R18恋愛官能小説 青山倉庫

ガマガエルと鶴の群れ

第8話「俺の彼女」

 授業の後、大学から出たところの喫茶店で待ち合わせ。
 すでに沖田と斉藤さんが来てて、満井さんとカオリンはまだ来ていない。斉藤さんはN4を弄っていて、沖田はタブレット端末を弄っている。
「早いですね」とぼく。
「瑠偉くん、カオリンみなかった?」と沖田。
「みてないよ、授業一緒じゃないし」
「カオリン一番先に来てたみたいだけど、待ちくたびれてどっかふらふらしてるはずだよ」
「じゃあメールしてみる」
 ぼくはカオリンにメールする。今どこ? 沖田がスマホを取り出して言う。
「俺、カオリンにメアド教えて貰ってないや、ちょっと教えてくれる?」と沖田。
「あー、いいのかなそれ。本人に聞いてみる」
 もう一度メールを送る。いま向かってる、メアドは別にいいよ、と返事を貰う。ぼくは沖田にカオリンのメアドを送る。カウンターまで行って、珈琲とブラウニーを買う。戻ってくると、カオリンが席に着いて、自分の写真を斉藤さんに見せている。
「俺さあ、写真管理アプリが欲しいんだよね」と沖田が言う。
「フォトフォリオじゃだめなの?」
「俺Macもってないし、できればスマホで管理したい」
「管理ってどういう…」
「カテゴリ分けしたり、検索しやすくしたり」
「なんか既製でアプリがあるんじゃないかな?」
「探したけどないのよこれが。ちょっと考えてるのが、写真全体の色相で自動カテゴリ分けする機能と、タグつけと、あとは日時管理かな。カレンダーにその日撮った写真がサムネ表示されると便利だよ」
 女性の店員さんがパスタを持って現れる。おまたせしました。沖田の前に置く。
「いやぁ、腹減っちゃって」と沖田が言う。
「タブレット買ったの?」
「いや、前から持ってるよ」
 沖田は写真アイコンをタップして、イベントを開く。自分で撮った写真が並ぶ。
「友達と岡山に旅行したんだけどさ、結構寒い時期でキツかったよ」
 そう言いながら、頼んでもいないのに旅行写真を見せる。沖田が友達と称した人たちは、太って禿げたオジサンと、太って気持ち悪い笑みを顔に貼り付けた男と、血色の悪いガリガリの獅子舞の三人。それぞれを紹介してくれる。禿げたオジサンは「キネコさん」、太って気持ち悪い笑みを顔に貼り付けた男は「キップルさん」、血色の悪いガリガリの獅子舞は「ダダ夫さん」。ぼくは、あー、とか、んー、とか、気もそぞろに相槌する。キネコさんとキップルさんはキャラが被っている、くらいの感想。
 フリックしながら旅先を解説される。ここめっちゃ霧が出てたんですよ、ここで飯喰って、ここでお土産買って、これがねえ随分広くて迷いましたよ。唐突に写真が変わって、へんなオバサンが写った水平のズレた写真。
「おっと、こっからは俺の彼女かな」
「あー、彼女…」
「あんま撮られるの好きじゃなくて、いまいちなんだけど」
 そう言いながらへんなオバサンの写真を次々みせられる。
「歳離れてる?」と聞く。
「四つ上」
「学生?」
「いや、社会人だよ。友達とかみんな俺の彼女を美人だって言うけどさ、俺は別にそうは思わないんだよね」
 不細工ではないけど、クラスに居ても卒業まで気づかないタイプだから、どう二の句を継げばいいかわからない。その彼女とツーショットの写真を表示したまま、沖田はパスタをずるずる啜り始める。この男に一番与えてはならない食べ物はスパゲッティです。底引き網漁のような豪快なバキュームでうどんのようにパスタを吸引し、得意技のくっちゃくっちゃという咀嚼音を周囲五テーブルに響かせ、皿をカチャカチャひっかき、食べながら上から目線のトークを展開し、口の中の物をまき散らす不愉快のシンフォニー。ぼくは身体全体を斜めにして沖田から距離を置く。
「瑠偉くん、アプリ作ってみない?」と沖田。
「ぼくはアプリ開発はやらないよ。自分ではやらないの?」
「だから俺Macもってないんだって」
「泥でやればいいじゃん」
「売れないよ泥じゃ」
「売る気なんだ…」
 沖田は顔をつきあわせれば、こうしてアプリ企画をたくさん持ってくるのだけど、どれもありがちな内容ばかりで、ココロ惹かれるアイデアに乏しく、それらを実現するために自ら手を動かした試しがない。
 ぼくは斉藤さんに挨拶をして、先に帰宅する。
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