R18恋愛官能小説 青山倉庫

トッカータ

第5話「眼差し」


 最初の登校日。
 真夏の日差しを遮るものが何もない通学路で、あたしは前を歩くアヤを見つける。
 あれ以来、あたしはアヤと会っていなかった。アヤはあたしに連絡を取ろうとしなかったし、あたしも電話する勇気はなかった。あたしはアヤに声をかけようか迷っているうちに、校門の前に着いてしまう。
「麗羅、おはよ」
 背後から声をかけられる。日に焼けた由里があたしに並ぶ。
「由里、日焼けしてる。どこか行ったの?」
「もう海に行ったよ。麗羅、相変わらず白いねー」
「あたし、ひきこもってたもん」
「彼氏とラブラブなんでしょ」
「え?」
「友恵に聞いたよ。三年生の綾川先輩と付き合ってるって」
「いや、そんなんじゃ…」
「麗羅、アヤと仲いいもんね。アヤも知ってるの?」
「いや…、その」
 あたしは口籠もったまま上履きに履き替えて階段を上る。夏休みの途中の登校日には、色々理由をつけて休む子が多くて、教室にはあまり真面目でない子の姿は見えない。アヤは席に座ったまま、ひとりでぼんやりしてる。
 自分の席に鞄を置いて、あたしはアヤの席に近づく。
「アヤ…」
 あたしが一言発しただけで、アヤは席を立って教室を出て行く。

 吸って、吸って、吸って、吐いて、吐いて、吐いて。
 長距離コースを走る陸上部の選手みたいに規則正しく呼吸して、あたしは中央公園のベンチの上で、優くんに抱かれて上下に揺れる。優くんはあたしのワンピースのボタンを外して、あたしの乳房を愛撫する。あたしは優くんに逢うとき、ブラをつけないし、ショーツもすぐに脱がされてしまう。ベンチは少し奥まったところにあるけど、ジョギング中の人や犬の散歩をしてる人、塾帰りの子供たちにジロジロ見られてしまう。優くんは人が通りかかっても突くのをやめてくれない。あたしは声を漏らさないように、唇を噛んで快感に耐える。
「ゆ…、ゆっうっくぅん、あっあっ、恥ずかしいよ」
「きもちいい? 麗羅…」
「ゆぅ、みられて…」
「いいよ、大丈夫だよ」
「だいじょぶじゃ、な…」
 アヤと最後に会ってからも、あたしは優くんの誘いを断れずにいた。
 優くんはあたしの淋しさを紛らわせてくれたし、優くんとのセックスはめちゃくちゃ良くて、罪悪感を感じていてもあたしは優くんに求められるままに愛し合う。愛し合えば愛し合うほど、あたしの幼いからだは少しずつおんなになってきて、恥ずかしいことにも抵抗がなくなる。だから、公園とか公民館とか図書館とか、中学生のあたしたちがそこに居ても不自然じゃない場所で死角を探して、場所を変えながら何回も何回もセックスする。
「ねっ、ねぇ、ゆぅく…」
「なぁ…に?」
「あたし、アヤに、バレちゃっ…あっあっあっ」
 優くんはすごく長くて、あたしの胎内の奥深くを抉るように突いて、ずしん、ずしん、と重い振動が響いて、全身に快感が走る。あたしたちの股間からすごくエッチな音が響く。もう声を堪えられない。
「バレたんだ…」
「ごめ…あっあっ」
「麗羅は…はぁはぁ、悪くないよ。気に…しないでっ」
「あっあっいっうっあっあっあっ」
「はぁはぁ、なあに?」
「はっあっはっしゃべっ、しゃべれ…」
 セックスしている最中、優くんは息は荒いけど自由に喋ることができるのに、あたしは胎内をかき回されて、恥ずかしくて、きもちよくて、全然言葉にならない。からだじゅうが熱くて、あたしの乳首を吸う優くんの頭を抱いて、絶頂の波に襲われる。

 キーン、コーン、カーン、コーン。
 夏期登校日は宿題の一部が集められて、先生が適当に何か喋って、午前中に帰ることができる。あたしはアヤの誤解を解きたくて、教室を出たアヤを追いかける。廊下を駆ける。階段を駆け下りる。下駄箱でアヤの靴を確認する。まだ帰っていない。そこに友恵が通りかかる。
「麗羅ちゃん、そんなに急いでどうしたの?」
「アヤみなかった?」
「彩奈、保健委員だから、保健室だとおもうよ」
 あたしはありがとうと言って廊下を駆ける。保健室の引き戸を開く。両膝を掴んで呼吸を整える。保健室には保険医の大塚先生はいなくて、アヤが一人でクリップボードを整理している。息の荒いあたしを不思議そうな眼差しで見つめる。
「アヤ…、あたし」
 アヤは手に持ったボードの束をキャビネに突っ込んで、鞄を掴む。あたしに向かって歩いてくる。あたしは後ろ手にドアを閉めて、両手を拡げる。アヤを通せんぼする。
「なに?」
「話があるの…」
「なに?」
「あの、あたしね」
「あたし、急いでるんだけどっ」
 アヤはあたしを押しのけて、保健室を出る。逃げるように走っていく。あたしはその後を追いかける。下駄箱で追いつく。アヤは靴を履き替える。あたしはアヤの腕を掴む。
「話を聞いて」
「いやっ」
 アヤはあたしが掴んだ手をふりほどく。背を向ける。あたしはアヤの背中を捕まえる。
「ちょっと!なに?」
「好きなの」
「はぁ?」
「あたしが好きなのはアヤなの」
 アヤの体が硬直する。出口のガラス戸に映ったアヤの表情はよく見えない。
「いつからかわからないけど、あたしアヤのことが好きになったの。あたし男の子に興味ないから、アヤがこんなに傷つくなんておもわなかった。ほんとに、ごめんなさ…」
「どうして」
「え?」
「男の子に興味ないならさ…、どうして」
 通りかかった小辻くんがあたしたちをジロジロ見ている。アヤは俯く。あたしは腕の力を緩める。
「アヤが経験してること、あたしも知りたかったの。気後れしたくなかったし、アヤの一番親しい人に近づけるとおもって。ごめんね、みんなあたしが悪いの」
 アヤは走り出す。下駄箱を出て、立ち止まる。あたしを一瞥する。悲しそうな眼差しがあたしを見つめる。

 夜遅くにアヤから電話が来た。
 帰宅してからずっと悶々としていたあたしは、お母さんが「アヤちゃんから電話よ」と呼ぶ声をずっと待っていた。
「もしもし、麗羅。今日はごめんね…」
 舌足らずのアヤの声。あたしは恐る恐る返事をする。
「ううん、あたしこそ」
「今日、麗羅が言ったこと、あたし考えたんだけど…」
「うん」
「その…」
 あたしたちはもぐもぐ譫言みたいに呟き合う。今までみたいに、友達として気を許した会話にならない。アヤの声のトーンもいつもと違う。あたしは自分の気持ちが通じないばかりか、友達を今度こそ永久に失ってしまうかもしれない。でも、それは自分で撒いた種。
「アヤ、いいよ、はっきり言って」
「うん、えっとね、麗羅の気持ちは嬉しいんだけど、あたし、そういうのってよくわからないから…。少し、もう少し考えさせて欲しいの」
「うん」
「あたし、麗羅のこと好きだよ。でも、そういうふうに考えたことないからさ…」
「そうだよね」
 壁の時計を見上げると、もうすぐ零時を回る。アヤはいつものアヤの声に戻って、テレビの話題や芸能人の話題、他愛のない話をする。あたしは胸のつかえが取れたような気がして、つい長話をしてしまう。今まで話してないこと。子供の頃から男の子が怖くて、気づいたら女の子を好きになったこと。告白したのは初めてだったこと。アヤはあたしの話に耳を傾けてくれる。
 いつしか夜も更け、パジャマ姿のお母さんに早く寝なさいと小言を言われる。あたしはアヤと遊びに行く約束をして電話を切る。
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