R18恋愛官能小説 青山倉庫

太陽ノ樹

第8話「全裸傀儡」

 晃弥と、沖田くん、佐竹が三人とも休んだその日は、身体測定の日です。
 ぼくたちのクラスはお昼前で、保健室に集まるのだけど、山本裕也がまだ来ていなくて、保険医の海野先生に、呼んできてください、と頼まれます。海野先生はとても綺麗なひとで、若くて、臨床研修が終わったばかりでこの学校の校医に志願したとききます。お父さんが駅向こうのウミノクリニックの院長だということを、みんなしっています。
 ぼくが教室に戻ると、山本くんは机に突っ伏して寝ていました。
「山本くん、身体測定だよ。起きて」
 ぼくが揺さぶると、山本くんは顔だけあげて、いきたくない、と呟く。
「具合悪いの?」
「負け続きなんだ……」
 山本くんはプロ棋士を目指しているけれど、まだプロではない。研修会というところにいて、日曜日に例会があるのだけど、それ以外の日にも休みを取ってサロンや研修生の集まりに出かける。将棋の世界はとても層が厚い。
「じゃあ、寝てる?」
「うん、早退する。海野先生には具合悪いって言っておいて」
 山本くんはふたたび机にうつぶせになる。制服のサイズが会わなくて、袖が長い。山本くんは、背が低いぼくより小さい。ぼくは山本くんを置いて教室を出る。身体測定なのに、男子二人だけで心細かったのに、とうとうぼく一人になってしまう。
 ぼくは保健室に駆け込む。女子生徒たちはみんな裸で、一斉にきゃあきゃあ悲鳴をあげる。ぼくはびっくりしてそのまま後退するけれど、全裸の川野桃華がぼくの腕を掴む。
「夏目くん、大丈夫だよ。みんな一緒だよ」
「でもでも…」
「ほらっ、入って」
 ぼくは腕を引っ張られて、二十二人の裸の女子の間に放り出される。女の子たちは胸を手でかくしてる子もいれば、川野桃華みたいになにもかくさず堂々としてる子もいて、みんな好き勝手にいろいろ喋る。ぼくは軽い猫パニックを起こして女の子たちに笑われながら突き飛ばされたり脇腹をくすぐられたりして右往左往。眼鏡の学級委員長が真っ赤になって笑ってる。そのむこうでお姉ちゃんが他の子と喋ってる。胸のある子もいれば、お姉ちゃんみたいにペタンコの子もいる。アソコに毛が生えている子はいない。みんなスタイルがいいし、みんなカワイイ。モデルや舞台を志す子たちだから当然かもしれない。だれかが、夏目くん勇気あるね、と言う。夏目くんならよくない?と誰かがこたえる。
「はいはいはい、バラバラにならない。みんなちゃんと並んでー。夏目くん、山本くんは?」
「山本くん、具合悪くて早退するそうです」
「あら、じゃあ夏目くんは早く服脱いで」
 海野先生が言う。測定の補佐のために、三年生の女子生徒が三人いて、彼女らは制服を着ている。三年生のひとりが服をいれる籠を持ってくる。全部脱いで、これに入れてね、と言う。着替える場所もなく、遮蔽物もない。ぼくは折りたたみ椅子に籠をのせて、服を脱ぎ始める。みんな観ている。恥ずかしくて、背中を向ける。制服を脱ぐ。ぼくは上靴と靴下を脱いだところで躊躇する。背後で三年生が待っている。どうしてこんな晒し者になるのかわからない。振り返る。
「あの…、ぼく」
「はやく脱ぎなよ。男の子でしょ!」
 そう言って、三年生はぼくのシャツをまくる。上向きにパンツからはみ出たおちんちんが露わになって、女の子たちがまたきゃあきゃあ騒ぎ出す。三年生がぼくのシャツを引っ張り上げたまま、ぼくも両腕をあげた状態で、「きみ、この子のパンツおろして」と裸の女子に言う。川野桃華がぼくのボクサーパンツをおろす。おちんちんが自重で下を向いた弾みに、桃華の頬を撫でる。
「この学校はみられてナンボの世界なんだから、脱ぐのにそんな躊躇ってちゃだめだよ」
「ごめんなさい…」
 ぼくは全裸になって、俯いて謝ります。女の子たちは口々に、デカっ、長っ、うっそありえな、ヤバイちょー巨根などと好き勝手に囁き合って、好奇の眼差しでぼくの股間とぼくを交互に観る。恥ずかしくて顔が燃えるように熱い。三年生が、こっちに並んで、と言う。ぼくは、列の最後尾に並ぶ。ぼくの前は川野桃華、その前は安城さつき。桃華とさつきはひそひそ話をして、ぼくを眇める。さつきが桃華を突き飛ばし、桃華はぼくに倒れ込んで、片手でぼくのおちんちんに触れる。
「あははっ、ごめん夏目くん」
 身体を離す。ふたたびひそひそ話。どんなだった、ちょっと暖かかった、硬い?、ううん結構柔らかい。ぼくは女の子たちの裸をみていると興奮しそうだから、その先の測定順を眺めて心を落ち着けようと試みる。最初に身長体重、座高、視力、握力、血圧、その後で海野先生に聴診器をあてられて、最後にサイズ測定。まだ貰っていない体操着とスクール水着をオーダーするために、全身のあらゆるサイズを測定するのだけど、そのサイズを元にデザイン課の生徒が衣装を作って、モデルクラブの子なんかはショーに出て衆目の真ん中を歩かなければいけない。そういう学校である以上、着替えのために人前で裸になることくらい慣れないといけないのかもしれない。
 桃華がまたさつきに押されてぼくに倒れかかる。さっきより激しくて、ぼくは桃華の背中から抱いてしまって、形の綺麗な乳房を両手で掴む。桃華は、ぼくのおちんちんを両手で掴む。指先でいちばん敏感な先っぽを包まれる。
「やん、ごめん夏目くん。ちょっとさっちん」
 桃華は手を離してくれないから、ぼくも桃華の胸を包んだままはなせない。桃華はぼくに抱かれたまま、さつきに蹴りを入れるけど、さつきに脚をとられる。桃華はぼくのおちんちんを掴んだままバタバタするから、振動に感じてしまって、ぼくはみるみる勃起してしまう。ぼくにおっぱいを抱かれたままの桃華がぼくを見上げる。
「ごめん…、刺激しちゃった?」
 恥ずかしい。もうやだこんなの。ぼくはその場にしゃがみ込む。涙がにじむ。
「ごめんねごめんね、夏目くん。どうしよう、ああ泣いちゃった…、あたしのせいだよね…、ごめんね」
 桃華が慌ててぼくを慰める。みんながぼくを観ている。ちょっとモモ夏目くん泣かしちゃだめだよとさつきが言う。ぼくたちの前に並んでた女子数人が集まってきて、みんなで慰めてくれる。夏目くん大丈夫だよ、男の子だもんしょうがないよ、おおきいことは良いことだよ、モモ酷いよね、夏目くんの綺麗だからいいじゃん、みんな気にしてないよ、ほら立って。
 ぼくはみんなに抱き起こされて、つまり裸の少女たちに抱き起こされて、裸の少女たちに裸を触られて、おちんちんも全然落ち着かなくて、桃華はあたしが隠してあげるからと言って背を向けて、ぼくを後ろ手に引き寄せてじぶんの背中に密着させます。そんなぼくをみて、お姉ちゃんはケラケラ笑ってる。心配したり嫉妬されるより幾分気が楽ですが、ぼくは本気で興奮してしまって、桃華の二の腕を掴んで、じぶんから密着しておちんちんをおしつけます。柔らかいお尻の溝に根元を挟まれて、歩くたびに桃華の肌に刺激されるのですが、すぐに桃華の順番が来て離れてしまって、ぼくは勃起したまま身長と体重を測ることになります。測定を補助する三年生二人もやっぱりぼくのおちんちんをみて、微笑んで、照れて、身長測定の棒に背中を密着させるために、わざとらしく反り返ったおちんちんに触ってぼくの背中をおしつけます。視力や握力の測定なのに全裸で、三年生はぼくだけに時間をかける。ようやく海野先生の前に座ったとき、測定の終わった女子が後ろで制服を着始めていて、ぼくは最後まで全裸でいなければならないことに気づきました。
「夏目くん、発疹がでたり、動悸や息切れしたりしない?」
「今のところ、ないです」
「抜け毛は?」
「ないです」
 海野先生は真面目な質問をする。発疹や脱毛は薬の副作用で出ると言われたけれど、ぼくには何もおきない。風邪を引きやすくなったことを、伝えた方がよいかどうか迷っているうちに、海野先生はぼくの顎下のリンパを触診する。首筋、鎖骨、脇の下、脇腹、太股の付け根を親指でおさえ、ぼくは両脚をひろげられて、内股を触診される。海野先生の親指が、陰嚢の裏側に伸びる陰茎の根元をこりこり刺激する。先生の艶のある唇が、屹立した陰茎の先端に数センチまで迫り、先生は他の子にわからないようにぼくに息を吹きかける。先生は上目遣い。ちょっと長い。他の子はすぐ終わったのに。
「せ…」
 海野先生はぼくがなにか言おうとすると、聴診器をぼくの胸にあてる。じっと心音をきく。きっと鼓動ははやい。じぶんでも感じるくらい、ドキドキしています。勃起したおちんちんに先生の腕が触れる。先生はわざと触れさせる。
「はい、いいですよ。サイズ測定終わったら、着替えて教室に戻ってね」
 ぼくは立ち上がって、サイズ測定に移る。全部終わったのに、まだ着替えずにぐずぐずしてる女子たちがぼくの測定を見に来る。さっき身長測定してくれた三年生たちがぼくの胸囲や胴囲、肩から手首、着丈、腰回り、太股の太さ長さ、脚のサイズ、頭のサイズ、首の太さから指の太さをつるつるしたメジャーを巻きつけて測ります。女子たちは誰も教室に戻らず、ぼくをみに集まってきます。恥ずかしいことには変わりないのですが、むずむずするような快感があって、三年生が跪いて、ぼくのおちんちんの長さと太さを測り始めると、ぼくは敢えて腰を突き出します。一番恥ずかしいところをクラスの女子全員と三年生にまできめ細かに観察されるという恥辱に顔も身体も血もたぎってますます性器へと汪溢し、恥骨から先端までを測定していた女子が、三十二てん五センチ、と発するのに女子たちがすごーいと声を揃えるのですが、それが昨夜、お姉ちゃんの胎内にすっぽりおさまっていたことをハッキリおもいだします。三年生は、時間をかけて横と裏側からも長さを測り、太さを測り、それが終わるとようやく解放されます。ぼくは三年生に制服のはいった籠を渡され、最初の折りたたみ椅子で服を着ます。まだ裸のままの桃華が籠を持ってとなりにやってきて、一緒に着替えます。
「ねえ、すごいこと教えてあげよっか」
「すごいこと…?」
「サイズ測定ってさ、おちんちんのサイズって普通測らないんだよね」
「そうなの?」
「うん、てか、ここって男子すくないのに男女混合で身体測定やるからさ、みんな理由つけて測定出ないんだよね。出ても逃げ出したり、泣いて帰ったりするし。だからショーに出られる男子って、いまいないはずだよ」
「ふうん…、えっ、じゃあぼく」
「夏目くん、測られちゃったから、モデルクラブに入れるよ。ウフフ…、よかったね」
 衣装を着てステージを歩くだけならぼくにもできるかもしれない。桃華は縞々のブラをつける。お姉ちゃんはつけない。さっき桃華の胸を掴んでしまったことを気にしてしまう。
「さっき、触ってごめんね」
「ううん、いいんだよ。あたしちっさいし」
「柔らかかった…」
「えろーい、アハハハッ」
「ごめん…」
「いいの、気にしなくて。夏目くん、こないだ百道先生撃退したから、女子人気あがったんだよまた」
「女子人気あるのは沖田くんじゃないの?」
「なんで?」
「かっこいいじゃん」
「おっきーは整形だよ」
「マジでっ?」
「しらなかった? ウチら金魚鉢小から一緒だから、みんなしってるよ。公然」
 シャツのボタンをとめていると、チャイムがなる。着替えている最中も、女子に取り囲まれているけれど、もう恥ずかしさはなくて、甘い匂いのせいできもちが宙にたゆたっていて、この異様を異様に感じられなくなってしまう。

 お昼休み。
 ぼくはお姉ちゃんと一緒にお弁当を食べたあと、ホームレスに貰った本を持って職員室に行く。理科の斉藤先生を捜す。英語の倉掛先生に、斉藤先生は理科室に居ると教えて貰う。職員室を出るとき、保険医の海野先生とすれ違う。ぼくはお辞儀をする。海野先生はぼくの眼をみつめたまま、意味深な笑みをみせる。海野先生は美人だから、厭な気はしない。階段ではデブで禿げた渡辺先生とすれ違う。お辞儀をする。渡辺先生はぼくを無視する。理科室の前で、二年生の女子がじゃれあっていて、ぼくはその脇をそっとすり抜ける。理科室に入る。斉藤先生が、ガラス製の黒板にマーカーで書いた板書を消している。
「斉藤先生、こんにちは」
「あら、夏目くん?」
「質問があるんですけど、お昼はまだですか?」
「いいよ、先生次の時間は空いてるから」
 斉藤光恵先生は理科の先生で、分子生物学の博士号を持つ才女ですが、アラフォーなのに結婚していません。この学校の先生は義務教育の枠を飛び越えた授業をすることが多くて、胡散臭い話を振るのに躊躇はありません。
「人間から人造人間を造ることって、できるのですか?」
 板書を消していた斉藤先生が振り返る。
「あら、以前、おなじ質問をされたわね。流行ってるの?」
「そういうわけじゃ……」
「人造人間の定義と異なるけれど、近いことはできるのよ」
「それはたとえば」
「まず、人造人間は年をとってはいけないの。常に、おなじ姿でいなければいけない。そのために、老化を抑制するための酵素がもともと人間のからだに備わっているのだけど、それを活性化させることも実現はしている」
「それは実用化されているのですか?」
 斉藤先生は白衣を脱いで。いま消した黒板に新たに図を描く。らせん状の遺伝子構造。
「しっているかもしれないけど、遺伝子にはテロメアと呼ばれる余分なパターンがあって、細胞が分裂するたびにそこが減ってゆきます。最終的にすり減った細胞は、ヘイフリック限界に達して分裂を停止するんです。細胞が増えなくなるの。これが、老化の最大要因とも言われているのだけど、個体の老化と細胞の老化に因果関係は立証されていないから、定かではありません。
 じゃあ、このテロメアを修復すれば細胞レベルでの老化を防止できるかというと、実はそうでもない。テロメアを修復するテロメラーゼ酵素の活性化は、植物みたいに株分けで無限に増殖する生物にはごく普通のこと。でしょ? 植物は不老不死なの。古くなった部分は切ったり接いだり、分断して地面に指せば根が生えて新たな個体となる。
 人間の場合は、生殖細胞にそれがみられます。つまり、残念な解答だけれど、細胞レベルでみると種としての人間はすでに不死なの。不老ではないけれど、生殖細胞でリセットできる。そうなっているということ、つまり生殖細胞によって新たな生命が生まれて別の個体として育っていくという生来の機能は、そうしなければならない未解明の理由がたくさんあるとおもいます。そのひとつが、テロメラーゼ酵素活性によって、人間の細胞はしばしば不死身になるのだけど、なんのことかわかるかな?」
「不死身の人間なんて……」
「無限に増殖する細胞」
「癌ですか?」
「そう、がん細胞、悪性新生物。細胞の分裂は必要に応じた秩序だったプロセスだけど、そのルールを無視して分裂を繰り返して、死ぬべき細胞がしなない状況に陥る。細胞の不老不死なんて碌でもない話ね。
 単なる老化の防止、アンチエイジングであれば、成長ホルモン分泌を促す方法とかいろいろなくだらない健康法が日々生み出されているのだけど、人造人間という不自然あるいは超自然の停止は、なにがしかの不自然な方法で実現する必要があると考えれば、大昔から研究されている細胞置換ね」
 斉藤先生が黒板にアルファベットを書く。『pseudomonas solaris』、なんと読むかわからない。
「シュードモナス・ソラリス、研究者が単純にソラリスと呼ぶこの微生物には、別の生物の細胞をコピーする機能が備わっていることが識られているのだけど、培養方法や、別の生物への感染因子については、識られていません。実は、この微生物の実験は様々な規約で禁止されていたりするのだけど、誰も守ってないのが実情、罰則もないからね。ソラリス、というこの微生物自体、たくさんの種類があるし…。学校には、地下室があって、そこで培養実験をやったりするのだけど、この種の微生物は成長や老化を止めることはできても、息の根まで止めてしまうことがほとんどね」
「この学校に地下室があるんですか?」
「この学校の校舎は、もともと陸軍の防疫倉庫がおかれていたから、一階の一部と、地下室はそのままなんだよ。ほとんど使ってないから、識らない先生もいるけどね…」
 ぼくは持っていた本を差し出す。ホームレスに貰った本『人造人間』。
「これ、ある人に貰ったんです」
「あー、谷崎一仁の本ね」
「識ってるんですか?」
「しってるよ、トンデモだけどね」
「トンデモ?」
「空想科学の世界よ」
 そうなんですか、とぼくは肩を落とす。先生はぼくの肩に手をのせる。
「もっとおもしろい話をそのうち聞かせてあげるから、またおいで」
 ぼくは立ち上がって、ありがとうございます、と言ってお辞儀をする。理科室を出る。
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