R18恋愛官能小説 青山倉庫

太陽ノ樹

第9話「アンチヒーロー」

「おはよーございます」
 L教室。三クラス合同の学年朝礼に、箱崎が現れ、大声で挨拶する。朝から暑苦しい。生徒たちは眠そうな声で、おはようございますと返す。百道先生だけでなく、各教科の先生方があつまる。学年主任の渡辺先生が長い話をした直後で、みんな退屈して覇気がない。
「元気ないなー。じゃあ、みんなを元気づけるために、今日の抱負を語って貰おうか。じゃあ、君、そう、アナタ、起立」
 指された二組の男子が立ち上がる。立ち上がった男子の隣に、八尾が居るのが見える。登校していること自体が驚き。
「さあ、今日君は、何を成し遂げる?」
「えっ、えーっと。わかりません…」
「君は今日、どんな授業があって、何を学ぶつもりでいるのか、自分で計画を立てていない?」
「今日は、英語と数学と地理の授業があったような気がします。あと体育」
「ほお、今日は初めての体育だね」
「俺あんま運動得意じゃないので、ついて行けるように頑張ります」
 男子生徒は勝手に着席する。八尾が話しかける。二組の男子生徒は成績の悪い子が集まっているときいた。八尾も、八尾の友達の橋本も成績が悪いし、いまの男子もあまり賢そうじゃない。箱崎は別の男子を指さす。三組の男子。三組は、箱崎シンパが多い。
「おはようございます!」
 立ち上がると同時に男子生徒が声を張る。
「今日、自分は読書感想文の見直しを朝ギリギリまでやっていました。今日はこれにかけます」
 箱崎と百道先生が拍手をする。三組の生徒たちも拍手をする。二組の生徒たちからもまばらに拍手が起こる。一番後ろのぼくら一組は冷ややか。
「すばらしい、模範的じゃないけど、今日の宿題を忘れていなかったことがいいね。というか、きみらには野望とか将来の夢とかそういうデカイ妄想じゃなくてさ、今日一日何をするのか、ということに照準して欲しい。先々の夢のためには、今日が大切なんだ。明日じゃない。今日といういちにちを、毎日積み重ねていくこと。それはただ二十四時間をただ無為に過ごすことじゃない。寝て飯喰って学校来て居眠りして先生の話半分きいて、漫然と塾行ったり部活やったりして、童貞諸君は家帰ってシコシコしてクソして寝るだけをまいにち繰り返しても、そのまんま大人になるだけだぜ。な、今日運動頑張る予定の二組のきみとかさ、そのままブクブク育っちゃってスーツ着て会社役員の面接で、ジブン運動ニガテデス、とか言うつもりやないやろな。五分で打ち切られて役員会ですげーゆとりが来たリストに名前があがってその晩の酒の肴になるのが関の山だぜ。今更、言うまでもないことだけどさ、ここは金魚鉢学園なの。公立中じゃないから、将来の目標が無い生徒はいないはずなのよ。その自分の目標に向かって、どう頑張っていくのか、それを考えて欲しいのね。それじゃあ、宿題、集めようか。みんなやってきてるよね? 忘れた人は?」
 まばらに手が上がる。休みを取っていて宿題のことをしらない生徒も多い。それ以上に、宿題の内容が問題だった。百道先生が後ろから集めてください、と言う。ぼくたちは宿題を前にまわす。百道先生はやたらと作文の宿題を書かせる。
「みなさんには、旧満州国のことや、慰安婦、南京大虐殺に関する書籍を読んでいただきました。先生が指定した本であれば、どれでも構いません。皆さんが読んで感じたこと、思ったこと、それらを素直に書いていただければ良いのです。今回宿題を提出できなかった生徒も、次回、提出するようにしてください」
 こんな先生が社会科で歴史を教えます。十年、あるいは二十年前なら誰も疑問に思わなかったかもしれませんが、ネット時代に偏った教育は猜疑を呼ぶ。他の先生が百道先生の方針に異論を挟まないのは、百道先生が学年主任の渡辺先生とおんぶに抱っこの関係だから。大人の世界は政治政治で汚い。いつか、ぼくたちもそんな汚泥にまみれなくちゃならない。未来はあまり明るくない。
「今回、すばらしい内容の作文を書いてくれた生徒さんは、月末に箱崎会としてスピーチ大会に出場します。希望者が居れば、選考時にこちらで検討します。スピーチ大会に出たい子はいますか?」
 数人が手を挙げる。箱崎が三組の女子生徒を指名する。
「きみ、立って。きみは、どういう内容でスピーチしたいの?」
「私は、日本がアジアに対して行った戦争犯罪について糾弾したいとおもっています」
「どのような?」
「中国人に対して行った虐殺についてです」
「なかなか過激だね。わかりました。じゃあ、きみ、その後ろ」
 箱崎が二組の男子を指名する。眼鏡をかけた背の高い子で、たしかデザイナー志望だった。
「きみはなにをスピーチしたい?」
「僕は、昭和文学について、話したいことがあります」
「昭和文学! 君はどんな作家が好きなの?」
「泉鏡花や伊藤左千夫、菊池寛、佐野昌一とか…」
「あららら、泉鏡花は昭和限定じゃないよね。それに、菊池寛は関心しない作家だな。きみは文学がすきなんだろ? 思想がすきなわけじゃない。菊池寛は文学者というより思想家なんだ、極めて政治的な。そこは除外した方がいいんじゃないかな。佐野ナントカってのは識らないけど、文学然としたものに限ってスピーチするなら、それは良いことだとおもう」
「わかりました」
 そう言って、眼鏡の生徒は座る。佐野昌一は海野十三ほか様々な名義で多くの書籍を残しているし、国産SFの始祖だ。箱崎の浅い知性じゃ識らなくても不思議じゃない。ぼくの斜め後ろで掲げた手で指をパチパチ鳴らす音が聞こえる。振り返ると晃弥が手をあげている。厭な予感しかしない。
「あーはい、きみは?」
「アンタ、今月のギャラいくら?」
 悪い予感が的中して、関係のないぼくが冷や汗をかく。生徒たちがざわつく。先生たち数人が、一歩前にでる。
「ごめん、聞こえなかった」
「アンタ、百道と一緒にこんな反日教育して、毎月三百万もギャラ貰ってるんだろ? 学校の情報統制はザルいから、印刷の裏紙が仕訳表だったりするんだけど、外部からの闖入者はアンタだけなのに、コンサルフィーで三百万、固定費計上されてんだわ。俺たちの親が払ってる高額な学費がそういうとこに流れてるってしれたら、ちょっと立場マズイんじゃねえの?」
 およそ中学生の発する台詞じゃない。晃弥はそういう糾弾で情け容赦しない。箱崎は俯いて首を左右に振る。百道先生と倉掛先生が慌てて後ろに歩いてくる。
「君はこういう場で根拠のないデマゴギーをひろめて、何か得をするのかい? ぼくは相談役で、コンサルじゃないし、君が主張する経費計上というのは、君たち中学生が考えるほど単純なものじゃない」
「じゃあ会計科目にコンサル費って明記されてンのはなんなんだよ。だいたいさ、あんたのなんちゃらお遊戯会ってのも、出来レースだろ。スピーチ大会に出る奴最初から決まってんだよ。しかもそいつら影でインセンティブ貰ってるって噂きいたぜ。さっきの一組のお前、おめーだよ。シナチクへの虐殺ってなんだよ。日本がアジアに酷いことした? いくら貰って吹き込まれた話だよそれは。どんな学校でもまともな先生は日本史でその部分の近代史を教えるのを避けるんだよ。鎌倉時代とか室町幕府とかどうでもいい歴史にクソ時間かけて最後駆け足にしてあやふやにすんだよ。それはさ、敗戦して日教組や箱崎みてーなやつにメディア牛耳られた俺たち日本人にできるギリギリの抵抗なんだよ。黙して語らぬ真実って奴だ。あと二組のお前、菊池寛は文藝春秋つくった翼賛運動家だよ。伊藤さっちーなんかどーでもいいから菊池だけでスピーチしろよ」
 百道先生と倉掛先生が晃弥を席から引きずり出す。本田くん黙ってこっち来なさい、と引っ張られる。L教室の後ろのドアから出されそうになったとき、晃弥は言い放つ。
「箱崎、本名を名乗れ」
 つまみ出される。教壇で余裕を装う箱崎は顎をあげて見送る。ぼくは拍手をする。一組の生徒から拍手が巻き起こり、二組の生徒に伝播する。

 午後、初めての体育の授業で、ぼくたちは体操着を貰い、それがオーダーされた理由をしる。
 上衣はおへそより上までしかない短いシャツで、生地も薄くてぴったりしていて、肩口の広いラグランシャツ。下は紺色のローライズスパッツで、股上がめちゃくちゃ浅い。女の子は割れ目が見えそうだし、男の子は激しい運動をしたらおちんちんがはみ出そう。体操着に着替えるとき、みんな下着を脱ぐ。沖田くんや佐竹くんは、教室の隅で背を向けたままさっさと着替えて体育館に走っていく。晃弥はL教室から連れ出されたまままだ戻ってこない。山本くんはもたもたしていて、いちど全員に裸を観られているぼくは普通に着替える。スパッツは伸縮性があるけど、とても薄くて小さくて、そっと着替えないと破けそう。下半身をぎゅっと締めつけられる。ぼくの長大なおちんちんは下向きにお尻に挟んで、くっきりとその形が浮かび上がって、ぼくは女子にみられることにはもう慣れたのですが、隣によってきて着替えている山本くんにじーっとみられるのがすこし恥ずかしい。
「夏目くん、おっきいね…」
「生まれつきなの」
「ぼくのこんなだよ、ほら」
 山本くんはじぶんのおちんちんをみせる。親指くらいちいさくて、すこし黒くて、皮を被ってる。それが普通だとおもう。
「ぼくもデカくなりたいなぁ」
「なんでー、いいことなにもないよ。邪魔だし重いし、お手洗いは大変だし、お風呂でしゃがむと床についちゃうし」
「ぼくすこしだけおっきくなりたい。夏目くんのはデカすぎるよ」
「そ、そうだよね…」
「夏目くんは体育大丈夫なの?」
「うん、運動することはできるよ」
 ぼくらは一緒に体育館に駆ける。みんなが集まる頃にチャイムが鳴る。体育教師の藤井梢先生がジャージ姿で走ってくる。体育館はぼくらだけでなく、二年生も集まっていて、真ん中でスペースを二分する。金魚鉢中学にはグラウンドが無い。陸上部が使う狭いスペースがあるくらいだから、みんな体育館に集まる。
 藤井先生が挨拶する。
「こんにちは、体育の藤井梢です。先生は、去年からこの学校に赴任してきました。ことしは一年生を受け持つので、みなさんよろしくお願いします」
 アニメ声で背が低い藤井先生はとても可愛くて一番若い先生なのだけど、男子より女子に人気があって、コズコズと呼ばれて愛されている。やっぱり男子に人気があるのは、美人の海野先生なのです。
 ぼくたちは整列して、準備運動をして、組体操の練習をする。肩倒立、ブリッジをやって、藤井先生がみんなの間を歩いてまわり、修正する。二人一組になる。ぼくは倉野麗奈と組んで、麗奈が床に両手をついて、ぼくは麗奈の両脚を持ち上げて、自分の肩にのせるのだけど、手を突いてる麗奈は身体を大きく反るから、ぼくは麗奈の両脚を一生懸命抱きかかえて、バランスをとるために腰を突き出すと、股間の膨らみが麗奈のアソコに密着する。そんな状態になる子は他にいない。麗奈はおっぱいが大きいから、上衣がめくれて下乳がみえてしまうらしく、ときどき片手で裾を引っ張るから、そのたびにぼくは麗奈の両脚を持ち直して、腰を突き出すから、股間どうしがぐりぐりこすれ合う。藤井先生がみんなの間を歩いてまわるのがとても長く感じる。麗奈の腕が震える。おっぱいが大きい分、麗奈は他の子より大変かもしれないとおもって、ぼくは身体を反って麗奈を一生懸命補助するのだけど、麗奈は余計身体を震わせる。とうとう力尽きる。ぼくは麗奈の両脚をゆっくりおろす。汗だく。藤井先生が駆け寄ってくる。
「倉野さん、大丈夫?」
「すいません、平気です」
「具合悪い? 保健室…」
「大丈夫です、全然、元気ですよ」
「無理しないで、具合悪かったらすぐに言ってね。じゃあ次、肩車します」
 ぼくは麗奈に大丈夫?と声をかけて、麗奈は汗びっしょりで頬を真っ赤にして平気だよと目線を合わせずに呟いて、ぼくは片膝をついて麗奈を肩に跨がせる。麗奈は太股でぼくの頬をしっかり挟んで、ぼくは一気に立ち上がる。
「ちょっ、ああっ、まって、おろし…」
 麗奈の様子がおかしい。ぼくはゆっくり屈んで再び膝をつく。ぼくを跨いだままの麗奈が身体をぎゅっと縮めて、ぼくは首筋に濡れた感触を覚えて、妹の亜梨子がときどきそうやって痙攣するのを思い出す。ぼくは麗奈が落ち着くのを待つ。一分か、二分くらいして、麗奈はもういいよ、と囁く。再び麗奈を持ち上げて、肩車します。麗奈は、やっぱダメ、と言う。おろす。藤井先生が駆けてくる。
「倉野さん、無理しちゃだめ」
「ごめんなさい、先生。夏目くん、あたし保健室に…」
「夏目くん、連れて行ってあげて」
 ぼくは麗奈に肩を貸して、半ば抱えるようにして歩く。麗奈の乳房がぼくの胸に触れる。小学生の頃、組体操を授業で練習することはほとんどなくて、体育祭の直前に簡単な倒立とか危険のすくない技を練習するくらい。金魚鉢学園には体育祭はないから、組体操をやる意味はない。内股でふらふら歩く麗奈を抱えて、左手で乳房を掴んでしまう。
「あっ、ごめん」
 慌てて手を脇腹にずらす。体育館を出て、渡り廊下を歩き、一階の保健室へ。歩いているうちに脇腹にずらした手がふたたび麗奈の乳房を覆う。海野先生は足首を捻挫した生徒をテーピングしている。ぼくは麗奈をベッドに寝かせる。毛布を掛けようとすると、暑いからいらないと言う。汗だくの麗奈の上衣は丸い乳房にぴったりはりついて、乳首が浮く。そういうことに細かく気づいてしまう自分の目線を嫌悪する。
「ねぇ、わざと?」と麗奈。
「え?」
「わざとだよね」
「ごめん、倉野さんふらふらしてるから、抱えようとして、胸触ってしまっ…」
「ちがうよ、ちがう」
「えっ」
 麗奈はそっぽをむく。海野先生を見上げる。言う。
「補助倒立のとき、あたしのアソコ触った?」
「触ってないよ…」
「嘘ばっか、ずっと触ってた」
「触ってないです…」
「ねぇ、正直に言って。でないとコズコズにいいつけるよ」
 ぼくは俯く。海野先生をみる。まだテーピングした子と喋っている。麗奈は怒ってる。
「倉野さん、崩れそうだから、両脚をこうやって抱えて、身体を反ったんだ。そしたら…」
「そしたら?」
「その、おちんちんがあたって…」
「えーそんなだっけ? そういう感触じゃなかったよ。ちょっとまって、もっかいやってみて」
 麗奈はベッドから飛び降りて、もういちど両手を床につく。ぼくが両脚を持ち上げて、身体を反ると、おちんちんのふくらみが麗奈の股間にぴったりおさまってしまう。すこし揺れただけで、むにむに圧迫する。
「えっ、触ってない? ちょっと、ちゃんと両手で足首掴んでる? おろして」
 麗奈をおろす。麗奈は起き上がるときに尻餅をついて、ぼくが助け起こす。ケラケラ嗤う。
「アハハ、それだー、夏目くんごめんね。てかさー、それ密着されて、夏目くん力入れてぶるぶるするから、マジヤバイんだけど…。絶対、指とかで触ってるとおもった。ごめんね、危うくあたし先生にいいつけるとこだった」
「ぼく、体育休んだ方がいいかな…。迷惑に」
「そんなことしなくていいよ。あたしがみんなに説明しておいてあげる」
「えーっ。それは恥ずかしいよ」
「心配しないで。ウチのクラスって、ウチらのグループが一番人数多いから」
 女子グループの話。男子からはよく見えない、女子たちの複雑奇っ怪な集合。麗奈はベッドに腰を下ろす。話が終わった海野先生が歩いてくる。
「麗奈ちゃんどうしたの?」
「先生、あたし逆立ちで頭に血がのぼっちゃって、きもちわるくなっちゃって」
「吐き気する?」
「それは大丈夫ですけど、まだちょっと…」
「横になってる?」
「はい、すいません」
 麗奈はベッドに横になる。海野先生がぼくに冷えピタを渡してくれる。麗奈のおでこに貼り付ける。麗奈はぼくの下腹部をみている。両手で鼻と口を覆って、くすくす嗤う。
「夏目くん、根元はみ出してるよ。あたし目のやり場に困るー」
「動くとすぐズレちゃうんだ」
「あー、ね。不便だね、ウフフ…」
「ぼく戻るね」
「えー、一緒にいてくれないの?」
「藤井先生に怒られちゃうよ」
「いいじゃん、あたしが引き留めたって言えば。なっつー優しいからほっといてくれるし」
「なっつーって誰?」
「海野先生」
「海だからなっつー?」
「海野菜月だよ」
「あ、そっか」
「興味ないの? なっつー男子に超人気じゃん」
 ぼくは麗奈のベッド脇にパイプスツールを置いて、座ってお喋りする。お昼休みにお姉ちゃんと喋る以外に、クラスの子と二人きりで喋るのは初めて。お姉ちゃんや妹と違って、くすぐったくて、甘酸っぱい薫りがして、その薫りのなかに女の子が濡れた匂いが混じるのを敏感に感じて、落ち着かないまま体育の時間をほとんどサボってしまう。
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