R18恋愛官能小説 青山倉庫

太陽ノ樹

第3話「クラッシュハウス」


 自宅が全潰しました。
 夕暮れに起こった余震の影響で、ウチにはなんの問題もなかったのですが、自宅裏の整備されていない崩れかけのプレハブ小屋がとうとう崩れてぼくたちの家に倒れ込み、一階のキッチンの半分を残して全部破壊され尽くしてしまいました。ぼくと姉が自宅に戻ったとき、クレーン車と消防車、パトカー、テレビ局、黒い車が何台か駐まって、黄色いテープが巡らされて、人だかりができていた。
 ぼくとお姉ちゃんは野次馬をかき分けて、テープの内側へ。玄関先は瓦礫が積まれていて、警察官に「ご家族ですか?」ときかれ、そうですと答えると庭を指さされる。お父さんとお母さん、妹が寄り添って、背の高いスーツの男から何か説明を受けている。亜梨子が駆け寄ってきて、お兄ちゃんの部屋跡形もないよ、と言う。
「怪我なかった?」と亜梨子にきく。
「あたしたち、ちょうどお祭りに行こうとしてたから」
「車は?」
「あっちに駐めてある。車以外は全部粉々だよ…」
 亜梨子は真っ青で、お姉ちゃんに抱きつく。ぼくは瓦礫の山を眺めながら、お母さんに言う。
「路頭に迷ったね」
「舞洲の保養施設に泊まるのよ」
「でかいところ?」
「綾川邸よ、すごい大きいんだから。無事な荷物以外は保証して貰えるから、あとで損害リストを書いてね。お母さん、あなたの持ち物把握してないから」
「ぼくは服とベッドとパソコンでいいよ」
「欲しいモノ書くんじゃないのよ」
「いいじゃん、わかんないよ」
 お母さんは溜息をつく。お父さんがニヤニヤしながら書類を持ってくる。
「おい、新聞テレビの取材に答えないようにしろだと」
「言われなくても」とぼく。
「新築に建て替えてもらえて、家電も新しくなるぞ」
「ラッキーじゃん」
「あんな野党にみんなして投票するから、こんなことになるんだよな」
「選挙前は自民党は駄目だって言ってたじゃん」
「自民党が駄目なのは昔から変わってねえんだよ。あーちょっと」
 お父さんは消防士を呼び止めて、倉庫に灯油がしまってあることを伝える。瓦礫のなかで赤い保管庫がひっくり返って、アルファベットの書かれた一斗缶がたくさん転がっている。それがよくない薬品なら、ウチの敷地にずっと転がっているのは迷惑な話だ。
 クレーンが崩れた鉄骨の束を持ち上げて、ぼくたちはプレハブの持ち主が用意したタクシーに案内される。

 保養施設は高台にある巨大な旧家の綾川邸でした。
 黒いギザギザの屋根と漆喰の壁という外観は洋館でしたが、過去に三度焼け落ち、舞洲治験が買い取ったときに大幅な改修が行われ、大正浪漫の風情溢れる外観のまま現代建築の頑丈な骨格を獲得したそうです。丁寧に手入れされた庭に馬車の車輪を切って造られたベンチと花壇、バルコニーの太い柱に蟒蛇が巻きつくその先は、青白い雲に包まれた月の閃き。
 ぼくは妹と一緒にお風呂に入る。我が家でもお湯を節約するために、いつも妹と一緒に入る。自宅のお風呂よりずっと広くて、ぼくはピンクのバスチェアに座って、亜梨子を後ろ向きに抱っこして、シャンプーでお互い頭を洗う。流す。石けんで両腕両脚を撫でて、お腹を撫でるときに脇腹をくすぐって笑わせて、背中と肩を泡々にして、胸を撫でるとやっぱりくすぐったがって、身体を捩るのだけど、もう笑っていなくて、股間に指先を滑らせると仰け反ってウットリして体重を預けて、ぼくはまた身体の一部分が充血して反り返り、後ろ向きの亜梨子の股間から飛び出します。
「おちんちん生えた」
 亜梨子はそう言って、亜梨子の股間を持ち上げるぼくのおちんちんを掴んで、泡でにゅるにゅるします。ぼくは、亜梨子の割れ目の薄い陰唇に指を沈めて、充血した陰核をこりこり捏ねます。ぼくと妹だけの密かな楽しみは、実は二年前から続いていて、お風呂以外の場所でも触りあうことがあります。そのせいか、妹は小学校にあがる頃には無口で大人しい性格になって、お姉ちゃんよりもぼくと仲良しで、いつも一緒にまとわりついて、こういう秘密を共有することに漠然とした罪悪と恍惚を感じ、その行為も徐々にエスカレートして、ぼくは亜梨子に唇を重ね、つるつるした唇どうしの滑る感触を楽しんで、ますます露骨に股間を振動させて、ちいさな乳首を指ではじくと、亜梨子のちいさな肉体は過敏に応えて膝のうえで踊ります。初めてキスしたのも二年前。キスと愛撫の次になにをするか、ぼくたちは教えられてもいないのに、識っていました。
 ぷちゅ、にゅるるるっ。
 他のどの部分よりも熱を帯びた陰茎が、亜梨子の小さな割れ目をひろげて滑り込みます。先っぽが、亜梨子の未熟な子宮頚にぶつかって、胃や腸と一緒に横隔膜を押し上げます。
「お兄ちゃ…、ダメっ」
 亜梨子がぼくの手を払いのける。しばらくじっとしているけれど、火照った身体がちいさくビクンビクンと脈打ち、幼い膣がぼくのおちんちんを締め上げる。ぼくはその種の感覚を他に識りません。シャワーを出して、身体を流します。一度亜梨子の身体から抜き取り、ふらつく亜梨子の身体を支えて、一緒に湯船に浸かる。向かい合って抱っこして、ふたたびつながります。亜梨子は頬を真っ赤にして、恥ずかしそうに眼を伏せて、ぼくをみてくれません。ぼくたちの秘密には名前がないし、ぼくたちはそれについて話すことはありません。じゃれあいの延長線でしかないと思っていますが、亜梨子がどう感じているか尋ねたこともないのです。
 亜梨子は胎内に納まったおちんちんの根元を握る。亜梨子の腕より太くて、三十センチ定規より長いのに、まだ毛も生えていない。ぼくにとっては大きなコンプレックスだけど、ちいさくて従順な妹は気にしない。
「あたしも金魚鉢に入りたい」
「小学校と中学校は別々だよ」
「お姉ちゃん、おなじクラス?」
「隣の席だよ」
「いいなあ」
 亜梨子はゆっくり身体を上下させます。ぼくたちはふたたびキスをする。ずっとキスをする。キスをすると、厭なことも、つらいことも、悲しいことも忘れることができるし、柔らかくて、熱くて、いいきもち。
「本田くんはおなじクラス?」
 亜梨子が唇をつけたままきく。
「晃弥はおなじクラスだよ」
「八尾は?」
「違うクラスだよ」
「八尾なんかと関わらないでね」
 八尾は小学校からおなじクラスになることが多くて、イジメや暴行、万引き、恐喝なんかで頻繁に指導されていた問題児。場末の公立中に進学すると思っていたのに、なぜか金魚鉢に入学した。理由も事情もわからない。格闘技トーナメントに野生の熊が紛れ込んでいるくらいの場違い感。デザイナーとはほど遠く、モデルになるには骨格から取り替えないと難しい風采なのに、身の程知らずも甚だしい。他のクラスになったことだけが救い。
 くちゃくちゃ、音をたてて舌を絡め合う。亜梨子は腰をしゃくり上げて、粘膜全部でぼくの陰茎を刺激する。脳みその芯がじいんとしびれて、眩暈がして、しあわせで、眠くなる。

 莉音、起きて。
 お姉ちゃんに小突かれて眼をさます。顔をあげると、百道淑子先生が、教壇からぼくを睨みつける。
 ガラス製の黒板に十六対九の長方形が描かれ、生活指導の動画が流れる。百道先生は社会課の先生だけど、生活指導の教師でもある。来年五十歳を迎えるお婆ちゃんだけど、ルックスはもう七十代後半くらいで、今日は派手な紫色のジャケットが眼に痛く、おぞましい薔薇の柄に覆われたタイトスカートを履いて、目に滲みる濃度の香水をまき散らす。
「私たち生徒を取り巻く環境は年々危険を増し、インターネットを通じた援助交際が特に問題になっています。その温床として、にちゃんねるなどの匿名掲示板……」
 暗い部屋でパソコンを操作する女子中学生と、部屋の中でマスクとサングラスをした男性が交互に映り、その中心に匿名掲示板が表示される。
「はい、みなさん」
 百道先生が画面をタップして動画を一時停止。
「おわかりになったとおもいます。こういう匿名掲示板は、これ以外にも多数存在しており、出会い系サイトなどは携帯からも簡単にアクセスできてしまいます。みなさんがお持ちの携帯は、そういった不健全なサイトへのアクセスは遮断されていると思います。また他にも薬物の売買や、学校裏サイトによるイジメなどが昔から大きな問題としてありました。先生たちは、そういう個々の問題に真摯に取り組み、この生活指導部が作られて間もなく、そういった問題は本校ではまったく無い状態まで改善したのです」
 さっきも同じような話をしていた。百道先生の生活指導集会はめちゃくちゃ退屈で、晃弥は楽しそうにしてるけど、山本くんはすっかり夢の中だ。女子は流石にみんな真面目に聞いているから、下を向いた山本くんがよく目立つ。ぼくもまた眠くなってきた。
「じゃあ、山本くん。やまもとゆうやくーん。はい、おはようございます。ぐっすり眠るくらいご理解頂いているとおもうので、山本くんに答えて貰いましょう。あなたたち生徒がアクセスしてはいけないサイトをみっつ、あげてみてください。はい起立!」
 山本くんが立ち上がる。山本裕也は将棋の棋士だ。毎晩遅くまで棋譜を勉強していて寝不足だときいた。だから、他の先生たちは山本くんが授業中に眠っていても怒らない。こんな見せしめを行うのは百道先生だけだ。
「えっと、アクセス……」
「そうです、生徒さんたちがぜーったいに見てはいけないページをみっつ」
「ぼくたち研修会生は、将棋ゲームのサイトで遊んではいけないって云われてます」
 晃弥が爆笑する。何人かの女子もくすくす嗤ってる。百道先生は鬼の形相。
「もう結構です。じゃあもう一人、居眠りしていた夏目くん、立って」
 ぼくがあてられる。しぶしぶ立ち上がる。
「さあ、みっつあげてください」
「匿名掲示板と、出会い系サイトと、学校裏サイトです」
「はいそうですね」
 ちゃんと答えたのに百道先生は素っ気ない。晃弥が手をあげて、はいはいせんせーと云う。厭な予感がする。
「なんですか本田くん」
「俺すっげ疑問なんすけどー」
 皮肉を言うときの晃弥はやる気のないコンビニ店員みたいな口調になる。
「どこの中学生だって、そんなパブリックフォーラムが猥褻な出会いの場になるとは思ってないんじゃないすか? つか、経産省だかその辺のクズみたいな外郭に『健全』ってお墨付き貰ってるソーシャルサイトが一番ヤバイとおもうんすけど、ちがうんすかー? 大体出会えない系サイトとか今時みかけねーし、にちゃんだってまとめ読んで終わりだと」
「なんですかその口のきき方は」
「そもそも論なんすけど、子どもを危険から遠ざけて、大人になるまでに必要なリテラシを獲得できる保証があるんですか? これって保護を建前にした教育の放棄ですよねー」
 晃弥の前に座っている学級委員長が振り返って、おだまり、と云って晃弥のおでこをチョップする。晃弥は仰け反って嗤う。百道先生は唇をふるわせながら反駁を開始する。
「ここで説明していることは、いいですか、生活指導部の序章にすぎません。最初に一般論、次に各論、最後に具体論をやります。本田くんの言っていることは、具体論のひとつです。こうした教育が一般論に偏るのはおかしいことではありません。具体的に、ほんとうに危険なサイトを細かく説明してしまうことで、生徒たちのうち何人かは興味本位でアクセスしてしまうのです。先生だって、ここで言っていることが古くて時代遅れなことは理解しています」
 タイミング良くチャイムがなる。百道先生は宿題のことを説明して、授業を終わりにする。百道先生が教室を出る後ろ姿に、晃弥が中指をたてる。
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