R18恋愛官能小説 青山倉庫

金魚博士の些末な日常

第7話「くせ」


 一月一日、元旦。午前五時五分。
 あたしたち家族はお父さんの車に乗って、双子嶺の山頂へ初日の出をみに行きました。
 山頂には嶺神社があって、広大な駐車場に車を駐めて、あたしたちはかつてロープウェイがあった広場へ向かう。暗くて寒い山道を歩く参拝客は多く、懐中電灯の光がそこここに見え隠れしています。広場には公衆トイレだけが残されていて、ロープウェイの駅の痕跡はない。その場所をしっている人はすくなく、ロープウェイが下るはずの斜面は東の空へ向けて木々の谷間ができていて、絶好のポイント。お父さんはそこで三脚を立てて、銀色のフィルムカメラに、ドイツ製のカールナントカっていう高価なレンズを取り付けます。お父さんはあまりあたしたちを撮ってくれないので、家族の写真はあたしと妹の真優が二人で撮ります。
「沙希ちゃんは、写真とらないの?」とシュンが訊く。
「暗くて撮れないの、あたしのカメラ」
「明るくなったら撮れるの?」
「撮れるよ。シュンは撮られるの、すき?」
「ぼく、じぶんの写真観たことないの」
「シュンは、かわいく撮れてるよ。帰ったら、みせてあげるね」
 お父さんがレリーズケーブルを手にとって、最初の一枚を撮影。カッチャン、と乾いたシャッター音。お父さんは親指でフィルムを巻きあげる。デジカメにはないその動作が、あたしにはかっこよくみえる。山の向こう側に、黒い稜線を裂いて朝陽が浮かび上がるその直前、薄い青空に赤紫の雲が溶けて、黄金色の光と混じりあいます。空気が透き通った朝早くにしかみることのできない夢のような光景。すべての人の頭上に平等に訪れる瞬間ですが、その美しさをしっている現代人はとてもすくないようです。
「ほら、真優ちゃん。朝陽がでたよ」
 お母さんが真優の手をひいて、東の空を指さす。日の出です。あたしたちはみんなで手を合わせて、今年の仕合わせを拝みます。お父さんだけはカメラのシャッターを切って、一年に一度しか訪れない瞬間をフィルムに焼き付けていく。あたしはいつも手を合わせて眼を閉じた瞬間、なにをお願いするのか忘れてしまいます。今年も頭が真っ白になってしまったのですが、ふと、シュンのことが思い浮かんでしまって、新年早々シュンの裸を思い浮かべてしまって、マフラーに顔を埋めて頭をふりふり、そのイメージを振り払います。あけましておめでとう、を頭の中で念仏のように繰り返すのですが、いちど湧いたシュンの裸体は頭から離れず、あたしは真っ赤になって悄気てしまいます。
「みんなで記念写真とるぞ。沙希、そっちに並びなさい」
 あたしたちが朝陽の前に並ぶ間に、お父さんは素早くレンズを交換する。タイマーを設定して、お父さんもあたしたちの脇に立つ。シャッターが切れる。足下まで伸びるいくつもの木の陰が風で揺れる。お父さんがカメラをしまう。あたしたちはお手洗いに行く。冷たいドアの上に張られた蜘蛛の巣をみあげる。蜘蛛はもういなくて、引っかかったまま乾涸らびた蛾の死骸がカサカサと揺れている。

 山を少し下ると旅館があって、あたしたちはそこに一泊します。
 荷物を旅館に下ろして、あたしたちは旅館の向かいにある山小屋風のレストランへ朝ご飯を食べに行く。そういえば、一昨年もこの旅館に泊まったとき、シュンが一緒でした。シュンはちっともじっとしていなくて、ニット帽のポンポンをぴょこぴょこさせながら、駐車場を走り回って、溶けた雪の上に転んでお母さんに怒られていたことを思い出します。レストランでは全然サラダに手をつけなくて、お肉ばかり食べた挙句、一番高いパフェを注文していたはずですが、あたしの向かいに座ったシュンは大人しく温野菜のスープとリゾットを食べています。
 朝食を済ませて、あたしたちは近くにあるこどもの森博物館へ行きます。あたしはカメラを持って、真優に引っ張られるシュンを撮影。シュンばかり撮影しているのは不公平ですから、真優も撮ります。博物館には、かつて栄えていた鉱山の資料がたくさんあって、石を運ぶトロッコだとか、鶴嘴だとか、鉱山町の白黒写真とかいっぱいあって、あたしはその写真をみるのがすき。写真に映える金属の質感とか、真っ白な石灰石の上にたっているおじさんたち、巨大な木のスプールに銅線を巻いているひと、今とは全然違う格好と髪型で水辺で遊んでいる子ども、三輪のトラック、鍋を囲む人たちの笑顔、子どもを背負うおばさん、水準器を覗き込む作業員、とても小さな駐在所、お父さんもお母さんもあまり興味がない様子だけれど、あたしにはそれがつい数十年前の日本の、それもここからごく近いところの光景だとは思えなくて、どれも初めてみるものばかりなのに、懐かしさを覚えます。
 あたしが写真をみている間、シュンは真優に引っ張られてあちこち連れ回される。博物館にはあたしのいる資料室のほか、展望台や託児施設、休業日の喫茶店、大型テレビの置いてあるロビー、裏庭に噴水があって、春になるとその周りにびっしり花が咲いて、たくさんの野鳥が集まってくるのですが、真冬の森はいきものの感じがしません。
 この博物館が元旦にも開いていることをしっているのは、あたしたち家族以外には老夫婦が一組だけ。旅館だってあたしたちのほかに泊まっているひとをみかけない。その寂れたかんじが堪らなくすき。
 休憩所でお父さんがビデオカメラを回しています。あたしが駆け寄ると、お父さんはビデオカメラを鞄に隠してしまいます。
「お父さん、またカメラ買ったの?」
「違うよ。これはデジタルビデオカメラだから…」
「あたしのカメラでも動画撮れるじゃん」
「なにいってんだ。もっとずーっと綺麗に」
「あーあ、おかーさんにいいつけちゃお」
「こら、沙希」
 あたしはお母さんのところへ走っていく。でもいいつけない。あたしには、策略があったのです。あたしはお母さんに別の話題を持ちかけるのですが。
「ねぇ、お母さ……」
 お母さんが天井をじっとみていて、真優もじっとしていて、シュンは首をかしげて、あたしは揺れていることに気づきます。ショーケース全体が揺れて、ガッチャガッチャとガラスの揺れる音が響いて、あたしと真優は手を握りあってその揺れに身動きできずにいるのですが、長椅子に腰掛けた老夫婦は、おじいさんが杖に手を乗せたまま、おー揺れとる揺れとる、といいます。その揺れは一分以上続き、やがて収束すると、博物館の職員が出てきて、外に出てください、と避難指示をします。

 夕方、午後六時四十二分。旅館に戻って、晩ご飯を食べます。
 お父さんとお母さんはさきにお風呂に入って、浴衣に着替えてしまう。あたしたちは、あとで入ると言う。みんなでお膳を囲む。越前がにがまるごとお皿に載っていて、小さな鍋やお造り、焼きがに、お蕎麦も。お昼もお蕎麦を食べたのだけど、あたしはお蕎麦がだいすきだから、三食お蕎麦でも構いません。
 かにを食べるとみんな無言になるというけど、お父さんは食べながらずっと喋っている。お行儀が悪い。お母さんが注意しても、ああ、とか、おお、とか言って全然聞く耳持たない。
「おまえあれしってるか、嶺山脈三峰越えると新興宗教でさ、なんていったかな、ハシバミ会だかそんな名前の」
「御國教じゃないの?」とお母さん。
「そんなマトモなところじゃねぇよ。その新興宗教のさ、巨大宗教施設があったんだよ山の向こう」
「あのあれじゃないの? ゴコクテングーとかいうのがあったでしょ」
「だから御國じゃないよ」
「金魚鉢のことじゃない?」とあたし。
「なんだそれ」
「金魚鉢学園って、パンフレットがウチの学校に来てたよ。宗教じゃなくて、研究所だって書いてあった」
「そうそれ。その学園都市とやらの前身が宗教施設だったんだよ。宗教自体が内紛でガタガタになって、施設を売りに出してたらしいんだけど、舞洲が買い取って実験施設に建て替えたんだ。今日はそこを見に行こうと思ってたんだけど、もう時間ないな。すーごい広大な施設でさ、度肝抜かれるぜ」
 そんな、あまり興味を惹かれないはなし。お父さんは寺社仏閣の宗教施設が大好きで、小さい頃からあちこち連れ回されて、あたしは神社参拝のお作法だけは淀みない。お寺はよくわからない。三峯に行ったときは、お父さんが売却した古いカメラのメーカーが大金を奉納していることを知りました。そのメーカーは最近、損失隠しが発覚して騒ぎになっているようです。神様を頼ったのに、今頃になってメッキが剥がれるのは皮肉なことです。それとも金額が足りなかったのでしょうか。
 夕食のあと、あたしたち三人は部屋の円卓で大富豪をする。お父さんとお母さんがお布団を敷き始めると、あたしたちは籠に浴衣と下着を入れて大浴場へ行く。夜中の十時四十二分。女湯にはもう誰もいない。男湯に入ったシュンはあたしたちより先に露天風呂に入ります。あたしたちも外に出る。大浴場よりも露天風呂の方がずっと狭くて、中央に湯が流れてくる岩棚が男女をなんとなく分けているのだけど、あたしたち姉妹とシュンはそこで出会います。湯煙のなかに立つシュンの身体は異様に艶めかしくて、長大なおちんちんの完璧な流線形状はかみさまがデザインした快楽のための造形と気づきます。
 あたしたちは言葉も交わさず手をとりあって露天風呂の奥へ。山肌が一望できるところであたしたちは肩まで湯に浸かり、あたしはシュンとキスをします。そして、真優ともキスをします。あたしはシュンの陰茎と真優の割れ目に指を滑らせて、シュンはあたしの膣に指を入れて真優の乳首をつまんで、真優はあたしの乳首を吸いながらシュンの陰嚢をもみくちゃにして、お互いがお互いの性を愛でるのです。僅かな指先の愛撫だけででシュンの陰茎は信じられない硬さに成長してしまう。シュンはすぐに準備が整うのですが、あたしたちは時間がかかります。
「ねぇ、シュンはどんなふうにしたい?」と訊いてみます。
「どんなふうに?」
「どうやってつながる?」
 シュンはうーんと唸って、後ろ向きがいい、といいます。
「バックがいいの?」
「ぼくがそこに座って、沙希ちゃんはぼくに腰掛ける感じで…。そしたら、真優ちゃんと沙希ちゃんがキスできるでしょ」
「お湯から出るの? 寒くない?」
「ぼく、お湯の中だとあんまりきもちよくないの」
「わかった。後ろ向きね」
 シュンは露天風呂の縁に腰掛けて、後ろに手をついて腰を突き出します。あたしは完全にお湯から出てしまって、後ろ向きにシュンを跨いで、ゆっくりしゃがむ。真優がおちんぽを支えてくれて、あたしの割れ目に狙いを定めます。ぶちゅっといやらしい音が響いて、ぬるっ、ぬるるっ、とリズムを伴ってシュンの巨根があたしの内臓に分け入ってくる。膣がぱんぱんのまま、子宮がぐーっと上におしあげられて、急に電撃が背骨をつたって脳天に突き抜けました。
「あーっ、あっあっ」
 おもわず声を出してしまう。身体が勝手にぶるぶる震える。胎内のシュンをきゅんきゅん抱きしめる。腰が浮いてるみたいで、力が出ない。真優があたしを覗き込んで、人差し指を唇にあてます。
「しーっ、お姉ちゃん、聞こえちゃうよ」
 あたしは唇を噛んで声をこらえるのですが、まだ痙攣のおさまらないうちに、シュンのピストン運動がスタートします。ちゅるちゅる、ちゃぷちゃぷ、あたしとシュンがすごい音を立ててすごい勢いで振動していて、あたしはもうたまらなくて、仰け反って硬直。なにもできない。あまつさえ、真優があたしたちの結合部分を撫でながら、あたしの乳首を指でつまんで、あたしと舌を絡めるのですから、生まれて初めての絶頂を味わう余韻もありません。もうだめ、いきが、できない。
「くはぁっ、はぁっ、はぁっ…、沙希ちゃ…、んふうっ」
 お腹の中で、びゅごーっ、びゅごーっと精を放たれる感覚があって、シュンのおちんぽを隙間なくぴったり包んだあたしの膣には受け入れるゆとりはなくて、瞬く間に結合がらぶくぶくぶりぶりと溢れだしてしまう。シュンは仰向けになってぐったり。あたしはぶるぶる震える手でシュンの根元をつかみ、腰を浮かして一気に引き抜く。案の定、大量の精液がドバッと溢れだす。湯船に浸かる。ぐったりしたシュンを真優と二人で引きずり込む。
「シュン、息止めてるでしょ」とあたしが訊く。
「どうして?」
「息してなかったよ。だめだよ、呼吸しなきゃ」
「うん…」
「なんで息しないの?」
「ぼく、沙希ちゃんと初めてしたときから、くせになったみたい」
「あら、困ったねぇ…」
 真優がシュンの陰茎を両手でしごく。シュンはお父さんとお母さんの前でみせないような脳が溶けるような表情で、腰を浮かして、湯船から飛び出したおちんぽに真優が舌を這わせる。まぢかでみると肥大化した野菜か果物をおもいださせ、それがあたしの胎内に収まっていた事実が到底信じがたい。
 真冬の露天風呂だけど、風もなく湯気に包まれて、それほど寒いわけではありません。今年の冬は暖かくて、まだダウンもいらないくらい。あたしたちのほかにお客さんはいないから、この時間は浴場にだれもこない。お父さんとお母さんはもう寝てしまったかもしれない。あたしはシュンが座っていた場所に腰掛けて、シュンとおなじように腰を突き出します。
「今度はシュンが上になって。息しながら、セックスする練習しましょ」
「できるかな……」
「はやくして、寒いよ」
 急かされて、シュンは慌てて起き上がって、あたしの前に立つ。上を向いて屹立したままのおちんぽの先端を右手で包んで撫でまわし、あたしの膣口に導きます。つぷり、と先っぽが薄い割れ目に包まれると、シュンは下唇を噛んで息をとめてしまう。あたしはシュンを引き寄せて、再びシュンがにゅるるるっと入ってきて、あたしはシュンの唇を嘗めまわす。
「ダメよ、唇をひらいて、呼吸して……」
「ぷふっ、はぁ、はぁ…、沙希ちゃん、は…む」
 舌を絡め合いながら、シュンは腰をゆっくり前後させて、そのシュンを背後から真優が抱いて、乳首を摘む。あたしはシュンの舌を唇で咥えて、ちゅるちゅる出し入れさせる。あたしのおまんこがシュンのおちんぽにしているように、シュンの柔らかい舌を包んで愛撫。シュンの熱い吐息を唇と鼻の頭に感じて、唇をとじられないように舌をしっかり吸いこんで、ゼンマイで動く浦安の青いモンスターみたいに腰をがくがく振り始めると、あたしは両脚をシュンの腰にまきつけて動きを止めます。そして、つかんだ舌を離してあげて、ゆっくりしましょ、と鼻にかかった声で囁きます。シュンのおかしなくせは、早めになおしておかなければいけません。
「沙希ちゃんも、真優ちゃんも、どうしてこんなにきもちいいこと、してくれるの?」
 シュンは涙声。じじつ涙が頬を伝って、ほっぺたが塩味。ほんとうにきもちいいときの、いつもの反応です。
「シュンがきもちいいと、あたしたちは、しあわせなの」
 あたしはシュンと唇を重ね、律動にあわせて前後に揺られるあいだ、あたしたちの性器がたてるちゃぷちゃぷという濡れた音に耳を澄まし、シュンが腕を後ろにまわして真優のおまんこに指を沈めてあたしを衝くのとおなじリズムでちゅるちゅる愛撫する筋肉の複雑な動きにシュンのオトコを感じてなぜだかひどく興奮してしまい、夕食に食べた蟹がドロドロに消化されて腸内を移動する普段感じない感覚さえハッキリしていて、セックスの快感それ自体はシンプルなのだけど、露天風呂というひらけた場所で夜の十一時過ぎにさらさら流れる水のおとを聴きながらまともに恋もしたことのない小中学生のあたしたちがセックスしてるっていうじじつが、そのシンプルな快楽をもっともっと深く濃く彩り、やがてあたしは仰向けになってシュンがあたしのお腹に密着したままふたたび大量の精を送出するびゅるっびゅるっといういのちのリズムをなにも考えずに未熟な身体ぜんぶで受け止めるのです。
<< 前のページ 戻る