R18恋愛官能小説 青山倉庫

金魚博士の些末な日常

第16話「アピール」


 一月二十三、月曜日、午後八時二十七分。
 小塚三丁目の坂をのぼった緑地の中に、雪が積もった廃工場がありました。こんなところまで遊びにきたことがなくて、あたしは事前にインターネットで地図を調べてきたのですが、インターネットの地図は起伏が描かれていなくて、こんな勾配があるなら自転車で来るんじゃなかったと後悔します。風はありませんが、大粒の雪がしんしんと降り注いで、あたしのマフラーと真優の頭を白くする。
 ぼろぼろのプレハブ小屋はいくつも並んでいますが、ひとつだけ灯りが揺れている。あたしは自転車を押して、真優はあたしのうしろをちょこちょこついてきて、灯りのついた小屋の前に自転車をとめます。
「シュンは、ここだって、言ってたの?」と真優。
「小塚の廃工場なんて、ここだけでしょ」
 あたしは真優の手をひいて、プレハブ小屋の引き戸に手をかける。朝方、教室に入ろうとしたとき以上に緊張します。引き戸をあける。真優をひっぱりながら入る。引き戸をしめる。雪を落とす。中は、すごく湿気があって、暑い。マフラーを外して、あたしはニット帽を脱ぎます。入り口は右手の壁と左手の靴箱に挟まれた狭い通路になっていて、あたしは突き当たりに別役香奈が立っているのに気づきます。別役先生は簀子のうえに裸足で立ち、黒いレースのビスチェとグレーのショーツしか着けていなくて、後ろ手を組んであたしたちにいいます。
「寒いわ、はやくして」
 あたしたちは靴を脱いで、簀子を囲んだ十組の靴の脇に並べます。シュンと、先生の靴と、あとの八組は女の子の靴。別役先生はその場でくるりと方向を変えて、サッシをひいて部屋の中に入ります。あたしたちもその後についていきます。大仰なカーテンの向こう側は噎せ返る湿気と熱気が充満して、あたしと真優は入り口に立ち尽くしてしまいました。
 ソファに縛られた全裸のシュンの身体に、全裸の少女八人が複雑に絡みついて、濡れた音を立て、甘い声をあげ、リズミカルにぬるぬると蠢いています。その中心でゆさゆさと揺れるシュンの肌のうえを大粒の汗が幾重にも筋をつくり、おへその窪みに貯まった精液の泡もゆらゆら揺れてトロリとながれます。
 あのとき嗅いだ匂い。別役先生のお香のかおりがします。それに精液と愛液のにおい。床に散らばった夥しい量の体液が、ところどころ乾きかけて、狭い部屋に栗の花が充満しているみたい。
「お姉ちゃん…、ぼく…、はぁあっ」
 四人の少女がシュンのおちんちんに舌を這わせ、交代で飲み込んでいて、二人の少女がシュンの乳首や脇腹を愛撫していて、あとの二人はソファのうしろからシュンの首に腕をまわして、上気したシュンの頬を、左右から、つつと、嘗めます。あるていどは想像していたけれど、想像していた以上の惨状にことばを失い、暑さと息苦しさとセックスの匂いに眩暈がします。
「この服を買ったのは、沙希さんね」
 先生がテーブルのうえに畳まれたシュンの服を手にとり、ショートデニムをくるくる回します。
「男の子にこんな小さなホットパンツしか与えないなんて残酷ね。シュンのおちんちんは半分はみ出していたのよ。それともそういうアピールなのかしら? 今時、男の子もじぶんのセックスを、こうやって露出しなくちゃいけないなんて、世知辛いわね。そのアピールは、あたしたちには十分な効果がありましたわ。彼、とってもたくましいんですもの……」
 先生はそう言って、あたしの手を取って、シュンのむかいのソファに座らせます。先生が相槌するだけで、シュンの乳首を吸っていた少女二人がたちあがり、ソファに座ったあたしと、傍でたち尽くす真優のコートを脱がせます。ベストを脱がせます。ブラウスのナロータイをほどかれて、ボタンをうえから一つずつ外されていく間に、あたしは股間がびしょ濡れになっていくのを感じています。スカートを脱がされて、ニーソックスと下着だけになったとき、傍らの真優は全裸になっていて、真優とおないどしくらいの痩せた少女に背中から抱かれて、耳元でなにか囁かれながら、薄い胸を撫でられて、股間に指を入れられて、真優は陶酔した溜息をながながと漏らします。
「沙希さま、脚をひらいてください」
 あたしの下着を脱がせて全裸にした少女が、あたしの膝に手をのせて跪いて、丁寧に懇願する。しらない子なのですが、その表情は緩く甘えるようなかんじがして、だけど強い義務とか使命とかを背負った眼差しは、そういえば真優の担任の別役先生がはじめて家庭訪問にきたときをおもいださせます。
 あたしはゆっくり股をひらいて、少女は親指であたしの割れ目を拡げて、あたしとあたしの割れ目を交互にみて、照れるなぁ、と呟きます。
「あたしも、恥ずかしいよ……」といいます。
「沙希さま、とても綺麗です」
「そう…」
「桜色で、毛も生えてなくて……。ここでいつも淳さまを包んでいるのですね」
「あっ、そっち…」
「えっ、いえ、沙希さまは美人です。でも、アソコ…おまんこの色や形まで美人です」
「なんか、へんなかんじ……。そんなところ、褒められたことないし…」
「おっぱいの形がいいって言うじゃないですか。おまんこの形にも善し悪しがあります。沙希さまはとても綺麗で、あたしなんかが嘗めてもいいのでしょうか、ううん、嘗めたいわ。こんなに美しいおまんこを嘗められるなんて、あたしはしあわせなのね。あたしなんて、ビラビラが分厚すぎて……。みますか?」
 ひとのおまんこに興味はなかったのですが、みないと答えると、この気の弱そうな少女を傷つけることになるのが怖くて、あたしはみせてみせて、といいます。いまはこんなにエッチな気分ですから、真優と同い年くらいのこの子なら、おまんこを嘗めてあげてもいいとおもいます。
 少女は立ち上がって、片足をソファの肘掛けにのせて、じぶんの割れ目を指で拡げます。この子が言ったとおり、アワビみたいな分厚い小陰唇がぱくりとひらいて、泡にまみれた精液の塊がどぼりと溢れ、あたしのお腹にボトボト滴ります。
「ああっ、ごめんなさい」
 少女は慌てて跪いて、あたしのお腹に流れる精液をぺちゃぺちゃ嘗め始めます。あたしはくすぐったくて、ひゃははっ、とへんな声で笑ってしまいますが、少女の舌先があたしの割れ目に沿って滑り、膣口をかきわけ、粘膜に唇が吸いついたとき、笑い声が甘い喘ぎ声に変わります。じぶんの声なのにびっくりするほどいやらしくて、あたしはもっといやらしい声をあげようとおもって、腰をめちゃくちゃ突き出して、人差し指の爪を上唇にあてて、おもいきり溶けそうな声を漏らします。あたしの隣で腰がくだけた真優も、あたしにそっくりの声で喘ぎます。
「お姉ちゃん……、あたし、あたしが悪いの」
「ま…ゆは、わるくない」
「先生にビデオ貸したりするから…」
 真優のすすり泣き。シュンのかすれた悲鳴。髪の長い少女がシュンを後ろ向きにまたいで、あたしにみせつけるようにつながって、上下にちゃぷちゃぷします。そのちゃぷちゃぷの繊細な音階にふくまれる鮮やかさは決して卑猥なものでなく、鬱々とした水気をたっぷり含んだ果物の瑞々しさに似て、無上の悦びを表現する肉と粘膜と体液のちゃぷちゃぷであって、じっと耳を澄ましていれば、ちゃぷちゃぷがあたしの肌にしみこんで、シュンのソファから九十センチ離れて向かい合い、脚を伸ばせば濡れた陰嚢を足指で挟める距離にいて、なお、あたしをくるおしくさせる音の快感をもたらすのです。
「沙希さんと真優さんは、もう少し、身体を温めてもらいますわね」
 先生がそう言うと、シュンを取り囲んでいた少女四人が立ち上がって、今度はあたしを取り囲みます。四人ともなにか喋るわけでもなく、とてもおとなしくて、すこしおどおどしながらあたしの寝そべるソファの両側にひしめきあい、あたしの乳首や脇腹に舌を這わせます、おそるおそる、つるつると。
 得体の知れない煙を吸わされて前後不覚なあたしたちに、先生が猥褻な行為を促しているということは、頭の中ではわかっているのですが、身体がもっと触れあうことを求めます。あたしは両腕を伸ばして、左右の少女たちをもっと引き寄せて、少女たちはもっと強く乳首を愛撫して、割れ目を嘗めていた少女はあたしの蕾に舌を這わせて、誰かがあたしの陰核を鞘ごとちゅうと吸いたてて、誰かの指が膣口につるんと滑り込んで、恥骨の裏側を、くいくいと、優しく圧迫します。
 きがくるいそう。いいえ、もうとっくに、くるってしまったのかもしれません。貞操という心の盾は木っ端微塵に砕かれて、あたしはしらない少女たちに愛撫される頽廃に溶かされて、おしっこが漏れそうだけど全然恥ずかしくなくて、もっともっとめちゃくちゃにして欲しいのに、心のいちばん奥底で、あたしはシュンにしか犯されたくないと最後の抵抗を試みます。ですが、この部屋にはシュンのほかに男子がいません。見知らぬ少女たちの子分がいる先生には、当然、男子の小間使いもいるとおもったのですが、待てど暮らせどだれも登場することなく、シュンは声もだせずに白目を剥いて少女の胎内へ派手に射精します。噴き出した精液が床とあたしを愛撫する少女の背中にバラバラと散って、シュンは完全に力がぬけてぐにゃぐにゃに失神しているのに、少女は二人目に交代して、休む暇もなく小さなお腹ににゅるるっとおさまってしまいます。
「お姉ちゃぁん……」
 甘えた鼻声で、真優があたしに覆い被さり、あたしたちは姉妹で大人のキスをします。ほどけた真優の髪の毛があたしの頬をひんやり撫でて、真優の舌がくちゃくちゃ絡みついて。
「んむぅ、むはぁ……、きもぴいい、おめえちゃん、はむ、いいきもひよ」
 そんなふうに言葉にならない言葉で快感を表明します。真優の割れ目も誰かが愛撫していて、四方八方からくちゅくちゅぴちゃぴちゃが響いて、五感全部がセックスを享受して、快楽というのはおまんこや乳首だけで感じるものではなくて、眼や耳、舌や鼻腔に充ちてしみこんで、こすっても落ちなくなるようなオイリーな感覚だと学びました。ですが、あたしはもはや継続的な悦楽の波にただただ力なく抱かれて、ときどき痙攣するばかりで、名前を呼ばれても返事もできません。
 沙希さん、田神沙希さん…。
 いつの間にか先生は下着姿から白いワンピースに着替えて、黒いジャケットを羽織って、髪を結いながらあたしを見下ろしています。ツンとうえをむいた鼻の形が綺麗で、睫が長くて、目頭の開いたその特徴に、わずかに西洋の血が混じっているように感じます。
「身体は温まりました?」
「ええ…」
 別役先生はしゃがみ込んで、あたしの濡れた股間を撫で回し、中指をみぞにそって上下させつつ、つぷりと膣に沈めます。
「外側は温まっても、内側はまだ冷えておいでだわ。こんな寒い夜には、身体の芯から温まらなくてはいけません」
 先生がそう言うと、少女たちはあたしに抱かれてきた真優を抱き起こし、左右からあたしの身体を抱え上げます。こどもがおしっこするスタイルのままシュンの上空まで運ばれ、屹立した陰茎のうえにそっと降ろされ、にゅるるるっと瞬く間に三十二センチ五ミリの熱量が潤んだ粘膜を充たし、あたしのおまんことシュンのおちんぽが聴き慣れたちゃぷちゃぷを奏でます。
「沙希ちゃん…、きもちいい」
「シュン、ごめんね、あたし、来るのが遅かったね」
「沙希ちゃんは、なにもわるくない。ぼくがモタモタしたのがわるいの」
「ごめんね…、ごめんね…、はぁっ、きもちいい…」
 結露したプレハブの窓を幾筋もの水滴が流れ、雪が窓枠をびっしりと覆い尽くしていて、どんなに甘く喘いでも、きっと誰にもきこえない。こんな寒い夜には、恋人どうしですることはひとつしかなくて、あたしは裕太と大智をおもいうかべますが、具体的な想像はなにもできなくて、自分勝手な彼氏と普通に愛し合うことよりも、あたしに従順なシュンと愛し合う方が何倍もきもちいいのだと、シュンの力強い波に揺られてぼんやり。
「田神沙希さん、おわかりになりまして?」
 別役香奈の声。あたしを貶むわけでもなく、勝ち誇るわけでもなく、台本を読んでいるように神経質なことばを囁きます。
「もう逃げ場はありません。あなたが私の言うとおりにしなかったから、私はあなたの周りに罰を与えたの。これ以上、拒むなら、もっとひどいことになってしまうわ。だけど、私の言うことをきくなら、私はあなたをずっとずっと素敵なところへ連れて行ってあげる。安全で、優しくて、自由なところ」

 一月二十四日、火曜日、午前十一時十七分。
 別役先生の運転する赤いハッチバック車に揺られます。別役香奈先生は、あたしたちに一晩中愛し合わせ、へとへとになると着替えさせて、ただ、口を噤んでついてきなさいと命令しました。
 そして、あたしたち三人は金魚鉢学園都市に到着します。高い湾曲した壁面は刑務所のようで、ひとつしか存在しない鋼鉄の門をくぐるとき、そこは無人でしたが、三つの監視カメラがあたしたちの車に追従するのをみました。一晩中降り続いた雪がカチカチに凍り付いて、タイヤに敷かれてボリボリと音を鳴らし、大きな変電施設と貯水タンクのある浄水施設のあいだの三車線の道路をまっすぐ走ったことだけ覚えていて、その後トンネルを抜け、複雑な山間の道を走る最中に、崖側に黄緑色の湖がみえました。その山道は急勾配になり、やがて平坦になると、車は広大な駐車場に到着し、コテージのような建物の傍に停車します。あたしたちは車を降りて、わずかな荷物を降ろします。その中には、フクちゃんの入ったケージもあって、真優が大事そうに抱えます。
「ついてきて」
 別役先生が傘を渡してくれますが、もう雪は降っていなくて、遠くの尾根がはっきり見えるほど空気が澄んでいます。あたしたちは先生のあとについて、コテージへ入ります。薄暗い玄関でスリッパに履き替えて、リビングへ。
 荷物を降ろして、先生が積み上げられた段ボールの中身を説明してくれます。このふたつが本と教科書、タオル、これが食器、洗剤とか石けん、掃除道具、みんなあなたの家から持ってきたものだから、自由につかって。それから、着替えはこちらで用意するから、いま着てるものはあとで着替えて頂戴。
 そして、部屋を案内してくれます。リビングの北側はオープンキッチンになっていて、廊下に出て、お手洗いと、広い脱衣所と、広いお風呂、和室と書斎。階段を上がって、二階にもお手洗いがあって、あたしたちの寝室は二十畳くらいの広い部屋。キングサイズのベッドがみっつくっつけられて、壁際の長いソファ二つに変わったメイド服を着た八人の少女たち、廃工場のプレハブ小屋であたしたちを愛撫してくれた子たちが座っていて、あたしたちが部屋にはいると一斉に立ち上がり、お帰りなさいませ、と声をそろえてお辞儀をします。
「今日は雪がまだ積もっているから、ベランダには出られないけれど、暖かくなってきたら、ここは風通しがよくてきもちいいのよ」
 別役先生が説明して、カーテンを開けます。あたしたちは三人並んでサッシの前に立ち、しろい光がサラサラと降りそそぐ空を眺め、先生にききます。
「ここで、生活するのですか?」
「そうよ、今日から。あなたたちの身の回りは、この子たち八人がお世話してくれるからね。ここで寝泊まりして、ここから歩いてすぐのところに小学校があるから、そこに通います」
「真優とシュンはいいけど、あたしは?」
「沙希ちゃんもそこへ通うのよ」
「あたし、来年、中二ですよ」
「大丈夫。生徒数がすくないから、小中学校は合同なの。四年生から六年生と、中学生は沙希さんだけね」
「ここは、学園都市ではないのですか?」
「名前だけは学園都市だけど、ほんとうは、ただの実験施設よ」
「なんの実験をしているのですか?」
「いろいろなコト。沙希ちゃんたちも、実験に参加するのよ」
「なにをするのですか?」
「まだ秘密よ。だけど、きもちいいことだから、安心して」
 そう言われて、あたしはすこし緊張がほぐれ、だけど落ち着かなくて、外に出てもいいですか、と訊くと、丈の短いスカートのメイド服をひらひらさせて、少女が二人、サッシを開いて、外に出るためのサンダルを用意して、傘をさしてくれます。サンダルを履いて、バルコニーにでると、そこにはふたつの円卓とよっつのリクライニングチェアが雪に濡れて、つめたい風があたしたちの脚の間を吹き抜け、溶けた雪が滴るタンタン、タンタンという音だけが響く静謐な空間に立っていました。あたしは、真優とシュンに手をつなぎ、霧に包まれた木々のむこう側に佇むふるい鉄筋の校舎をみつけます。それはノスタルジーを感じさせるものではなく、得体のしれない荒涼であり、そこへ飛び込もうとしているあたしたち三人は、姉妹や従兄弟を超越して、畏れにたちむかう同志でありました。
「沙希ちゃん、ぼくたち、どうなるの?」
「なにも変わらないわ。心配しないで」
 あたしはできるだけ優しく言ったつもりでしたが、寒さと畏れから鋼のような声を発し、真優があたしの手を強く握って、あたしたち三人と傘を差した変わったメイド服の少女二人の白い息が風にながれて南へたなびくのをみつめ、シュンはあたしにとっての災厄であったのか、それとも決められたあるいは仕組まれた幸運であったのか、どちらにしてもいまこのじぶんの頼りなさから逃れることはできないのです。
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