R18恋愛官能小説 青山倉庫

太陽ノ樹

第15話「人形イクスピアリアンス」

「お姉ちゃん…」
 ぼくはハッキリと言葉を発することができずに、血だまりの前に跪く。お姉ちゃんは胸を抱く格好のまま俯せに倒れ、ダークアンバーの髪が血に浸かり、じっとり染みこんでゆくどす黒さが瞬きを忘れたぼくの視界にべっとり張りつき、お姉ちゃんが横を向いて、血だらけの胃の内容物を吐き散らす苦悶と、嘔吐のすさまじい臭いに、ぼくは涙が溢れて、おねえちゃんおねえちゃん、とか細い泣き声を漏らす。
「何してるの!」
 顔をあげると、ぼくの背後に斉藤先生が立っています。あの、傷だらけの妹、お姉ちゃんを刺した亜梨子の姿はありません。お姉ちゃんを刺した刃物もありません。
「先生、お姉ちゃんが…」
「なにをしたの?」
「刺されたんです、識らない子に」
 識らない子と言う。識らない子の姿はもうない。確かにいまいたのに。斉藤先生とすれ違わずに出て行くことなんてできないのに。斉藤先生がお姉ちゃんに駆け寄って、お姉ちゃんの手を取ります。脈を診る。ペンライトで瞳孔を観る。お姉ちゃんはかろうじて、息をしている。呼吸の間隔が、だんだん長くなる。斉藤先生は、ペンライトをしまって、溜息をつきます。
「ここじゃ電波つながらないから、先生、上に戻って救急車呼ぶね」
「せんせ…」
 斉藤先生は部屋を出て、階段をのぼっていきます。乾いた足音だけが響く。静かになる。ぼくは血だまりに膝をついて、お姉ちゃんの手を握る。お姉ちゃんの手は真っ白で、顔も青白くて、おおきな眼を見開いたままで、みるみる冷たくなっていきます。血だまりが拡がって、部屋の三分の一を覆う。お姉ちゃんの顔を覗き込んでも、お姉ちゃんはぼくを観ない、ぼくを観るという意識を実現するだけの機能を失いかけて、そうしている間にも大量の血液が喪われて、お姉ちゃんの手に暖かみはまったく残っていなくて、お姉ちゃんだった身体は血に染まって誰でもない形骸だけを匂わせる。生きている身体は、突然ではなく、だんだんと、屍体に変わってゆく。そのギリギリの境界線でつま先だって、お姉ちゃんは必死で、堪えているのですが。
 斉藤先生が戻ってくる。着ていた白衣を脱いで、スーツ姿。
「夏目くん、お姉さんを上に運ばないと…」
 ぼくは涙がいっぱい溢れる。呼吸は三十秒に一回、もうすぐとまる、上に運んでる時間なんてない。
「夏目くん」
「もう遅いです」
 お姉ちゃんは動かない。いま息を吐いた。次の呼吸は、ないかもしれない。

 大きな音が響いて、火花が散る。
 斉藤先生がぼくの髪の毛を掴んで、平手打ち。もう一度、叩かれる。そして、斉藤先生は、お姉ちゃんを抱き起こす。
「夏目くん、肩を貸しなさい!」
 ぼくは泣きながら、お姉ちゃんを抱える。半ば引きずるようにして、地下室を出る。一歩ずつ階段をのぼる。登り切ると、救急車のサイレンが聞こえる。お姉ちゃんの反応はありません。もう死んでしまったかもしれない。
 理科室を出て、廊下を一歩ずつ進むと、救急隊員が玄関に集まる。斉藤先生はお姉ちゃんをぼくに預け、廊下を駆ける。玄関を開ける。救急隊員がなだれ込み、お姉ちゃんを抱えて血まみれのぼくに殺到する。お姉ちゃんを仰向けにする。救急隊員がペンライトでお姉ちゃんの瞳孔を確認する。担架に乗せる。
 お姉ちゃんが運ばれていく様子を呆然と見送るぼくの腕を斉藤先生が掴んで、あなたも来るの、と言って引っ張ります。ぼくは斉藤先生と一緒に学校を出て、救急車に乗る。救急隊員が血まみれのお姉ちゃんの服を切る。血まみれだけど、お腹にあったはずの傷がない。看護士さんがお姉ちゃんの胸を拭く。救急車が走り出す。サイレンを響かせて、夜の街を走る。救急隊員が、お姉ちゃんの胸にAEDを乗せる。電気ショックで、お姉ちゃんの身体が飛び上がる。心電図モニターを見ている。斉藤先生が運手席のほうをみている。
 救急車は国道の交差点を左折して、山の方へ向かう。ぼくの識っている総合病院ではなく、どこか郊外の病院。しばしば、病院が受け入れしてくれずに、盥回しにされて、母子共に亡くなった妊婦さんの話をきいたことがある。そうならないことを祈る。あるいは、そういう事態を想像しないように努める。運転席からみえる青みを帯びた空を眺めて、なんども道を右折左折するたびに救急車全体が揺れて、ぼくはだんだん酔って気持ち悪くなり、狭い空間に大人がいっぱいで、血液に含まれる鉄の臭いで充満して、背中にいっぱい冷や汗をかく。救急車に乗っているあいだ、斉藤先生はぼくの方をみてくれない。
 救急車が病院に到着する。搬入口で後部ドアが開き、先に担架のお姉ちゃんが運び出されます。救急隊員が待ち受けた女医になにかを報告する。ぼくたちも救急車を降りる。お姉ちゃんが乗せられたストレッチャーについていく。薄暗くて、誰もいない病院。治療室の前まで追跡し、ぼくらはそこで立ち入りを止められる。斉藤先生が女医に説明している。培養に使う薬品を飲んだ可能性がある、ときこえる。お姉ちゃんは妹に刺されたんです。そう言いたいけれど、ぼくにはお姉ちゃんが刺されたときの状況が曖昧で、よく思い出せない。説明を求められたら、ぼくとお姉ちゃんの関係が疑われてしまうのではないかというおそれから、ぼくは沈黙を守り、先生にすべてを任せます。
 女医さんがぼくの前を通って、治療室へ入る。斉藤先生が待合の長椅子に腰掛ける。
「夏目くん、お姉さんは、誰かに刺されたって、言ったよね?」
「はい、識らない子に」
「何を刺されたの?」
「わかりません。刃物みたいなもので……」
「刃物? 注射器ではないの?」
「いえ…、刃物です」
 先生はおかしなことを言います。注射器であんな血が出るわけがありません。
「夏目くん、お姉さんは大丈夫だから、心配しないで」
「お姉ちゃん、助かりますか?」
「ここのお医者さんは、おなじ患者さんをみたことがあるから…」
「ぼく、お父さんとお母さんに、なんて…」
「それは後にしましょう。先生は、学校に戻って、片付けをしなくちゃいけない。ご両親には、先生がうまい言い訳を考えてあげる。夏目くんは、その制服を着替えないといけないね」
「うん…」
「先生の家に一度きて、着替えよう。そこから、お父さんとお母さんに連絡いれなさい」
 ぼくは頷く。誰もいない病院を出る。先生はタクシーを呼ぶ。お姉ちゃんが死にそうなのに、ぼくはここで待っていることができません。怖ろしくて、淋しくて、斉藤先生の言葉をただ盲信して従うしかないのです。
 どこかの宗教団体が、死んだ家族に水をかけて復活の儀式をしていたことを思い出します。遺体を強姦して復活の儀式だと主張した弁護団もいました。ぼくもおなじように気が触れた人種の仲間入りを果たしたのかもしれません。
 斉藤先生がぼくの手を曳きます。ぼくは治療室の赤ランプから眼を離せず、後ろを向いたまま先生に引きずられる。通用口のドアが閉まる。ぼくたちは、ロータリーに駐まるタクシーに乗り込む。ふと、なにかがおかしいことに気づく。大切なことを忘れている。タオルの入った鞄は学校に置きっぱなし。スマホはポケットに入っている。血だらけで汚れた部屋は斉藤先生が掃除するのだろうか。いや、もっと些細なことを忘れている。それ自体はたいしたことではないけれど、それがなにか巨大な狂いと誤謬の氷山の一角として顔を覗かせているのに、ぼくはいくら考えてもそれがなにかハッキリ認識することができない。

 斉藤先生の家は、市内の高台にある分譲マンションのひとつで、プレハブ倉庫に破壊されたぼくの家ほど広くはありませんが、斉藤先生が一人で住むには広すぎます。
 ぼくは血まみれの制服を脱いで、血が染みついた下着も脱いで、シャワーを浴びます。先生はぼくの制服と下着をゴミ袋に入れていました。浴室でシャワーをあびながら、鏡に映る自分の姿をぼんやり眺め、階段をのぼるときにぶつけた膝頭に疼きを覚え、僅かに赤くなっていることを確認して、ぼくは身体と、髪を、すみずみまで洗います。妹と戯れることを識るまでは、烏の行水のようにお風呂もシャワーも適当な作業でしたが、性への好奇心は、こどもの身体を清潔にします。あれほどの事件があったにも関わらず、ぼくの心臓は落ち着いて鼓動を刻み、ぼくの性器は未だ半分くらい充血したまま、身体に対して直角に、前方へ突き出しているのですから、泡立てた石けんで丁寧に洗うと、その刺激でふたたび硬度を回復させます。移植された心臓に、ぼくの神経はつながっていないらしく、外的な変化や刺激への反応がすこし遅いのです。
 お風呂から出ると、脱衣所にバスタオルと着替えのパジャマが置かれていて、ぼくは身体を拭いて着替えます。パンツの代わりに体操着の下が置かれているのですが、勃起しているので入りません。ぼくは下着をつけずにパジャマだけ着る。反り返った性器が、お腹にテントを造ります。
 脱衣所を出て、居間へいくと、斉藤先生が電話をかけている。
「ええ、成績もあるのですが、規定の時間数に満たないと、進級が危うくなります。学期末や年度末になって慌てると取り返しがつかなくなるものですから…。そうですね、事前にご連絡差し上げる予定だったのですが、申し訳ありません。いま、莉音くんに代わりますね」
 斉藤先生が子機を渡す。ぼくはソファに腰掛ける。もしもし。
「莉音? あなた補講があるなら言ってから家出なさいよ」
「うん、ごめんなさい」
「お姉ちゃんは?」
「いまお手洗い行ってる」
「ご飯は?」
「ご飯食べたじゃん」
「明日は帰ってくるの?」
「うん、帰るよ」
「先生に代わって」
 ぼくは子機を先生に渡す。先生は受け答えをする。明日は平常通りの授業です、はい、はい、ご心配をおかけして申し訳ありません、いえいえとんでもありませんよ、はい、よろしくお願いします、失礼します。
 電話を切って、先生は向かいの椅子に座る。目薬を差す。先生とぼくの間には、膝までの高さの長方形のテーブルがあって、編み上げのテーブルクロスが敷かれて、谷崎一仁の人造人間が置かれています。ぼくの貰った本ではない、何回も精読され、ぼろぼろになった本。
「斉藤先生、これ…」
「谷崎の本よ」
「先生、トンデモだって…」
「トンデモよ。そこに書かれている血液感染法では、被験者は死ぬことがあるわ。大量に血を吐いて…」
「うん…」
「お姉さんの症状ね。何があったの? お姉さんに、なにをしたの?」
「ぼく、なにもしてません。識らない子に、刃物で刺されたんです」
「刺された痕なんて、なかったよ?」
「そんな…」
「ほんとのこと、言って。お姉さんに、培養液を注射した?」
「なんですかそれ?」
「それとも、お姉さんが自分で注射した?」
「どうしてそんなこと」
「お姉さんは、まだ悔やんでいるのかもしれない。あなたと、妹さんのこと」
「なんのことですか? なにも悔やむことなんて、ありません」
「実験の話を聞きに来た生徒がいたって、先生話したよね。それは、あなたのお姉さんよ」
「なんの実験ですか?」
「人造人間の実験」
「造れるんですか? 人造人間」
「造る、ということではなく、どちらかと言えば、人間を不老にすることね。それ自体は、もう、戦前から実験は成功していたの。培養液不可逆浸透法は、戦争中に実現された施術なのね。この実験は国際法で禁じられている、なんて言ったとおもうけれど、そんなことはないのよ。そもそも、太陽の樹という細菌は、半世紀以上前に陸軍が開発したもので、国外へ流出したことはありません。米軍はどういうわけかその細菌の存在を三十年代から識っていて、躍起になって探していたのだけどね。小説にまで描かれたそうよ。『影が行く』というタイトルで、内容はしらないけれど、事実とはずいぶん異なるフィクションだから、どこまで真実を掴んでいたか疑問ね。
 実験は、蘭聖島と呼ばれる防空施設で昔から行われていて、実は、蘭聖島の実験はまだ続いているの。人造人間は作れるけれど、それを増やす実証実験には、何年、何十年もの時間がかかるからね」
 先生は立ち上がり、キッチンへ。ぼくは先生がいなくなった椅子をみつめ、その向こうのカーテンのヒダをみつめ、いま、お姉ちゃんがどうしているか、意識を取り戻してパニックを起こしているかもしれない。先生がガスの火を止める。お湯を注いで紅茶を煎れる。お盆にのせて、運ぶ。ぼくの前に差し出す。
「お姉さんは正常なプロセスを経ずに、培養液を注射したんだとおもう。お姉さんは、お姉さんでなくなるかもしれない」
「それは、お姉ちゃんが人造人間になるってこと?」
「そうよ」
「お姉ちゃんが、人造人間になったら、不老不死になるの?」
「不死身にはならないけれど、としはとらなくなるね」
「ぼくだけ大人になって、お姉ちゃんはこどものままなの?」
「さあ、どうかしら?」
 老いを畏れる人は多いけれど、成長しないことの方が、ひょっとすると怖ろしいことかもしれない。黙っていれば気づかれないかもしれないが、健康保険証や、住民票や、出生届みたいな行政記録から容易に実年齢が割り出されてしまう。十二歳の姿のまま、高校、大学までは耐えられても、まともな就職は難しいのではないか、あるいは、結婚したり、子どもをつくったり、その子どもを育てたりすることができるのか、子どもが子どもを産んだように見えないか、十二歳のお姉ちゃんが授業参観で教室の後ろに立つことができるのか、お姉ちゃんの子どもはいつしかお姉ちゃんより年上になって、母子が逆転するのではないか、五十歳、六十歳まで生きたとして、十二歳の姿のお姉ちゃんが平日の昼間から畑で土いじりしている光景は不自然ではないか、諸々の想像に焦燥を覚えるのですが、諸々の想像が膨らみすぎて、もしかすると、案外、就職とか出産とか、大きな山さえ越えればやっていけるかもしれないという甘い見通しを立ててしまう。それは、ぼくが中学生という、人生で最も考えの甘い季節に生きているから、仕方のないことかもしれません。更に、それは、先生が言っている小難しい話を鵜呑みするという条件がつきますが。
「ぼくも、お姉ちゃんと一緒に、人造人間になれますか?」
「なりたいの?」
「お姉ちゃんだけ、としをとらないなんて、ずるい」
「じゃあ、あなたのお姉さんの面倒を、誰がみるの?」
「それは……」
「十年以内に、あなたのご両親が気づくはずよ。杏ちゃんの様子がおかしいって。だけど、検査したってわからない。どんな精密な検査も、杏ちゃんの不老を証明することはできないの。私たちにだってできないのだから。その上に、あなたまでとしをとらなくなってしまうと、もう、正常な社会生活を営めないわよ。それでもいいの?」
「お姉ちゃんを置いてけぼりにするのは、残酷です」
 先生は溜息をつく。紅茶を飲む。ぼくも紅茶を飲む。紅茶はお姉ちゃんと妹がすきだけど、ぼくはあまりすきじゃない。ハーブの香りは、しばしば、化粧の厚い先生の匂いをおもわせる。大人は気づかないかもしれないけど、こどもは女性のファンデーションに含まれる顔料の臭いを抑えるために使われている化学的な薬品の香りに敏感で、頭痛や吐き気をもよおすことがあります。
「男の子は、人造人間にはなれないのよ」
「どうしてですか?」
「わからないわ。未だに解明されていない謎」
「ぼくが、そのナントカ培養液を注射しても、ダメなんですか?」
「溶けてしまうわね」
「そうなんだ…」
「蘭聖島には、男の子の人造人間がひとりだけ居るの。人造人間の繁殖のためだけに生まれた少年。その子が、どうして血液感染法に耐えられたのか、あれから何十年と研究してるけれど、まだわからない」
「なぜ、そんな実験をするんですか?」
「研究するためよ」
「研究のための研究ですか? 何の役に立つの?」
「夏目くん、サイエンスとテクノロジーは違うの。研究でたくさんの部品を生み出しておかないと、技術があっても何も造れないわ。それに、この研究はあくまで国の事業として行われているだけ。昔々、優秀な研究者が従事できる仕事がなかった時代に、彼らを救済するため、幾人かの資産家と国とでお金を出し合って始めた、あまりにも古い公共事業なのよ。あまりにも歴史が長くて、巨大で、精密だから、だれもその全容を掴みきれなくなってしまった。いまでは、はじめはあったはずの思想信条や目的さえ曖昧になっているのかもね、そんなものがあればの話だけど」
 ぼくはソファの上で膝を抱えてちいさくなる。
「どうして、そんなことまで、教えてくれるのですか?」
「夏目くんには、知る権利があるからよ」
「知る権利?」
「そうよ」
「お姉ちゃんにも?」
「そうね」
「晃弥にも?」
「ないわ」
「どうして?」
「あなたと、あなたのお姉さんは、蘭聖島に住んでいるその男の子と、血縁なの。あなたから数えて、五代前の女の子が、男の子の娘ね。この研究に関わっているひとはみんな識っていて、あなたのお姉さんは、そろそろ、お母さんに事実を説明して貰える年頃よ。そして、辛い経験をしなくちゃならない」
「それは、どんなことですか? 痛いこと?」
「あなたは、しらない方がいいわ」
「さっき、知る権利があるって」
「しらなくていいこともあるの。きっと傷つくから」
 斉藤先生は壁の時計をみて、立ち上がる。バッグを取って、携帯を確認する。車の鍵を掴む。
「先生、これから学校にもどって、地下室を掃除してきます。あなたはここで待っているか、隣の和室にお布団が敷いてありますから、そこで先に寝てなさい。お姉さんはきっと蘇生します。あなたたちは、長友家の人間ですからね。朝になったら、学校が始まるうんと前に、お姉さんを連れ戻しにいきましょう。まるで、何事もなかったかのように、元通りになるはずです。心配しないで、じっと、待っていなさい」
 そう言って、先生は玄関から出て行く。車のドアが閉まる音が響いて、テールランプの赤い光がベランダの手摺に反射するのがみえて、斉藤先生のハイブリッド車は音もなく駐車場から出て行く。明日になれば、みんな元通りになる。今夜は、なにか、悪い夢をみたことにします。ほんとうに、ごく僅かな時間の間に、いろいろなことがおこって、あまりにもいろいろな情報を与えられて、ぼくはなにがなんだかわからなくて、ソファに横になって、テーブルの上の谷崎の書籍をぼんやり眺めるだけ。
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