R18恋愛官能小説 青山倉庫

金魚博士の些末な日常

第10話「サブリミナル」


 一月十三日、金曜日、十二時二十分、お昼休み。
 急激に冷え込んだ週末の空は鉛色で、どろどろとした分厚い雲の向こう側にわずかな陽のひかり。
「カビ動画ってしってる?」
 あたしは一緒にお弁当を食べていた奈々にきく。
「株動画?」
「違うよ、カビ動画。画面がカビっぽい感じの観たら死ぬってやつ」
「あーニコ動かなんかの呪いの動画ね」
「最初のやつって、観たことある?」
「あるよ。リアルタイムで観てたから」
 先週から、いやもっと以前から、カビ動画という呪いの動画が話題になっていました。画面全体がカビの根が張ったようにどす黒くて、なにか文字や虫が蠢いている映像なのですが、それを観た上級生のひとりが自殺未遂をしたという噂があります。よくある学校の怪談だとおもって怖がるふりくらいしていたのですが、その上級生があたしのしっている男子で、小学生の頃、バレンタインデーにチョコをあげたひとのひとりだとしって、急に信憑性が増し、不謹慎ですが、俄然興味が湧いてきたのでした。
「観てもなんともなかった?」
「うん……。なんか怖いんだけど、へんな気分になる」
「どういう気分? 気持ち悪いの?」
「悪い気分じゃなくて、うーん、なんていうかモヤモヤっとして、どきどきして、むずむずする感じ……」
「えーわかんないよ」
「だから、ネトっとしてて、ベタっとしてて、力が抜ける感じ……、エッチな気分になる、あははっ」
「あたしも観たい」
「あちこちの動画サイトにアップされてるよ」
「しってる、コピーされたやつでしょ。オリジナルがみたいの」
 その動画は効果が立証されたのか、あちこちに劣化複製されたものがアップされているのですが、最初のオリジナル動画以外はただのノイズに過ぎないと言われています。そしてそのオリジナル動画は、有料会員しかみることのできないコンテンツに指定されています。もしかすると、もうなくなっているかもしれません。
「雷太、アンタ呪いの動画って観られる?」
 奈々が大智と一緒にお弁当を食べている多田雷太に声をかける。瓶底眼鏡の秀才君は、お父さんが開業医です。
「あ、みら…みらられるよ」
「それって、パソコンで観られるようにファイルとかで貰えない?」
「え、あ、いいけど。あの、その、エッチにーろくよんのエムピーフォーだから、ゴムプレーヤーとかインストールしてないとちゃんと再生できないかも…」
「ごめんなにいってるかわからない」
「あ、じゃあ、えっと、ダブルエムブイ形式にエンコして、ももももってきたほうがいいよね」
 あたしと奈々は顔を見合わせて首を捻る。秀才君はパソコンに詳しいけど、専門用語だらけで説明がすごく下手。
「観るのはあたしだから、そのままでいいよ」
「えっ、田神さんのパソコンはセブン?」
「オリジナルをそのまま観たいから、そのまま貰える?」
「オリオリ、オリジナルならいま持ってるけど……」
 多田は筆箱からSDカードを出してあたしに差し出す。あたしは指先で摘んで受け取る。さんきゅ。それ以上は喋らない。女子に免疫のない男子は、妙に親切なくせに、陰で女の子の悪口を言っている。そういう悪意がにじみ出ているから、ますます周りから女の子が離れていくのに、じぶんだけは優しくされることを期待してじぶんからはなにもしない。秀才眼鏡くんはその典型。肥満で病気がちな美桜ちゃんに非道い綽名をつけていることを識っています。こういう手合いとはできるだけ関わりたくありません。

 十六時四十八分、曇天。帰宅。
 シュンと真優は先に帰宅していて、ゆず茶を煎れてコタツでまったりしています。あたしは二人を連れてじぶんの部屋へ。ノートパソコンを開いて、SDカードを挿します。動画ファイルがひとつだけ入っていて、あたしはそれをデスクトップにコピーする。
「お姉ちゃん、それ呪いの動画?」
「そう。オリジナルをもらったの」
 ダブルクリックして再生。普通に再生できる。眼鏡君がなんで小難しいことを言っていたのかわかりません。パソコンの大先生の知識は大抵、中途半端です。
 想像したよりハッキリした映像で、血管のように拡がる黒い根が画面を覆い尽くして、その向こうでなにかが蠢いています。ネットのコピー動画では向こう側がなんなのかわからなかったのですが、解像度があがってもなんなのかよくわかりません。
「すごい長いね、一時間近くあるよ」
 真優が動画の長さに気づく。残り五十一分二十二秒。
「これ、全画面表示にできないかな?」
「できるでしょ、フルスクリーンって書いてある」と真優が右下の矢印マークを指さす。
「横幅を広くしたいの」
「ぼくできるよ」とシュン。
 じゃあお願い、と言って場所を変わる。フルスクリーンにして、拡大。なんだ簡単。画面いっぱいに拡がったカビの向こうで律動するなにか。そのリズムは鼓動に似ていて、じっとみていると、眩暈がしてきます。
「シュン、勃起してるね……」
 真優がシャツのうえからシュンのおちんちんを握る。あたしはシュンのシャツをまくって、硬くなったおちんちんを引きずり出します。真優と二人ではんぶんこ。根元からくすぐるように舌を這わせて、唇を密着させてちゅるちゅる上下、先っぽを真優と交互に口に含んで舌を絡めます。シュンはとても敏感に反応して、泣きそうな声を漏らします。
「ふぇらちお……って言うの? これ……」
「そうだよ」
 あたしが答えた隙に真優がシュンをのみこんでしまう。
「ぼくが沙希ちゃんたちのおまんこ嘗めるのもふぇらちお?」
「違うよたぶん」
「ぼくもおまんこ嘗めたほうがいい?」
「嘗めたいの?」
「いつも、ぼくばっかり、きもちよくしてもらってるよ……。ぼく……ふうぅっ」
 シュンは大きく息を吐いて、真優がげぽっと卑猥な声を出して、大量の精液がぶりぶりと噴き出します。あたしは慌ててシュンのジャージをおろしますが、間に合わなくて、股間に精液の塊がべっとりこびりついてしまいます。あとでこっそり洗わなきゃ。あたしは真優と一緒におちんちんの先端に吸い付いて、噴き出す精液を啜りあいます。吸い出した精液を真優と口移しします。真優はなにをされても厭がりません。だから、精液をたっぷり口に含ませて、うがいして、と命令します。真優はうえを向いて、ごぼごぼとうがいをします。薄く開いた唇の隙間から精液が溢れて、真優の首筋を伝って襟元と肩をぬらします。真優、飲んで。真優は指先で垂れた精液をぬぐい、口を閉じて、ごく、ごく、と二度喉を鳴らして飲んでしまいます。眼を真っ赤に潤ませてあたしの命令に従い、どう、飲めたよ、と言わんばかりに口を開いてみせる姿に、あたしの嗜虐的なこころがじりじりと慄えました。
「これ、ぼくたちが映ってる…」
 シュンがそう言って、モニタに映る動画を指さします。
「どこに?」
「ときどき、みえるよ。チラっとだけど…」
「反射でしょ?」
「違うよ、沙希ちゃんが仰向けになってるところが見えたよ」
「えー、うそー」
 あたしたちはモニタを覗き込んで、動画に眼を凝らしますが、とくになにもみえません。シュンは動画を止めて、動画編集ソフトでファイルを開きます。動画のタイムライン上でポインタをゆっくり動かしていくと、一瞬、卑猥な画面が現れます。
「いまなんかみえた。シュン、戻して」
 シュンがゆっくりポインタを戻します。トラックパッドでマウス操作は至難。いまの画面がチラと映る。微調整。映る。一フレームだけ挿入された映像。
 あたしが仰向けになって、シュンに滅多衝きにされている映像。このあいだ、お父さんのビデオカメラで撮影した映像の一部に違いありません。あたしたちは口を噤んで、ほかの挿入フレームを探す。真優が処女を失った瞬間、バックで衝かれている瞬間、騎乗位で上下している瞬間、あたしが割れ目を自分で拡げている場面、うつぶせで衝かれている場面、あたしとシュンの結合大写し、二人でフェラチオしている映像。おちんちんが大きすぎて、一目でシュンだとわかります。それらが十秒から短いものだと五秒くらいの間隔で挿入されていて、みているときもちわるくなってくる。じぶんたちの秘密の映像を、誰かしらないひとが勝手に加工して、このおかしな動画に埋め込んだことを想像すると、血の気を失うほどなまぐさい。あたしたちがエッチな気分になってしまったのは、そういう映像が意識できないくらい短い瞬間に挿入されていたから。どういう経緯で動画が流出したのかわかりません。肝心の動画は、いまこのパソコンに入っていますが、いまログインしているあたしのアカウントではなく、真優の動画フォルダに保存してあるので、いまの状態ではファイルを見ることすらできないはずです。
「どうしよう……」
 あたしが全部悪いんです。あたしがビデオを撮って、それをおもしろおかしく編集したのが間違い。ビデオなんか撮らなければよかった。いちばん秘密にしておかなければいけないことを、よりによってインターネットで全世界にばらまいてしまったのです。
「とりあえずファイル消して、知らん顔してようよ。これに気づくひと、そんなにいないとおもうし」
 シュンに言われるがまま、あたしはファイルを削除して、SDカードも空にします。手が震えています。さっきまでの緩んだきもちはすっかり醒めてしまって、あたしたちは着替えて部屋でおとなしく過ごします。
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