R18恋愛官能小説 青山倉庫

絶頂ラジアン

第10話「早苗さんのこと」

 ぼくは裸のまま、ベッドの縁にこしかける。
 恵未を連れて行った早苗さんが戻ってくる。ぼくの前に座り込む。上目遣いの眼が真っ赤に潤んで、表情は暗い。沈黙する。ぼくのアソコはまだ落ち着かなくて、硬くなったまま、精液に濡れて上をむく。絶頂の余韻に躰が震えて、ときどき太股が跳ねる。
「いつから?」
 早苗さんが訊く。
「先々月、くらいから、です」
 ぼくはうつむいて答える。
「どれくらい?」
「え?」
「毎晩、してるの?」
「はい」
「避妊は?」
「してません」
 早苗さんはため息をつく。絨毯のうえに座り込んだまま、ぼくの濡れたからだを眺める。ぼくは恥ずかしくて、猫背になる。顔が熱い。
「叔母さん、あなたのことを信じて、恵未を預けたの」
「はい」
「恵未はまだ十一だし、トモくんもまだ十二歳でしょ。お互い子供なの」
「はい…」
「毎晩、こんなふうにして、どうなるとおもう?」
「いつか、恵未が妊娠するとおもいます」
「そしたら、どうするの?」
「そのときになってみないとわからないけど、ぼくは、産んで欲しいとおもいます」
「産んで育てられるの?」
「わかりません……」
「子供ひとり育てるのに、どれだけの時間とお金がかかるか知ってるの?」
「しりません……」
 早苗さんは、最近支給された子供手当で、恵未に誕生日プレゼントを買っていた。ぼくが早苗さんの養子になれば、もう一人分貰えるのに。ぼくはそんな関係ないことを考えて、目下の現実から眼を逸らそうとする。大人になった恵未に責められているみたいで、かなしくて、いたたまれない。涙が滲む。
「トモくんは、恵未のことがすきなの?」
「すきです」
「恵未のこと、傷つけたくないよね…」
「うん…」
「じゃあ、我慢できるかな?」
 早苗さんが囁いて、ぼくの濡れた太股に手をのせる。暖かい早苗さんのてのひらと、淋しそうに微笑む早苗さんの唇をみつめて、ぼくはさっきより興奮して、アソコがびくびく脈打つのを感じる。透明の体液が溢れて、濡れた陰茎を伝う。ぼくは首を横に振る。眼をとじると、早苗さんとつながっている姿をリアルに想像する。心臓がばくばくいって、顔が真っ赤。
「できません…」
 そう言って、早苗さんの手に自分の手を重ねる。
「じゃあ、避妊する?」
「します」
「できる?」
「どんなふうに、するんですか?」
「したこと、ないよね…」
「教えてください。避妊の仕方」
 早苗さんは戸惑った表情で、一番安全なのはゴムをつけることだよ、と言う。
「叔母さん、買ってきてあげるから…」
「いま、ないんですか?」
「え?」
「いま、つけてみたいです」
 早苗さんをみつめる。早苗さんはかわいそうな表情をする。無理なお願いをして、困っているときの恵未にそっくりだけど、恵未にはまだない、憂いを帯びた瞳に、早苗さんが重ねてきた哀しみが翳る。
 ちょっとまってね。
 そう囁いて、早苗さんは立ち上がる。部屋を出る。鞄を持って戻ってくる。朱いポーチを取り出す。そこから、駄菓子の笛ガムみたいな数珠つなぎの袋を取り出して、一つ切り離す。ぼくの手に乗せる。
「それが、コンドームだよ。あけてみて」
 おもったより可愛いデザイン。ぼくは袋を破く。中に、ぬるっとした半透明のゴムがはいっている。
「それをかぶせるの。表と裏があるから、気をつけて」
「どっちが表?」
「こっち側だよ、こっち側に、くるくるって巻いてあるから、コレを先っぽにあてて、伸ばすの」
「早苗さん、つけてください……」
 ぼくは頬を紅くしながらお願いする。早苗さんは肩を竦めて、エヘヘ、と笑う。
「トモくん、厭じゃない?」
「厭じゃないです……」
 ぼくは早苗さんの手首を掴む。引き寄せる。早苗さんはぼくの両脚の間に座り直して、コンドームを受け取る。ぼくは両脚をひろげて、腰を突き出して、両手を後ろに突く。お尻の穴までみえる格好。恥ずかしくて涙が滲む。
「つけるね…」
 早苗さんが囁く。ぼくの陰茎の真ん中をそっと握って、コンドームの突起を咥えて、そのままおちんちんの先端にキス。舌と唇と指先でゴムをかぶせる。早苗さんがぼくをフェラチオしている。脳みそが沸騰しそう。
 早苗さんの唇がちゅるりと根元まで飲み込んで、ちゅるりと口を離す。唾液が、つつ、と糸をひいてキラキラ。余りは手で伸ばす。半透明のゴムが、ぼくのおちんちんを三分の二くらい包み込んで、ぐっと締めつける。
「トモくん、おっきいから、全部はムリだね。痛くない?」
「すごく締まって、ちょっと痛いかも…」
「じゃあ、すこしおおきめのを買わないとね」
 そう言って、早苗さんはゴムを巻きながら外す。外れた途端、締めつけを失って、ぼくは早苗さんの肩を掴んで、
「あっ、だめっ」
 と呟く。
 びゅっ、びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ。
 勢いよく噴きだした精液を、早苗さんは手のひらで受け止める。下唇を噛んで、上目遣いでぼくをみつめる。射精がおさまると、早苗さんはクスクス笑う。
「そうだよね、トモくんぐらいの年頃って、したい盛りだもんね」
 そう言って、ティッシュでてのひらを拭う。ぼくのアソコも拭う。
「ごめんね、こんなオバサンに触られるの、イヤでしょ」
「イヤじゃないです、全然…」
「ウフフ、無理しちゃって」
「だって早苗さんは…」
「うん?」
「ぼくの…」
「ぼくの?」
 初恋のひとだから。
 そのひとことが出ない。早苗さんがぼくをじっとみつめる。心臓がすごい早さで鼓動する。早苗さんは頬を真っ赤にして、うつむいてしまう。

 夕暮れ。
 今夜、早苗さんはお休みで、恵未と一緒に眠ることができない。それは仕方がない。恵未と愛し合っていることがバレてしまって、早苗さんはどうしていいかわからなくなっている。ぼくは部屋に籠もることができなくて、シャワーを浴びてから外に出た。出かけるとき、恵未と早苗さんが喋っている声が聞こえた。
 お財布と携帯だけを持って、自転車に乗って坂道を下る。蛍ヶ浦は住宅街ばかりで、商店街も早めに店を閉めるから、この時間に明るいのは駅前くらいで、人通りもすくない。一時、夜間に公園で騒いでいる中高生がいたけど、住人が都度通報するから、最近はみかけない。
 駅前のミスドに入る。チョコのついたオールドファッションとコーヒー。店内は閑散。携帯でつぐみに電話する。出ない。顔をあげると、店の奥に三人の学生服がたむろする。見覚えのある三人。その中のバンダナがぼくに気づく。
「やあ、奇遇だね」
 しまった、声をかけられた。ぼくは肩を竦めて、ちょっとお辞儀する。三人とも振り返る。オカルト研究会の仲良しトリオ。
「こっちへ来て、一緒に食べないか」
「い、いや、ぼくは…」
「遠慮することはない、さあ来給え」
 バンダナは声がデカイ上に、その所作さえ芝居がかって、『給え』などと恐ろしいことばを遣う。ぼくは渋々トレイを持って、三人のテーブルに加わる。こんばんは、と呟く。
「自己紹介させてくれ。ぼくは久松大介。宇宙人と交信する能力を持っている」
 バンダナが言う。なにを言っているかわからない。隣の口髭が片手をあげる。
「俺は栗山俊二。催眠術とエクトプラズムを研究している」
 そう言って、口髭はコーヒーを啜る。ぼくは、はぁ、とため息みたいな声を漏らす。最後に髪の長い女子が、何かぼそぼそと喋る。保健室で会ったときとは印象が違う。なんだか視線も定まらない。
「新浜さん、聞こえないよ」とバンダナが言う。バンダナの名前はもう忘れた。
「新浜佳枝さんだよね」とぼくが言う。
「なんだ、知っているのか!」
「今日、保健室で会ったから…」
「新浜さん、どこか具合が悪いのかね?」
「いいえ、七隈せんせ……を……」
 語尾がごにょごにょしていて聞き取れない。ぼくはようやくドーナツをひとかじり。駅前ロータリーを私鉄バスが周回する。すっかり陽が落ちて、外はネオンの明かりばかり。
「きみは、名はなんと言うのかね?」
 バンダナが質問する。
「櫻井智之です」
「櫻井くんは、なにか特殊能力を持っていないのかね」とバンダナ。
「いえ、そういうのは……」
「きみは超常現象を信じるかい?」
「どういうのを、ちょーじょー現象っていうんですか?」
「まぁたとえば、未確認飛行物体との遭遇やUMAつまり未知の生物や怪奇現象…」
「あ、ひとつあります」
「なにっ!?」
「以前、華欄ホテルの廃墟で雨宿りをしたことがあるんです。すごいゲリラ豪雨で、外に出られなくて。そのときに、上の階にのぼったら、部屋の中から白いボロをまとった干物みたいな人が出てきて、急にヒュッて。びっくりしてると、足音もなく近づいてくるから、めちゃくちゃ怖くて一目散に逃げてしまって。あれなんだったのかなぁ」
「それは、ぼんやりした影だったかい?」
「いいえ、もっとはっきりした感じで。明らかに干からびたミイラみたいな人でした」
「ふーむ、それだけの情報ではなんとも……」とバンダナは顎をさする。
「あっ、ひょっとしてきみは…」と口髭が身を乗り出す「櫻井早苗の息子か!」。
「いえ、甥です」
「それはつまり、櫻井早苗とひとつ屋根のしたに暮らしているということか!」
「ええ、まあ」
「なんたる不埒な!」
 口髭が両手をあげて驚いたポーズ。
「早苗さんはそんなに有名なの?」とぼくは訊く。
「きみは映画も観てないのかい」今度はバンダナ。
「きみは『遠い夏の風』に出演している櫻井早苗を観ていないのか」と口髭。
「あ、映画に出てるんだ」
「レンタルできるから、絶対観るべきだ」
「ああ、うん」
 ぼくはドーナツをかじる。コーヒーを飲む。早苗さんのことを想い出す。恵未のことを想い出す。ふたりに一番共通しているのは、表情の豊かさ。笑ったり、泣いたり、喜んだり、怒ったり、それ以上に微妙な感情を無言で表現することができるふたりのおんな。ちょっとした仕草やことばに、堪らない愛らしさが滲み出て、そんなふたりとひとつ屋根の下に暮らすぼくは、とても仕合わせなのかもしれない。
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