R18恋愛官能小説 青山倉庫

太陽ノ樹

第16話「太陽ノ樹」

 プレドニンを一錠、ネオラールを一錠、新しいカプセル錠剤を二錠、水でいちどに流し込み、ふたたびソファに横たわる。新しいカプセル錠剤はジェネリック薬品で、大手ではなくソグナという会社のロゴが描かれている。
 斉藤先生の自宅リビングで、真っ暗な天井を見上げて、ぼくは斉藤先生の帰りを待つ。
 ぐらり、と、ソファごと突き上げられて、リビングのカーテンとシーリングファンが大きく揺れる。時間に関係なく余震が発生する。ぼくははやくおさまってくれることを祈る。ソファの縁を掴んで、冷や汗を流す。
 先月発生した大地震の影響は未だに続いていて、いつかそれ以上の深刻な大地震に見舞われて、生活が激変するかもしれない。そうでなくとも、雨に打たれることも、水道水を飲むことも、野菜を食べることも、お魚を食べることさえ、ぼくたちには覚悟が必要です。いま、何が起きているのか、これからどうなるのか、誰にもわからないし、誰も教えてくれない。ぼくはぼくの学校で起きていることも、数時間前に地下室で起きた惨劇も、どれひとつとして収拾することができないのに、半年先や、五年先のことなんて考えても仕方がないかもしれません。不可視の真実というのは大人が管理してくれるものではなく、多くは金儲けのために弄ばれ、醜く燻った爆弾と化してから、次の世代におしつけられる。その世代が爆弾をもてあまし、ますます膨らんでぼくたちにおしつけたとき、それはきっと爆発する。
「莉音」
 だれかがぼくの名前を呼びます。瞼をあけて、ぼくは身体を硬直させる。得体の知れない妹の顔をした少女はこんなふうに現れて、目的を明かさず、ぼくを操って、とうとうぼくのお姉ちゃんの命を奪おうとした。もう騙されない。
「りおん…、夏目りおんくん、起きて」
 ぼくはゆっくり上半身を起こす。リビングの入り口に、白衣を着た海野先生が立っている。
「海野先生…、どうしたんですか? 斉藤先生は?」
「ごめんね、斉藤先生は、来られなくなったの」
「斉藤先生、お姉ちゃんを……」
「杏ちゃんは大丈夫よ。病院で会ってきたから。命に別状はありませんって。着替えて、病院に行こう」
「お姉ちゃんは、無事なんですか?」
「大丈夫よ。だから、病院、いこう」
「はい、あの、ぼく、制服が…」
「汚しちゃったのね。じゃあ、さきに先生の家に行きましょうか」
 ぼくは斉藤先生に借りたパジャマのまま、海野先生についていく。玄関にはぼくの靴もない。靴も汚してしまったから。海野先生は代わりに斉藤先生のサンダルを出してくれる。玄関を出る。海野先生は鍵を閉める。どうして海野先生が斉藤先生のマンションの鍵を持っているのかわからない。いろいろな想像ができるけれど、海野先生が斉藤先生のマンションの鍵を持っていて、斉藤先生の代わりにぼくを迎えに来たということだけが事実。
 海野先生の車に乗る。助手席の窓から、夜明けの空がみえる。車内の時計は午前五時半を示す。国道に出て、みっつめの交差点を右折したところまではわかったのですが、途中から高台の高級住宅街に入って、どこだかわからなくなった。海野先生は大きなガレージのある家の前でとまり、右バックで車をガレージに入れる。ガレージには他に赤い車と黒い車が駐まっている。車を降りる。ぼくは、先生に聞く。
「ここが、先生ん家?」
「そうだよ」
「先生のお父さんって、お医者さんですよね……」
「先生のお父さんは、ここにはいないよ」
「そうなんですか」
「ここは別宅だから、あたししか使ってないの。車はお母さんのだけど」
 そう言って、ガレージの階段から玄関へあがる。ぼくもついていく。玄関に入ると、先生が電気をつける。あがって、と言われる。ぼくは、おじゃまします、と言う。リビングへ行く。先生が、食卓のライトをつける。間接照明にぼんやり照らされ、そのリビングがとても広いことに気づく。先生は畳まれた制服をぼくに渡す。
「ね、シャワー、浴びる?」
 そう囁いて、先生はぼくの腰に手をまわす。暗くて、先生の表情はわからないけれど、大人の匂いがします。
「ぼく、斉藤先生のマンションで、浴びました…」
「いいじゃない、もう一度、浴びましょ」
「うん…」
 ぼくは先生に言われたままにする。制服を持ったまま、廊下を奥へ進み、脱衣所へ入る。洗面台がひとつあるだけで、洗濯機もない空間。先生は振り返って、ぼくのパジャマのボタンを外す。すこし落ち着いていたおちんちんは、ふたたび充血して反り返り、パジャマの前から飛び出してしまいます。パジャマの上を脱ぐ。海野先生がパジャマの下を脱がせるとき、おちんちんに先生の頬と髪の毛が触れる。膝を突いたまま、先生がぼくを見上げる。
「莉音くんって、おとなしいけど、部分的に、腕白だね。ウフフ」
 ぼくの言い訳を遮るように、先生が立ち上がる。自分のブラウスのボタンを外す。スカートのホックを外す。先生のスカートが床に落ちる。先生はブラウスを脱ぐ。布ズレの音。どこか遠くで、始発電車が通過する音と、警報機の鐘の音。先生が背を向ける。
「ねぇ、外して」
 ぼくは先生のブラのホックに指をかける。想像以上に固くて、外れない。指先に力を込めて、ぎこちなく震えてしまう。パチンと音がして、ホックが外れる。先生がくすくす嗤って振り返る。
「毀しちゃやだよ」
 先生がぼくの手を取って、ブラの肩紐を外させる。ぼくの小さな手にもおさまるサイズの乳房が露わになる。ぼくは、自らの意志で、先生のショーツにも指をかける。ゆっくり、おろす。つるんとした股間が現れます。海野先生は、大人なのに、アソコに毛がありません。綺麗な割れ目から、肉色の鞘が覗く。跪いたとき、ぼくは先生の割れ目を凝視してしまう。
 先生に手を曳かれて、浴場に入る。先生がシャワーを出して、水がお湯に変わると、壁のシャワーフックにかけて、ぼくを浴槽に誘います。引き寄せられます。抱かれます。反り返ったおちんちんが、ぼくと先生のお腹に挟まれます。先生の小振りな乳房が、ぼくの胸におしつけられて、先生の腕がぼくの首に巻きついて、先生の鼻の頭がぼくの鼻に触れるくらいの距離で、温いお湯の流れるおとをききながら、先生が囁きます。
「落ち着いて、きいてくれる?」
「はい……」
「杏ちゃんは、命は助かったのだけど、すこし、心に傷を負ってしまったの」
「うん」
「だから、もしかすると、お見舞いに行って、あばれたり、泣いたり、おびえたり、予想できないことが起こるかもしれないけれど、莉音は受け止めてあげられるよね」
「うん、たぶん」
「お姉さんがおかしなことを言っても、拒んだり、厭な顔をしてはいけないのよ。大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「ウフフ、莉音は良い子ね。先生、ご褒美あげる。眼を閉じて」
 ぼくは言われた通りに、瞼をとじます。先生がぼくの首筋に舌を這わせるのを感じる。その舌のぬくもりが胸を伝って、右の乳首をくすぐり、先生の指先が左の乳首を摘む。ぼくはおもわず、あっ、と声を漏らしてしまう。
「かわいい」
 先生が囁く。シャワーの音がとまる。お姉ちゃんと初めてした日も、こんな感じだった。不意に、おちんちんの先端が潤みに包まれます。舌がくるくる絡みついて、そのままぬるりと深く飲み込まれて、扁桃腺を通過すると、先生の体温を感じて、ぼくは言いつけを破って眼をひらいてしまいます。長く反り返ったおちんちんを三分の一くらい飲み込んで、海野先生の長い髪がふわふわ上下します。
 ちゅっこちゅっこちゅっこ…ぐぷっ、ぐぷちょっ、ぐぷちょっ、ぐぷちょっ。
 きいたことがないくらい卑猥な音が広い浴室にこだまする。ぼくは瞬く間にのぼりつめて、先生の喉に精を放つ。先生の頬がみるみる膨らんで、長い射精がおさまると、先生はぼくを咥えたまま、喉を蠕動させて、精液を飲む。啜る。じゅるじゅる、ものすごい音が響く。先生が口を離す。ぼくがみていることに気づく。
「こらっ、眼をとじてって、言ったでしょう?」
「ごめんなさい…」
「んふふ…、先生のご褒美、きもちよかった?」
 ぼくの答えを待たずに、先生はぼくにキスをする。ぼくのおちんちんにしたように、ぼくの舌に先生の舌がくるくるまとわりついて、吸ったり吐いたりして、舌と舌がお互いの唇を行き来する。頭の芯が痺れる。胸がいっぱいになる。なにも考えられない。

 午前六時半、お姉ちゃんの病室を訪れる。
 お姉ちゃんが入院していたのは、普通の総合病院ではなく、市内の外れにある聖恵病院でした。海野先生の車で二十分くらいの距離。病院の裏手は御嵩山で、小学生の頃、遠足で登ったことがあります。海野先生に手を曳かれて、職員用通路から病院に入ります。病室にあがるのに受付を通過するのですが、どこもまだ暗くて、エントランスも閉まっていて、すこし肌寒い。エレベータで四階へあがる。廊下をあるいて、七号室に入る。ベッドが二つ並ぶ病室で、手前のベッドは空で、奥のベッドにお姉ちゃんが寝ていて、看護婦さんがお姉ちゃんの体温を測っています。海野先生と看護婦さんが、おはようございます、と言う。ぼくは躊躇って、棒立ちになったまま病室の入り口からお姉ちゃんを眺める。あんな大怪我をしたはずなのに、お姉ちゃんは包帯も巻かず、点滴も打たれず、病院の患者衣を着て、脚に毛布を掛けただけで、胸をはだけて、脇に体温計を挟んでいる。海野先生に背中をおされて、ぼくは前に出る。お姉ちゃんのベッドの脇に立つ。
「お姉ちゃん、ぼくだよ」
 若い看護婦さんが体温計を取る。体温を記録する。お姉ちゃんは漸くこちらを向いて、身体を起こす。やっぱり、傷のあった場所に傷がない。お姉ちゃんはぼくのベルトに指をひっかけて、引き寄せる。上目遣いにぼくをみつめる。呼吸が荒い。はぁ、はぁ、これ、これほしい、はぁ、はぁ、ほしいよ。お姉ちゃんは突然、ぼくのベルトを乱暴に外す。ホックを外して、ジッパーを半分おろす。力尽くで、ぼくの制服のスラックスを脱がせようとする。ぼくは海野先生をみる。海野先生は、ぼくをみつめる。
 拒んだり、厭な顔をしてはいけないのよ。
 先生のことばをおもいだす。看護婦さんがすこし慌てて、ベッドの周囲にカーテンをひく。貰ったばかりのシャツのボタンを引きちぎられる。シャツを脱がされる。海野先生に愛撫されて、硬くなったままのおちんちんを、お姉ちゃんが咥える。看護婦さんと、海野先生の、目の前で。
「おねえちゃ…、うっ、んふ、はぁぁっ」
 ほとんど全裸になったぼくの陰嚢を掴んで引き寄せ、お姉ちゃんは乱暴に頭を上下させる。うぶっ、ぐぷっ、と苦しそうな呻き声を漏らしながら、扁桃腺よりもっと深く、おちんちんが入ってはいけないところまで飲み込まれて、喉の蠕動をダイレクトに感じて、ぐいぐいと更に奧まで吸い込まれて、とうとう根元まで達しようとしたとき、ぶしゃあっという壮絶な音と共に射精して、おちんちんを咥えたままのお姉ちゃんの口から大量の精液が溢れだす。いままで経験したことのない量が、おしっこより激しく噴出します。お姉ちゃんが咳き込んで、ぼくの下腹部に噴き出して飛び散り、ぼくの両脚と、足首まで落ちたスラックスと、ベッドと、病院の床を濡らす。ぼくはもういちど盛大にぶしゃーっと噴き出して、お姉ちゃんは鼻からも噴き出して、ぼくのおちんちんも吐き出してしまって、涙を流しながら、ひどく咳き込む。
「はぁ、はぁ、うえっ、げほっ、んふ…、ねぇ、きて、はやく、いれて」
「お姉ちゃん…、ぼく」
「ねぇ、なかにも、だしてぇ」
 お姉ちゃんは仰向けになって、ベッドの縁で股をひらく。ぼくは海野先生に眼で助けを求めますが、海野先生はお姉ちゃんとぼくを交互にみて、沈黙で答える。看護婦さんはクリップボードを抱えたまま硬直している。ぐずぐずしているぼくのおちんちんを掴んで、お姉ちゃんが自分の割れ目に導きます。ぼくはベッドに両手をついて、お姉ちゃんを貫く。いつもの抵抗感もなく、つるりと根元まで沈む。ぼくはお姉ちゃんをピストンする。お姉ちゃんは声をあげずに、浅い呼吸をくりかえし、ぼくをみつめ、精液に濡れた唇が微笑みをつくる。冷たくて、性欲の匂いしかしない、獣の表情が張りついたまま、お姉ちゃんが上下に揺れる。看護婦さんは愕然の眼のままぼくたちを凝視していて、海野先生のすがたはお姉ちゃんを突くぼくからはみえなくて、窓から明るみはじめた空がみえていて、こわくて、さみしくて、やがてかなしくなって、だけどどんどんきもちよくなって、ぼくは眼をとじてできるだけきもちよさそうな表情を演技して、お姉ちゃんを直視できずにただ律動する。生まれて初めて、義務として、セックスを体験する。味わったことのない類の快感が身体のすみずみに行き渡り、はち切れそうなくらい胎内で膨張して、ぼくのものでない心臓が極限の回転を刻み、ぎゅっと引き絞られる。瞼を薄く開くと、白目を剥いて仰け反ったお姉ちゃんが、絶頂に身を捩ります。
「もう、やだ…」
 ぼくは呟いて、お姉ちゃんからおちんちんを引き抜く。歩き出そうとして、足首に巻きついたスラックスに脚を取られて転ぶ。看護婦さんと、海野先生がぼくを助け起こす。
 なんで転んでるの、アハハハハ。
 お姉ちゃんがぼくを嗤う。もう、わけがわからなくて、混乱して、看護婦さんと海野先生に抱えられたまま、ぼくはその場で盛大に嘔吐する。

 病院の屋上。
「大丈夫? 落ち着いた?」
 海野先生がぼくに暖かいコーヒーの紙コップを渡す。啜る。ぼくは看護婦さんに着替えを貰いました。看護婦さんの私服のTシャツとショートパンツ。制服は、別のを貰う約束をしました。
「お父さんとお母さんには…まだ」
「これから、説明することになるね」
「ぼく、斉藤先生のマンションから一度電話しているんです。地下室で、お姉ちゃん、刺されて……」
「莉音くん、地下室であった出来事は、決して口にしちゃ、だめだよ」
「はい…」
「莉音くんは、以前から、お姉さんと…、そういう関係?」
 ぼくはベンチに腰を下ろす。まだ、震えと、胃の痙攣が治まらない。嘔吐したあと、看護婦さんに身体を拭いて貰いました。そのときも派手に射精して、射精というより噴射に近くて、看護婦さんの顔と髪と制服を汚してしまったのですが、そんな屈辱を受けても看護婦さんは厭な顔をせずぼくを綺麗にしてくれて、海野先生はぼくの吐瀉物を手でバケツに移していて、ひどく申し訳ないきもちになっていたたまれず、軽い脱水症状を起こして倒れてしまいました。
「すこし前からです。家が崩れて、豪邸住まいになってから」
「そっかぁ…」
 先生はぼくの隣に腰掛ける。二の腕をおしつける。
「ねぇ、杏ちゃんとは、双子なんでしょ?」
「ごめんなさい、いけないことですね」
「ううん、そうじゃないの。先生、黙っててあげるから、内緒にしてようね」
「はい」
 先生の手が、ぼくの太股に触れる。股間のふくらみを撫でる。指先がシャツの中に滑り込んで、反り返ったままの陰茎に巻きつく。いちど勃起するとおさまるまで何時間もかかるのに、ぼくは落ち着く暇もありません。先生は口でしてくれましたが、それ以上を求めているのでしょうか。
「莉音の秘密を教えて貰ったから、先生の秘密もおしえてあげるわ」
「先生の秘密?」
「絶対、内緒にしてね」
「ぼく、あててみていいですか?」
「いいわよ。なんだとおもう?」
「先生、ショタコンでしょ?」
「そうだけど、それは秘密じゃないわ」
「おちんちん、おっきい子がすき?」
「サイズは気にしないのよ、女って。莉音のはすきだけど…」
「バツイチとか?」
「ちがう」
「先生、セックス、好き?」
「うふふ、どうかしら?」
「好きそうー、あっ、んっ」
 海野先生は手首をスナップさせて、ぼくをマッサージする。ぼくはコーヒーの紙コップを脇に置く。お姉ちゃん以外の女の人に誘われても、ぼくの身体は素直に反応します。こころが惰弱なのではなく、身体が若すぎるのです。お姉ちゃんを裏切っている意識がぼくに手枷足枷をかけますが、ぼくの腰だけは自然と上下に揺れ動きます。
「先生、口でしたの、初めてだよ」
「そう…なの? きもち、よかっ…、んふ」
「ありがと。不安だったから」
「ど…して?」
「あたしね、処女なの」
 ぼくをマッサージする先生の手をシャツの上から掴んで、だめ、と呻きます。またイキそう。これ以上、服を汚すことはできません。唇を噛んで、予兆がおさまるまで堪えます。先生の匂いには、動物的な官能をくすぐるなにかが混じっているのです。
「ごめんね、ヘン…だよね」
「そんなこと、ないです。でも、先生、美人なのに」
「あたし、金魚鉢出身だから、ずっと女子校なの。会話したことのある男の人って、お父さんと、お兄さんと、学校の生徒くらい。だから、大人の男の人が怖いの。あたし、ずーっと処女なんだろうなっておもってたけど、夏目くんに健康診断で会って、ドキドキしちゃった。あはは、他の男の子みーんな診断の日、休むんだもん。莉音くんと、あと山本くんだけだよ、来たの」
「そうなんですか…」
「世の中には、こんなに美しい男の子がいるんだなぁって、ちょっと感動しちゃった。でも、莉音くんにとっては、あたしなんてオバサンだよね……」
「先生、若いじゃないですか」
「あたし、二十六だよ。今年、七になるの。莉音くんとは、十四も離れてるのに、こんなことして、犯罪だよね、ごめんね」
 先生の手がするりと抜ける。股間の緊迫が緩んで、動けるようになる。先生は立ち上がって、手摺にもたれる。いつもの白衣じゃなくて、紺色のレギンスに、胸元がレースの白いフレアチュニック、透かし編みのカーディガンを羽織って、フリンジのついたサンダルを履いている。
「ぼく、先生と、セックスしてもいいですよ」
 先生がぼくをみつめて、嗤う。海野先生の反応は、いつも、予想できない。ぼくたち男子の心を疼かせる悪魔の微笑みに、少女のような可憐な恥じらいをみせ、予定調和が約束されない女性の実在というのは、それが機能であれ本能であれ、男の脳はそれに抗う能力を持たないことを実感させます。
「杏ちゃんのことは、いいの?」
「お姉ちゃんとは、ずっと続けられないだろうなって、おもっています。近親相姦だし……」
「杏ちゃんのこと、好きじゃないの?」
「好きです、うっかりすると、お姉ちゃんとの関係を、周りに告白したくなる」
「自慢したいの?」
「お姉ちゃんを、誰にもとられたくないから」
 先生は俯く。ぼくはベンチの上で両膝を抱える。
「お姉ちゃん、治りますか?」
 ぼくは、恐れていることを訊きます。先生は首を横に振る。
「まだ、わからない。これから検査するから」
「どうして、おかしくなったんですか?」
「それもハッキリしないの。精神的なショックを受けたのが原因だとおもうけど…。一時的かもしれないし、治すのが難しいことかもしれない。まだ声をかけても反応が薄いし、何があったか、喋ろうとしないから」
 お姉ちゃんは、傷だらけの妹に刺された。事件は表沙汰になっていないし、斉藤先生も海野先生もそれを隠そうとしているから、ぼくはその事実を誰にも説明できない。むしろ、なにが起きたのか、だれかに説明して欲しい。歪んだ学校生活も、毀れた自宅も、おかしくなったお姉ちゃんも、なにひとつ解決をみないまま、足を地面につけることもできない面持ちを、これからどこへ帰着すればよいのでしょう。
 背の低い建物が並ぶ北畠市の無限の消失点に、朝陽が輝き、厚く垂れ込めた雲を下から照らす。黄金色と、茜色と、紫が重なり合った空に、光芒が煌めき、それは、太陽ノ樹でした。
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