R18恋愛官能小説 青山倉庫

鳴沢文芸部

第9話「塔子の裏切り」


 ぼくと天音は直接家に帰らず、実留衣の家を訪れた。
 実留衣のお母さんにご挨拶する。胸に熊の刺繍がある子供っぽいワンピースパジャマを着た実留衣がびっくりした表情で出迎えて、部屋にあげてもらう。三人でお茶を飲んで、お菓子を食べて、実留衣はもう勝ち負けとかどうでもいいよね、と言う。
「部室がなくなってもさ、文芸部が集まっちゃいけないってわけじゃないし、どこか図書館の隅とか、特進クラスの空き部屋なんかに集まって、活動を続ければいいとおもうよ」
「でも、ぼくは勝ちたい。文研なんかに、部室を使われたくない」
「あたしも、温井清春なんかに部室に入られたくないよ」と天音。
「温井って、あのイヤな奴?」
「そう、リア充気取り」
 壁の時計が午後六時をしらせる。ぼくは立ち上がる。
「これから少し手直ししなくちゃ」
「えー? でも挿絵は仕上がってるんじゃない?」
「挿絵を変えなくてもいいように直すだけだよ」
 ぼくはそう言って、天音と共に実留衣の家を後にする。家に帰れば、母親にひどく叱られるかもしれないけど、今はそれほどイヤだと思わない。ぼくは、結局、実留衣に天音とつきあうことを伝えられなかった。実留衣の家からすこし離れて、ぼくと天音は手をつなぐ。子供の頃、こうして手をつないで一緒に帰宅したことが何度もあるけど、その頃とはもう違う。もっと甘くて、暖かくて、いとおしくて、こころがざわめきます。

「私も文芸部に入りたい」
 翌日、ぼくは久しぶりに登校して、お昼休みに中庭で本を読んでいると、小野寺塔子が駆け寄ってそう言った。天音は装丁のチェックのためにお昼休みも部室に籠もっているから、いまぼくひとり。
「あれ? 小野寺は文研で作品書いてるよね」
「そうだけど、私、青年部が発刊されるまえに、文芸部に移りたいの」
「いいけど…、どうして? 今から転部しても、小野寺の作品は文研の票になるはずだよ。いいの?」
「部室がなくなっても、あたしは文芸部の方がいい」
 外廊下から実留衣が駆けてくる。ここにいたー、と言いながら駆け寄る。
「入稿終わったよ。てか塔子、なんでいるの?」
「私、文芸部に転部したいの」
「転部って、まだ文研はクラブでしょ。ウチは廃部寸前だし」
「廃部にはならない、私を文芸部に入れて」
「どうして?」と実留衣は首を傾げる。
 ぼくはベンチの隅に座り直して、とりあえず座ってと言う。塔子と実留衣が並んで座る。
「順を追って話すね。清春が書いた作品名はまだ言えないけど、それが、去年雑誌の小町文学に載った投稿作品の剽窃なの」
「剽窃って…、パクリ?」とぼく。
「うん。小町文学自体、発行部数もすくないし、年配の女性向けだから、この学校の人は誰も気づかないとおもう。私の家は、お母さんが昔から定期購読してて、私はたまたまその作品が載った号を読んでいたからみつけちゃったんだけど…」
「いんすぴれーそん、とは違うの?」
「そんなレベルじゃなくて、丸ごとコピーした感じ。違うのは題名だけ。そんなので票を獲得して、部室を乗っ取りたくない。だから…」
「そうなんだ。でも、そのこと、誰かに言った?」
「ううん、まだ誰にも」
「じゃあ、言わないでおこう」
「どうして? 剽窃だよ」
「いまバレると、投票中止になっちゃうし、もう入稿しちゃったからさ。剽窃発覚すると、いろいろうやむやにされそうで怖いじゃん。窪塚先生は、文芸部をつぶしたいみたいだから、不正が発覚すると、関係ないぼくらまでまとめて処分しかねない」
「私、文研の女子メンバー全員引き抜いてくるよ」
「それは、投票結果が出てからにしようよ。塔子が転部するのは、届けだけ書いて牧野部長に持ってて貰えばいいよ。窪塚先生に渡しちゃったら、後戻りできないから、あぶない」
「そうだよ塔子。様子みてから決めても遅くない。ウチらは、いつでも歓迎するけど、慌てない方がいいとおもうよ」
 塔子は静かに頷く。曇った空から、パラパラと雨粒が落ちてくる。外廊下の屋根の下まで走る間に、大雨になる。中庭の花壇はステージ状になっていて、煉瓦の段が積まれててっぺんに青銅の青年像が立つ。その青年像から湯気が立ちのぼる。塔子がぼんやりと呟く。
「私、清春とつきあってると思っていたけれど、あいつ、私のことをセフレぐらいにしかおもってなかった…」
 実留衣が覗き込んむ。
「塔子、それって…」
 塔子はその場にしゃがみこむ。嗚咽を漏らす。
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