R18恋愛官能小説 青山倉庫

太陽ノ樹

第20話「水着バーレスク」

 初めてのプールの授業です。
 他の学校ではまだプール開きもされていないけれど、金魚鉢学園は室内プールだから、ほぼ一年中プールの授業があります。沖田くんと佐竹くんがずる休みしているから不安だったのですが、その予感は的中しました。授業が始まる直前になって藤井先生が段ボールを抱えて教室に入ってきたのですが、その中身は新しい水着で、名前を呼ばれる前にみんな教壇に集まって、自分の水着を手に取ります。
「夏目くん、きみのだよ、はい」
 水泳部のさつきに手渡されたのは、手のひらに載るサイズのビニール袋に四角く畳まれた白い水着。女子たちは袋を破いて、方々で着替え始める。着替えるのにタオルで隠そうとしないから、ぼくの周りは裸の女子で溢れて、ぼくは自分の水着の袋を持ったまま立ち尽くす。
「はやく着替えないと、間に合わないよ」
 隣の席の芙実が言います。着替え終わった芙実は、裸とあまり変わらない。色と形状はスクール水着ですが、フロント部分が、股間から胸まで盛大にぱっくりカットされ、割れ目も乳首も露出するデザイン。そして、おそらく背中の紐が強力なゴムで、全体的に身体を後ろへ引っ張るものですから、着替えた女子はみんないつになく姿勢がよくて、紐状に等しい水着は身体のラインを際だたせ、扇情的でありながら美しく映る。一糸をまとえなかった身体測定のときとは違った肉林。ぼくが芙実のスタイルにみとれていると、芙実はぼくの水着の袋を奪い、破いて、取り出します。両手の指で水着をひろげ、幅一センチもない腰紐に細長い袋がぶら下がった形状は、伸びた避妊具のよう。
「ほら、早く脱いで。授業始まっちゃう」
「教室で着替えるんだ…。更衣室あるのに」
「プールの更衣室は水泳部のでしょ。十人も入らないよ、あの部屋」
 着替え終わった女子たちが次々に教室を出て行く。山本くんは、自分の席でテキパキ着替えて、準備を整える。数人の女子たちが取り巻いて、ぼくが着替え始めるのを待っています。
 ぼくは真っ赤になりながら、制服を脱ぐ。様々な場所で、様々なひとに、クラスの女子たちにさえ、裸をみられてきたはずなのに、恥ずかしい、という気持ちはちっとも変わらない。上を脱ぎ、下を脱ぎ、シャツを脱いでパンツをおろし、裸足になって水着を受け取る。裏表がわからない。芙実が水着を奪い取って、拡げてくれる。ぼくは脚を一本ずつその輪っかに通す。輪っかにぶら下がった細長い袋状の布を、芙実がおちんちんに被せてくれる。よく伸びる素材で、ぼくの長い陰茎が三分の二ほど納まりますが、それ以上は無理。腰紐を引き上げますが、おちんちんの根元と陰嚢は剥き出しのまま。これなら全裸の方がマシかもしれません。
「なんかサイズおかしいね。あとで先生に訊いてみよう」
「うん…」
「ほら、いこう」
 ぼくは芙実に手を取られて、女子たちに囲まれて教室を出る。廊下を歩くとき、他のクラスの女子生徒たちに注目を浴びる。衆目に曝されるとき、ぼくの身体は警戒してぎゅっと縮むのですが、ほとんど裸でいるいま、あまりの恥ずかしさに頭がくらくらして、逆に興奮してしまう。階段を下りて、二階の渡り廊下を通って、室内プールへ。外廊下を歩かなくても、渡り廊下でプールまで行けることを初めて識りました。プールサイドに整列する中に混じったとき、今朝はせっかく落ち着いていたおちんちんが半分起き上がって、身体からほぼ直角に飛び出すほどに育ちます。
「皆さん、今日は中学で初めてのプールです。でも、金魚小と変わらないから、ほーらそこ、はしゃがないの。いいですか、小学校のプールよりすこしだけ深くなっています。一番深いのは真ん中付近で、両サイドは浅くなっているから、そこだけみんな覚えておいてね。じゃあ、準備体操はじめまーす」
 藤井先生がぼくたちの間を歩き、委員長の坂下さんがかけ声をあげて、みんなでストレッチをする。アキレス腱を伸ばす。身体を反ったとき、山本くんが斜め後ろの方にいるのをみつける。女子はみんな紺色の水着だけど、ぼくと山本くんは白い水着。山本くんはブーメランパンツで、ぼくのはコンドーム。女の子たちは股間が露出してるから、それに比べたらマシかもしれません。女子たちは、やはり、アソコに毛が生えている子はいない。なにか処理をしていると海野先生が言っていた。藤井先生がぼくのところまできて、ぼくの股間をみる。先っぽに触る。
「水着、キツイ?」
「少し……」
「こすれて痛いとこあったら、教えてね」
「はい」
 触られたせいで、さっきよりも上を向く。前の女の子たちが振り返って、ひそひそ話。ストレッチが終わると、みんなでプールの脇に集まって、身体に水をかけます。水をかけているとき、みんなプールキャップを被っていないことに気づく。ぼくの識っているプールの授業とは、景色があまりにも違いすぎて、なにが正しいかわからなくて、女子たちの仕草を真似るばかり。
 片足ずつゆっくりプールに入ります。プールはすこし温くて、塩素の匂いが漂う。藤井先生がなにかを指示するわけでもなく、みんな自由に泳ぐ。小学校では、授業の半分は順番に泳いだりして、余った時間が自由だったけれど、ここでは総ての時間が自由です。そればかりか、授業は二限目と三限目に連続し、一時間半も通して遊んでいられる。ぼくは山本くんを探す。第五レーンの飛び込み台のところで、女子二人と喋ってる。そちらに移動しようとして、突然、芙実に抱きつかれる。
「夏目くん、ちょっとこっちに来て」
 ぼくは芙実に腕を曳かれて、プールの中央付近の深いところへ連れて行かれる。安城さつきがまとわりついて、川野桃華がぼくの肩を掴む。芙実とさつきがぼくの両手の自由を奪う。とても、とても、厭な予感がする。
「ねぇ、莉音ってさぁ、ちんぽ、でかいよね」
「えっ、うん……」
「やっぱエロイから?」
「そういう…わけじゃ」
 桃華はぼくに脚を絡めて、胸の傷を指先でなぞる。
「これ、手術の痕?」
「うん」
「運動とか、大丈夫なの?」
「できるよ、すこし、反応が鈍いけど……」
「できるんだ、やっぱりね。杏樹と、運動してた?」
「お姉ちゃんと?」
「してたでしょ、エッチなこと」
「うん」
「やっぱりー」
「もう、してないよ」
「杏樹を捨てて、なっつーに乗り換えたの?」
「いや…」
「あたし、みたよ」
 やっぱりみられていました。厭な予感がことごとく的中し、ぼくは言い訳の言葉がみつからない。
 水の中で、三人の指先がおちんちんに絡みつく。ぼくは裸の三人にまとわりつかれて、すっかり勃起してしまって、先端から根元まで満遍なくマッサージされます。なんだかもうどうでもよくなってしまって、ぼくは腰を前後に揺らして、女の子みたいな声を漏らします。桃華が慌ててぼくの唇に人差し指。
「しーっ、莉音、声はださないで」
「きもちよくて…」
「莉音、敏感だね。なっつーは、きもちよかった?」
「うん、よかった」
「ふーん、いいなー、ウチらーまだ処女だしさー」
「じゃあ、セックスする?」
 ぼくはめんどくさくなってきて、ストレートな言葉をぶつける。女の子は、ここからが長い。結果はおなじなのだから、プロセスは短くあるべきなのだけど、女の子はそのプロセスさえセックスの一部と感じている難しい生き物。
 ぼくは両腕にぶら下がるさつきと芙実の割れ目に指を滑らせ、陰核を探り出し、優しく刺激する。二人はますますぼくに全身を預けて、ぼくのおちんちんを激しくしごく。その小刻みな動きに気づいた周囲の女子が、露骨に様子をうかがっています。
「莉音、直球すぎるよ」と桃華。
「じゃあ、なんて言えばいいの? 桃華とセックスするには、どうしたらいい?」
「あたしとしたいの?」
「したいよ、なんでもするから、させて」
「ほんとに、なんでもする?」
「うん、する、約束」
「じゃあ、莉音、モデルクラブに入って」
「モデルクラブって?」
「なっつーが顧問してる部活だよ。非公式だけど」
「うん、はいる…。だから」
「しょうがないなぁ。じゃあ、まず芙実とやんなよ」
 芙実が、えーっ、と言う。ぼくは芙実の処女の穴に中指をあてて、細かく震わせる。桃華のうしろで、水中ゴーグルをつけた鳥飼遥香が水に潜って、ぼくたちの下半身を観察する。タイミング悪く、三人の指先がぼくの水着を引っ張って、おちんちんから脱がしてしまう。股間に、水着のフワフワが触れる。桃華と芙実が場所を入れ替わり、ぼくは桃華とさつきを両腕にぶらさげて、芙実と向かい合う。
「えっと、どうすれば、いい?」
 芙実がぼくのアソコと、桃華を交互にみる。芙実は馴れ馴れしいけど、あまりぼくの眼をみて喋らない。いつも違う方をみているか、ぼくと眼が合うと、視線を逸らして、なぜか股間をみつめる。そしていまも、水の中で屹立したおちんちんを上から見下ろしています。
「入れたらいいの、できるでしょ」
 桃華が言う。芙実は処女なのに、無茶を言う。芙実は左腕をぼくの首に巻きつけて、股をひらいて、右手でおちんちんの中程を持つ。慎重に確認しながら、先端を割れ目にあてる。芙実は上を向いて、先っぽで割れ目をにゅるにゅる。あぁ、おっきぃ、おっきすぎるよぉ、むりかも…。囁いた芙実の背後で、ボール遊びをしていた女子が飛び上がって、そのまま芙実の背中にぶつかる。
 ぶりゅっ、にゅるるるっ。
 水の中で冷やされた陰茎が、芙実のこども体温に包まれる。芙実は大きな眼をますます開いて室内プールの天蓋を見上げたまま、唇を大きく開いて、はっ、はっ、はあっ、と掠れた悲鳴を漏らします。そうしている間にも、ぼくは芙実の奧ににゅるにゅると沈み込んで、薄くて細かいヒダがおちんちんを隙間なく包んで満遍なく摩擦する快感に震えながら、ぼくは芙実の子宮頚に一番乗りする。処女を奪うというのは、理屈の上では、そういうことでしょうか。処女の女の子の、自分自身ですらしらない胎内の径に侵入し、その一番深いところに世界で初めて到達する、制覇する、旗の代わりに体液を注ぐ。
「はいっ、た…よ」
 さつきと桃華がぼくと芙実の結合を指先で確かめ合う。周囲で観察してる子たちがひそひそ話、ぶつかった女の子もボールを抱えたまま、ぼくたちを眇め観ている。心なし、女子たちがぼくらの周囲に集まっている。藤井先生は、由香と留美子に捕まって、なにか喋っていて、気づいていません。
「スゴーイ、結構深く入ってるね」と桃華。
「芙実ちゃん、痛くない?」とさつきが心配する。
 芙実は眉間に皺をよせているけど、唇が、ダイジョウブ、の形にうごく。ぼくは割れ目を弄っていた中指を、桃華の膣に沈める。さつきにも沈める。桃華は甘い溜息をもらすけれど、さつきはぼくの手首を掴んで引き抜く。痛いよ、と囁く。
「ねぇ、モモ、あたし、はっ、ずっ、かっあっふっふっはっはっはっ」
 ぼくは芙実を優しく突き始める。下半身を小刻みに揺らしているだけなのに、芙実の反応は激しくて、周囲の水面が波打ち、女子たちの視線をますます集めてしまいます。先生にみつかってしまう、だけど今更止められない。きもちよすぎて、身体が勝手にストローク。芙実が両脚をぼくの腰に巻きつけて、上下にちゃぷちゃぷ揺れながら、唇を噛んで声を堪えて、泣き顔のまま初めてぼくの眼をまっすぐにみつめ、潤んだ瞳にだらしない表情で揺れ動くぼく自身が映っているのを発見する。まるで、顔に、ぼくはたったいまセックスしています、と書いてあるような切ない表情。
「芙実、きもちいい?」
 桃華がきく。答えられるわけがない。浅い呼吸を繰り返し、半分目を閉じて、ときどきぼくと見つめ合って、すっかりセックスに集中していて、女の子はそういうとき、お姉ちゃんもそうだったけれど、周囲の状況に関心を示さなくなります。それとは対照的に、ぼくは周囲の女子たちが騒ぎだすのに気をとられ、長い陰茎で芙実を衝きすぎないように慎重になり、プールサイドで喋っていた藤井先生と留美子たちが、こちらを眺めているのに気がつきます。見つかった。もうだめ、イっちゃう。
 ぼくはおもいきり芙実を突き上げて、動きを止め、びゅうううっと激しく噴射する。芙実はぼくの頭をしっかり抱いて、薄い乳房をぼくの額に押しつけて、射精のリズムにあわせて痙攣する。目の前に、こどもの乳首がふたつ。あまり深く語り合ったこともない、友達と呼ぶにも疎遠すぎる女の子の胎内に、直に精液を注ぎ込んでいるという事実は、ぼくにはとても残酷なことに感じられて落ち着かない。
「莉音…、イってるの?」
 さつきに訊かれても、芙実の胸に額をつけたぼくは頷くこともできない。きもちいい、きもちいいんです、身も心も、いいきもち。
「ねぇ、莉音、次、次あたし」
 桃華が囁いて、まだ射精中のぼくのおちんちんを無理矢理引き抜く。震えのとまらない芙実を引きはがし、場所を入れ替わる。芙実の割れ目から、精液の塊が長く尾をひきたなびいて水に溶け、桃華がぼくを股に挟む。突き上げる。桃華の身体が浮かび上がって、おちんちんが滑る。桃華がもういちど割れ目に先っぽをあてる。今度こそ、ぶつり、と糸の切れる感触があって、芙実の素直な形と全然違う、緩んですこしくの字に曲がった桃華の膣を、ぼくの巨根がパツンパツンに膨らませる。
 みてみぬふりをする子もいるけれど、好奇心の旺盛な女子たちは触れそうな距離まで接近する。してるよね、ヤってるよね、モモたちってそういう関係? 夏目くんってヤリチン? 勇気あるよね、ヤバくない? 生だよ絶対、芙実処女喪失じゃん、夏目くんエロイ、てか逆レイプじゃない。口々に好き勝手に囁き合う子たちは、そういう言葉をぼくたちにきかせたいわけで、水中に潜って観てる子もいて、遥香のゴーグルが奪い合いになる。小津熱帯園で、美桜たちに観られたときとおなじ気分か、それよりずっと恥ずかしくて、きもちいい。
「あ、あ、あ、んっふっ、すっ、ご…、だめ、あーだめ」
 桃華は全然声を抑えなくて、大声じゃないけど、プール全部に響くのに充分な声。まっすぐじゃない膣は、先っぽの裏と、根元をごりごり刺激する。妹も、お姉ちゃんも、先生も、美桜も、芙実も、桃華も、女の子はどれ一つとしておなじおまんこじゃない。みんなきもちいいのだけど、きもちいい種類が全部少しずつ違う。
 ぼくを中心に、女子たちが輪になって、藤井先生もこちらを観ていて、いまこのプールにいるひとはみんなぼくたちのセックスに気づいているのだけど、誰も邪魔したり、咎めたりしない。水中に潜った女の子たちが、ぼくたちに手を触れる。誰かがぼくのお尻を撫でる。誰かが、ぼくの陰嚢を掴む。誰かがぼくたちのつながってるところを握る。誰かの指が、ぼくのお尻の穴に滑り込む。
「それだめっ、だっ…あえぇ」
 呂律が回らない。桃華のなかに射精するビュクビュクという振動がすごくて、ぼくは仰け反って、全身が撥ねて、ぶくぶくと溺れかける。

 お昼休み。
 ぼくは授業のあと、教室に居づらくなって、山本くんとお弁当を持って屋上にあがり、給水塔の脇で食べる。お互い、脚をぶらぶらさせる。風がすこし冷たいけれど、遠くの尾根までくっきり見渡せる良い天気。
「僕、女の子が怖くなった…」
 山本くんが俯いたまま呟く。
「どうして?」
「水着取られるし、アソコ触られるし」
「厭だった?」
「僕、もともと女の子あんまり好きじゃないし…」
「そうなんだ」
「でも、夏目くんはもっと酷いことされてて、かわいそうだった。僕だけ文句言えない」
「う…うん」
「無理矢理なんでしょ? 川野さんたちに」
「いや…、無理にってわけじゃ」
「さつきちゃんとか、すごい音してたよ」
 ぼくは桃華に射精したとき、溺れかかって助け出され、水泳部の安城さつきにプールサイドで介抱された。すこし水を飲んだだけでたいしたことないと識りながら、さつきは人工呼吸するふりをしてキスをして、ぼくを跨いで自分から処女を捧げ、ぼくの胸に手を添えて、腰を上下させました。ぶちゅっぶちゅっsというセックスの音がプール全部に轟いて、みんなにきこえていた。みんなみていた。すると、藤井先生がぼくたちのところへ駆けてきて、しゃがんで話をした。周囲からは、ぼくたちが咎められているようにみえたかもしれない。だけど、そのとき、藤井先生はぼくではなく、さつきに信じられないことを言っていた。
「さつきちゃん、痛くない? 無理しちゃ、ダメよ」
 さつきは震えながら、ピストンしながら、平気です、頑張ります、と答えていました。なにを頑張りますなのかチットモわからないまま、ぼくはさつきの処女肉に処女らしいぎこちなさでぶちゃぶちゃ犯され、恥ずかしくてきもちよくて気がくるいそうなのに、なかなか射精できなくて、さつきもいつまで動けばいいかわからない様子で戸惑い、藤井先生はそのまま傍らで観察していて、みんながプール脇に集まってきて、同時に存在してはならないリアリティがぼくを中心に平然と整列し、保健室での過ちと桃華に逆らえない慚愧に堪えかねドバっと射精したとき、ぼくはきもちよすぎて泣き出してしまった。それが山本くんの憐憫を誘ったのかもしれない。
「気持ち悪くなかった?」
 山本くんが訊く。純粋な疑問なのだろうけど、キラキラした瞳でみつめられて、いつものようにゆっくりしたしゃべり方で、そんな感想を訊かれると、説明に躊躇する。成績もよくないし、のんびりしていて、頭の回転も鈍そうだから、かえって女子たちは山本くんに気を遣う。とても棋士にはみえないけれど、山本くんと将棋を指したとき、山本くんは四駒落ちで、目隠しして指し、ぼくは瞬く間に負けた。こんな物腰も計算のうちだったら、ぼくはのせられても構わない。
「きもち…よかったよ」
「そうなの?」
「すっごい恥ずかしかったけど…」
 山本くんは食べ終わった弁当箱を仕舞う。ぼくはモタモタしていて、食べるのが遅い。山本くんは、ぼくが食べ終わるまで待ってくれる。
「セックスって、大人になるまで、しちゃいけないんだと、思ってた」
 山本くんが呟く。山本くんの勘違いよりも、山本くんがセックスという単語を識っていたことの方が驚きです。お父さんかお爺ちゃんが棋士で、幼い頃から将棋一色で育てられて、普通の中学生とは雰囲気がすこし違う。ぼくとおなじで顔立ちは幼いけれど、凛として品がある。大人になれば、沖田くんより男前になるに違いない。
「山本くんは、好きな女の子いないの?」
 山本くんは首を横に振る。
「女の子、怖いんだったね…」
「男の子も怖いよ」
「そうなんだ」
「夏目くんは好き」
「うん…」
「夏目くんは?」
「え?」
「ぼくのこと、嫌い?」
「そんなことないよ。山本くんは、たった一人の、男の子の友達だから」
 そう言うと、山本くんは照れて顔を伏せる。給水塔の台から飛び降りて、屋上の手摺まで走る。強い風が吹く。青い空を西から南へ、トンビが旋回し、風に煽られてバランスを崩す。
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