R18恋愛官能小説 青山倉庫

金魚博士の些末な日常

第1話「誘惑」


 二月十四日、火曜日、午前九時十六分。
 陰鬱な雨がずろずろと車の後部座席のまどを流れるのをまんじりと眺めて、ようやく朝の光が青く暈かした厚い雲のあいだにみえてきます。
 ひとばんじゅう、車に乗っていて、山道を走るのですから、右隣に寄り添って眠っている妹の真優はときどき気分が悪くなって、車を運転している別役先生に酔い止めをもらいました。左隣に寄り添う男の子は、あたしの二の腕にしがみついたままじっと前を向いて、運転席に座る別役香奈のことを睨みつけます。
 べつやくかな。だれだっけ? 深いつながりのないなまえ。あたしの家族を罠に陥れ、おぞましい方法であたしたちを拉致して、窓から見えてくる小さな町へ連れ去ろうとしている、真優の担任の先生。その町は、古い新興宗教施設を改修して作ったモデルタウンで、金魚鉢学園都市といいます。金魚鉢のように、円形の高い湾曲した壁に囲まれて、容易に出入りすることができず、周りを深い原生林に囲まれて、たったいまこの車が走る狭い私道をのぞいてそこへ至る道もないのですから、パンフレットをみたことのないひとは、この町の存在すら知らなくて当然です。インターネットのマップには、かつての宗教施設の写真が使われたまま、更新されていません。別役先生が、そう、教えてくれました。
「もうすぐ着くわ」
 別役先生が言う。あたしは先生の白い横顔をみるたびに、先生のことがわからなくなる。短大を出たばかりの若い先生なのに、その言葉や深い瞳に、長い時の流れが満ちている。
「沙希さん、具合が悪かったら、早めに言ってね。このさきは山道ですから」
 先生が優しく話しかけてくれる。髪が長くて胸がおおきくて声がよく通る美しいひとなのに、どうしてこんなことをするのでしょう。この冬まで妹のクラスを受け持った後は、別の学校へ赴任するときいていました。赴任先がたまたま金魚鉢なのか、それとも最初からすべて仕組まれていたのか、それともその両方なのかわからないけれど、別役先生はあたしたちに優しい。
「お姉ちゃん、あたしたち、帰れないの?」
 真優がきく。あたしは真優の頭を抱いて言う。
「大丈夫だよ、いろいろ落ち着いたら、きっと帰れるから」
「シュンのお父さんとお母さんは、心配しないかしら?」
 左隣の男の子は本条淳といいます。あたしたちの従兄弟。シュンはあたしの二の腕にしがみついたまま、ときどき溜息をつく。無口で、気が弱い子。シュンのお父さんとお母さんが心配していても、あたしはシュンを返したくない。男の子らしくない長い睫と赤らむ頬をみつめ、シュン、寒くない、ときく。シュンは、へいき、と囁く。淋しそうに微笑むその表情に、あたしは恋をしています。
 金魚鉢の湾曲した壁がみえてくる。まるで収容所。どうしてこんなことになったのか、なにがいけなかったのか、どこから狂ってしまったのか、なんどおもいだしてもわからない。あたしたちは別役先生の車に乗る直前、肉と肉の糾いに溺れていたのです。二月十六日の夜は、大雪が降っていました。

 一月二十三日、月曜日、午後九時。
 六人の裸の少女たちが、あたしの服をはぎ取って、ソファの上で愛撫を始めたのが二十分前。妹の真優がおなじように裸になってあたしに覆い被さり、少女たちと一緒にあたしの肌に舌と指先を滑らせたのが十分前。目の前のソファに縛られて、二人の少女に愛撫されるシュンは、十一時間以上前からそうしていて、ときどき痙攣するばかりでもう声もでません。
 沙希さん、田神沙希さん…。
 見上げると、別役先生があたしをのぞき込む。先生だけは白いワンピースの上に黒いジャケットを羽織って、髪を結っている。お化粧なんてしていないのに、キラキラしています。
「身体は温まりました?」
「ええ…」
 先生の柔らかな指先があたしの股間をなでる。割れ目に滑り込む。つるりと細い指が内部に沈む。
「外側は温まっても、内側はまだ冷えておいでだわ。こんな寒い夜には、身体の芯から温まらなくてはいけません」
 先生がそう囁くと、あたしを愛撫していた少女たちが立ちあがり、あたしに抱かれていた真優を抱き起こす。少女たちはあたしの身体を抱え上げて、こどもがおしっこをするときの格好で、両脚をひろげて股間を突き出したまま、シュンの真上に運ばれます。前髪が汗で額に張りついたシュンがあたしをみあげていて、シュンの長大なおちんちんがあたしめがけてそそり立つ光景は、宇田川浄水場にある百円玉を入れると一分間くらいウネウネと動き回るパンダの乗り物に初めて腰掛けようとしたときのワクワクに似ていて、そのときはまだ妹は生まれたばかりの赤ちゃんで、あたしのちいさな身体をお父さんが支えていました。
 つぷり、にゅるるるっ。
 シュンの熱い陰茎があたしの胎内に滑り込んできて、またたく三秒間の出来事。あたしに、すべてのおんなに穿たれた空虚な穴に、その煮えたぎる生命そのものを満たされて、シュンは百円で一分間動くパンダの乗り物よりも激しくおおきく上下にピストンを開始する。シュンは百円で一分間しか動かないパンダの乗り物とちがって、何時間でもそうしていられるし、百円玉は必要なくて、手すりの代わりにおおきなおちんちんがついているから、あたしはシュンがどんなに激しくしても振り落とされずにすむし、シュンのおちんちんは独立した生き物のようにあたしの胎内をかきまわすのです。
「沙希ちゃん…、きもちいい」
「シュン、ごめんね、あたし、来るの遅かったね」
「沙希ちゃんは、なにもわるくない。ぼくがモタモタしたのがわるいの」
 あたしはごめんねとつぶやきながら、シュンの頭を抱きしめて、ふと視線を窓に向けると、プレハブの窓枠には雪が積もり始めています。シュンに突かれてどんなに甘い声で泣いても、だれにも聞こえない。小さなプレハブ小屋の暖房はガンガン焚かれてすこし頭が痛いくらいで、シュンに胎内から暖められるとからだじゅうから汗がしとどに噴き出します。
「お姉ちゃん、きもちいい?」
 裸の真優が囁きます。あたしの目の前に屈んで、あたしにしかきこえないくらいの小声で、そっと。
「真優、ごめんね、お姉ちゃん、もうダメかも…」
「真優もしたいよ、真優もシュンに突かれたい、つぎ交代して」
 部屋の四隅で焚かれたお香のかおりが蔓延して、天井から、床から、夥しい数の木の根が這ってあたしたちに襲いかかろうとするなか、頭上でガンガンと警告を鳴らすのはあたし自身の激しい血流、惚けた眼差しの少女に眼があって、このずしんずしんという衝撃が臓腑を突き上げるシュンの巨根によって響く露骨な快感のエビデンスであることに気づき、息を吸い込むたびに脳味噌が溶けるような痺れを覚えるのです。
「田神沙希さん、おわかりになりまして?」
 別役先生があたしをのぞき込む。
「もう逃げ場はありません。あなたが先生の言うとおりにしなかったから、先生はあなたの周りに罰を与えたの。これ以上、拒むなら、もっとひどいことになってしまうわ。だけど、こんどこそ先生の言うことをきくなら、あなたを素敵なところへ連れて行ってあげる」
「どこへ、行くの?」
「まだ、言えないわ。あなたが行きたいと願わない限り」
「妹とシュンは…」
「シュンくんも、真優さんも一緒よ」
「お父さんと、お母さんは…」
「どうして心配するの? あなたのお父様もお母様も、あなたたちを捨てたじゃない、よく思い出してグレーテル。先生は魔法が使えるの。そして、森の魔女はあなたの味方。あなたに魔法の使い方を教えて、お菓子のお家に住まわせて、新しい生き方を提案することだってできるわ」
 シュンがあたしの乳首を吸う。小刻みに上下の振動が響いて、あたしはイヤらしい悲鳴を響かせるのですが、もう恥ずかしい気持ちはありません。
「はぁ、はぁ、先生は、そうやってまたあたしたちを、誘惑、するのね」
 別役先生はあたしの頬を両手で包んで、先生のあかい唇と、あたしの濡れた唇の距離が五ミリ、先生は悩ましいまなざしであたしを見つめます。
「沙希さんは、シュンくんをこの子たちに奪われたとおもってるかもしれないけれど、それは違うわ。この子たちは、あなたのものになるのよ。従順で忠実な、あなたの召使いで、田神沙希を崇拝することになるわ。信仰の対象になるなんて、どんな恋愛もどんなセックスも比肩しない絶えざる快楽なのよ。いままでの日々が些末な日常に思えるくらい素敵なこと。それでも沙希さんは、先生の誘惑に落ちるつもりはないのかしら?」
 あたしの乳首に吸いついたままのシュンが、んんっと鼻息で呻いて、胎内に熱い濁流が注がれるのを感じ、全身がぎゅっぎゅっと収縮するままにシュンのからだとおちんちんを締めつけて、どっと子宮に流れ込んだ精液が逆流して膣を膨らませ、あたしとシュンの結合からぶくぶく泡を吹いて溢れだす卑猥さ。とまらない、とまらない、シュンの射精もあたしの絶頂も。
 すきにしてください。
 あたしは濡れた唇でそうこたえて、すべてが曖昧になって、青黒い帳がおりてくる。
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