R18恋愛官能小説 青山倉庫

金魚博士の些末な日常

第12話「ドラッグ」


 一月十四日、十四時十九分、気温六度一分、北北東の風、風速3.6メートル。三条町二丁目九番地の袋小路つきあたりの五階建て鉄筋マンション一階一号室。
 ドアベルを鳴らします。はい、どなた。女性の声。真優が背伸びして、二組の田神です、と答える。
 あたしたち三人は、真優の担任の別役香奈に会いに来ました。別役先生は占いマニアで霊能力があると自称している変わった先生で、真優のクラスを一年だけ受け持つとききました。たとえば学校の中には、陰鬱な性格で、生徒の声をきかず自分の主張と知識が絶対だと信じている先生や、生徒と深い交流を持たず給料を貰うだけでやる気のない地方公務員や、漫画や小説やゲームみたいなサブカルにあてられて無理にあたしたちの目線にあわせようと必死すぎて言動がいびつになってしまう先生や、生徒の信頼を得たことがなくてこどもがみんな敵にみえてしまう可哀想な教師がかならずひとりかふたりいて、あたしは先生に会うまで彼女はそういう種の教師の一人だと勝手に推測していたのでした。
「どうぞ」
 ドアが開かれて、想像以上に背の小さい若い女性があたしたちを招く。おじゃまします。真優、あたし、シュンの順番に入る。玄関で靴を脱ぐ。正面の壁に大きな油絵が飾られています。籐椅子に座る女とその膝に突っ伏した裸の少年。あたしはこの画家の名前を知りませんが、美術の資料冊子でみたことがあります。日本ではめずらしい女性画家で、近年までは男性名で知られていたのですが、この絵はレプリカでしょうか。
 居間のソファにあたし、シュン、真優の順に三人並んで腰掛けて、水色のワンピースを着た別役先生があたしたちに暖かいお茶を出してくれます。ポットから急須にお湯を注ぐ淀みない流麗な動きは、お茶の先生のよう。その細い腕と繊細な指先の一本一本に注視して、お茶が注がれる瞬間、こう、いいます。
「カメラとSDカードを返してください」
 別役先生はすこし微笑んだだけでお茶を入れる手をとめることなく、三つの湯飲みにお茶を注ぎます。テーブルには鉄の茶釜を半分に切ったようなお香の入れ物。香盒ではなく焚く方。先生の背後には巨大な本棚があって、あたしたちの背後は襖。左手のサッシから差し込む自然光が、金色のお茶のなかでキラキラ揺れて、先生は網籠に入ったお茶請けのお菓子を差し出します。
「お返ししますわ。一寸お待ちください」
 先生は立ち上がって、あたしたちの背後の襖を開けます。襖の隙間から、畳とお布団がみえて、誰かが床に伏せっているようでした。しばらくして先生がビデオカメラを手に戻り、真優が受け取ります。あたしは真優からビデオカメラをひったくって、中の映像を確認、SDカードはフォーマット済み。なにもはいっていません。
「あの…、中の映像は……」
「さあ、しりません」
「じゃあ、観ていないのですか?」
「なにをですか?」
「カメラに入っていた映像」
「先生はみていません」
「誰かにみせました?」
「いいえ」
「映像がインターネットに流出したんです」
 先生はお香の入れ物を開いて、マッチを擦り、香に火をくべます。白い煙が一筋。
「先生はお借りしたビデオカメラで、オーディションを行っていたのです」
「オーディションって?」
「母が子供服のデザインをやっているのですが、いまモデルを探しています。モデルの子をひとりひとり撮影して、お写真を撮って、そこから三十人ほど選ばなければいけないのですが、私にはどういう子がモデルに向いているのかわからないのです。もし、よろしければ、選ぶのを手伝っていただけませんか? お時間は取らせません」
 先生は背後の書棚の引き出しを開けて、アルバムを取り出す。飾り気のない分厚いハードカバーの写真集で、あたしたちの前に開き、赤ペンを差し出します。見開きの頁には、十二枚の女の子の顔写真。
「全部で十五頁、百八十人の候補がいます。田神さんの好きな子に丸をつけてください。いくつつけても構いませんが、各頁につき一人以上は選んでくださいね」
 あたしは赤ペンを受け取り、お化粧もポーズもつけていない証明写真のような正面からのポートレートをぱらぱらとめくり、モデルという特殊な被写体のことをテレビやネットで見るもの以上にはなにも想像できず、もし、真優以外にじぶんの妹にするなら、こんな子がいいかもしれない、といういい加減な基準で、それぞれの頁につき二人、一番可愛い子と、一番美人な子を選んで丸をつけます。大人びた子と、幼い子、しばしば一人しか選ばず、ある頁では四人を選びます。あたしがひとりで勝手に選んでいるのを覗き込むシュンに気づいて、あたしは一応、お伺いをたててみます。
「シュンは、こういう子、すき?」
「綺麗な子だね……」
「こっちは?」
「可愛い子」
「どっちがすき?」
「うーん、どっちも、すき」
「シュンは欲張りね」
 あたしは自分が選ぶ子だけでなく、シュンが気に入った子にも丸をつけます。あたしたちは出されたお茶を飲みながら、そうやって女の子の選抜をじぶんの胸先三寸で自由にしていることに興奮して、熱狂して、写真集の頁が折れるのも構わずシュンと二人で戯りあい、とうとうぜんぶで三十三人の少女を選び尽くします。
「三十三人、すべて、ですか?」
 問う先生にあたしは赤ペンを返して答えず、あたしから訊きます。
「別役先生は、SDカードの中身をみていないんですね?」
「みてませんわ、上書きしてしまったのね。ごめんなさい」
「あの中に入っていた映像が、ネットに流出してしまったんです。先生に心当たりがないのなら、どこから漏れたんでしょう?」
 先生は写真集を抱いたまま、ふう、と溜息をつきます。
「では、先生がその映像がどこを伝ってネットに漏れ出したか、占ってみましょうか」
「占い?」
「私、占いが得意なんですよ」
「あ、はぁ…」
「サァ、この前で、息を大きく吸い込んでください」
 そう言って、先生はお香の入れ物を差し出します。馬鹿にしてる、とおもいました。ですが、このまま先生に占わせて、子供の言い訳のような答えを引き出してもよいかもしれません。今のままでは、先生を問い詰めることすらできないのです。それに、普通のやりとりができない教師だと感じます。日教組だったり、リーマン教師だったり、生徒と交流できないタイプとは違います。
 あたしたちはお香の煙を吸い込み、甘ったるい香りを鼻腔に感じて、ゆっくり息を吐くと、もういちど吸い込みたくなり、ふたたび、みたび、深呼吸を繰り返してしまい、ふと瞼をひらくと、先生の背後にある本棚があたしたちめがけて倒れかかってきてあたしは両手をつきだして、危ない、と声をあげ、天井がぐにゃりと曲がって、シーリングファンが溶け落ち、あたしたちの顔に降り注ぐしゅんかん、あたしは真優を抱いて庇うのですが、別役先生の笑い声が遠くにきこえて、だんだん近づき、やがてそれは絶叫に近くなります。
「田神さん! きこえていますか?」
「ヤメテ……」
 あたしの消え入りそうな悲鳴は先生の、大丈夫ですか、にかき消され。
「田神沙希さん、先生の言葉をきいて」
 世界がぐにゃぐにゃの中に陶然と別役先生の真っ白な表情が浮かんで、血の気も表情もなく、なんの感情もなく、あたしをなにかの研究対象のようにみつめる瞳に、あたしはただ頷くだけ。
「シュンくんと、いつもどんなふうに過ごしているか、思い出して」
「どんなふうに?」
「きもちいいこと、してるんじゃありません」
「きもちいいこと……」
「思い出しました?」
「うん」
「思い出しましたね、きもちいいこと」
「おもいだした」
「きもちいいことしたいよね」
「したい」
「沙希と真優のアソコが、シュンくんのアソコを欲しがって、びしょびしょよ」
「いやぁん」
「じぶんで触ってごらんなさい、濡れてるわよ。シュンくんは、もうびんびんね」
 あたしはショーツの上から股間に指をあてる。クロッチが割れ目の形にぴったり食い込んで、じっとり濡れています。その僅かな接触でからだじゅうにいつもの悦楽が兆し、先生にみられている前でショーツに指を入れ、人差し指と中指の腹でぎゅっとおさえて、左右にくちゃくちゃ揺すりました。
「あっ、んあぁっ…」
 おもわずあげた己の喘ぎが壁と天井に反響し、声色が細くなって返ってくると、あたしの声はその声を発するあたし自身がしっているよりも遙かに甘美で切ない、幼いおんなの声でした。
「沙希さんは左から、真優は右から、シュンくんのアソコを半分こして、交代で咥えてみせて」
 別役先生から下された最初の具体的な命令にこころがざわめき、あたしたちは先生の命令に従わなければならないというごっこ遊びにスッカリ夢中になっていて、あたしは真優と一緒に左右からシュンの首筋にキスをして、ショートパンツのボタンを外します。シュンは窮屈だからと、近頃はおちんちんを上向きにシャツの中にしまいこんでいて、万引きしてる子みたいに下腹部が膨らんでいて可哀想。あたしは根元を掴んで、シュンのおちんちんをシャツの中から引きずり出してあげます。真優とふたりでぱくりと咥えて、先っぽを舌でくるくる撫でまわし、交互にちゅるちゅる飲み込みあいます。シュンはあたしたちの頭に手をのせて、深くて甘い溜息を漏らしました。
「こはぁ……、あぇぇ…、きもちいい」
 いままできいたことないくらい緩んだ声で、きもちいい、きもちいい、と繰り返して、シュンは腰を突き出してソファのうえから溶け落ちそう。あたしはシュンの手を取って、セーターの襟から手を差し込ませて、シャツごしに胸を触らせます。直接触られるよりも、シャツのうえから触られる方がきもちいいのですが、シュンはいつも直接触りたがります。でもいまは、おとなしくシャツの上からあたしの小さな乳首を摘んで、指先で優しく捏ねまわします。真優もおなじように乳首を摘まれて、交代でおちんちんを飲み込みながら、細い声で、あん、あん、と喘ぎます。
「二人ともこちらを向いてください」
 あたしたちはおちんちんから口を離さずに先生の持つビデオカメラに目線を移します。撮られている、ということはわかりますが、それがどういう意味を持つのか想像が及ばず、シュンをこんなにきもちよくしてあげている自尊心から、あたしたちはこれみよがしに舌を絡めてわざとぴちゃぴちゃ音を立てるのです。
「沙希さん、シュンくんをおまんこで包んであげて。もっときもちよくしてあげて」
 あたしは立ち上がってショーツをおろす。後ろ向きにシュンを跨ぎ、先生と向かいあいます。真優がその巨根を支えてくれて、あたしはただ腰をすっと落とすだけ。触ってもないのにびしょ濡れの割れ目にちゅるりと先っぽが滑り込んで、そのままにゅるるっと底まで達します。先生はあたしたちの股間を狙いながら、きもちいいですか、とききます。
「きもち、いっ、いっ、あっ、ひっ、あっあっあっあっ…」
 シュンは後ろからあたしの胸を両手で包んで、小刻みに突き上げます。あたしたちのつながった部分を真優が指先で触れていて、先生がビデオに録画していて、普段と違って無理矢理感じさせられている気がして、それは先生にかがされた煙のせいだと頭でわかっているのだけど、もうそんなことどうでもよろしい。左右の乳首を摘まれて、世界が上下にぐらぐら揺れて。
「沙希さん、よくきいてくださいね」
 あたしたちの股間からちゃぷちゃぷ恥ずかしい音が響きます。
「先生の言うとおりにするなら、沙希さんが、すべてを手に入れる方法を教えてあげます」
 あっあっあっ、という小刻みな喘ぎ声しかあげられない。答えられない。
「厭なら、このビデオをばらまきますよ。いままで以上に露骨な方法で」
「はっ、ず…、かしっ、いっ、あっ、あえ、あっ」
「恥ずかしいよね、いろんなひとに、沙希さんと真優ちゃんのまんこが、シュンくんのちんぽに犯されてるの、みられるのよ」
「やン…、あっあっあっあっひっ、やー、あぁあっ」
「もうひとついうことをきいて。あなたに告白してくる男子がいたら、無碍に断って。曖昧に答えたり、ましてやOKなんてしてはだめ。二度と告白されないように、非道い断り方をして。そうすれば、このままあなたにとって一番のしあわせを与えてあげる。もし反故にしたら…」
 シュンの腰がぐいっと突き上げられて、あたしの身体が持ちあがり、褄先が絨毯から離れて、おちんぽの先端からびしゃあっと熱い精液が噴き出し、その熱が子宮内膜を満たして五臓六腑に染み渡り、結合からぶりぶりと溢れ出した飛沫が焦げ茶色のテーブルにパラパラと散るのを眺めます。泡だらけの精液がどぼりと絨毯に滴って、真優があたしたちのつながった部分に舌を這わせて、あたしは途端にシュンの先っぽに突き上げられてる粘膜が引き攣って、絶頂の信号が脊髄を伝って全身の筋肉を収縮させて、身体中の肌にしみこんで汗が滲んで、長く長く引き延ばされた膣がシュンをぎゅーっと締めつけて、二度めの射精があたしの子宮口を貫いて、びゅっくびゅっくびゅっく、覚えてるのはそこまで。
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