フィルムの方がヒット率高くない?」
「そうですね、N700で撮るより捨てる率低いです」
 斉藤さんが花火を見上げる。満井さんが三脚で花火を撮影している。沖田は花火や夜景の撮影を得意と言っているけど、満井さんの方が圧倒的に巧い。去年の夏に撮った線香花火の写真は学内誌の表紙になった。
「気になったんだけどさ」
「はい?」
「沖田、あいつ盗撮とかしてないよね?」
「なんでですか?」
「いろいろ総合して考えたんだけど、あいつIRフィルター持ってるじゃん」
「持ってますね」
「で、フィールドスコープとか、監視用の小型カメラとか買ってるのよ。本人は野鳥を撮影するとか、猫を撮るとか言ってるけどさ。広角レンズも買ってるよね確か。これって、盗撮犯罪への入り口なんじゃないかなって思うわけ、わかる?」
「わかります」
「なんていうか、経験の少ないムッツリスケベが最初に買いそうなグッズばっかなんだよね。別にそれは個人の自由だから、勝手に犯罪おかして捕まってもしったこっちゃないんだけど、サークルに入ったままなんかやられると、五人だけの零細サークルじゃ結構致命的じゃん」
「そうですね、彼のせいで勧誘もできなかったし」
「まあね。入学式後の新勧やってる余裕がなかった俺らも悪いんだけど、ホルモンに載らなかったのはちょっと厳しいよな」
 肉が焼けてくると、花火を楽しんでいた三人が集まる。ぼくと斉藤さん以外はビールを飲む。肉を焼いているぼくをカオリンが撮る。満井さんが肉を撮る。精機光学のカメラは肉や炭火の炎に美しい色飽和を起こすから羨ましい。飛びや潰れを忌避するリアリズムがデジカメ界に蔓延しているけれど、ぼくたちは光学顕微鏡で検体を観察する科学者ではないのだ。
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