R18恋愛官能小説 青山倉庫

絶頂ラジアン

第5話「達也の脅迫」

 夏休み半ばの登校日。今日もあのクラスが騒がしい。
 日直のゆきえが後ろの黒板に行事予定を書き込んでいる。先生が宿題の一部を回収しながら、夏休みの注意を解いていく。ふたつ隣のクラスが大騒ぎしている声が聞こえてくる。一学期から騒がしいクラスだったけど、担任の先生が替わってから、いよいよ手がつけられなくなった。ゆきえが行事を書き終わって席にもどるとき、騒がしいクラスの生徒たちが廊下を走っていく。しばらくして、チャイムが鳴る。去年、自主性を育てたい校長がチャイムを無くしたら、学級崩壊するクラスが増えた。いちど崩れると、あんなふうに立て直せなくなる。
 ランドセルから携帯を取り出す。授業中にブンブン鳴っていた。メールが一件。

 差出人:磯谷達也
 件名:こんにちは
 本文:
 恵未ちゃん。こないだは楽しかったよ。
 お互い初めてだったけど、恵未ちゃんは上手だったね。
 今度はいつあえるかな?
 次はちゃんと避妊するからね。

 なにこれ。
 あたしは携帯を握りしめたまま席をたって、教室を出る。階段の前の壁は鏡張りで、ミルリルの明るいチュニックを着たあたしの顔は真っ青で、階段を駆けおりて廊下をはしって校舎をでて渡り廊下をはしって昨夜の豪雨のみずたまりを飛び越えて体育館の非常階段をおりるとき、急にきもちわるくなってたちどまる。アドレス帳をひらいて、登録したおぼえのない磯谷達也の電話番号をみつける。選択、音声電話、そのまま発信、発信中……。
「はい、磯谷」
「もしもし」
「あ、恵未ちゃん? どうしたの?」
「達也くん、さっき、メール……」
「あー、うん。こないだメアド交換したじゃん」
「してないよ、いつ?」
「大雨の日にさ、家に来てエッチしようとしたとき」
「してないよ、覚えてない」
「覚えてないの? 恵未ちゃんからしようって言ったじゃん」
「言ってないよ」
「あっれー、覚えてねーの?」
 雨の日。あたしはそうと知らずに達也の家のガレージで雨宿りをしていた。そこへ達也が現れて、それからどうしたっけ、達也の部屋にあがらせて貰って、タオルをもらって、服がびしょびしょだったから浴衣に着替えて、達也のベッドに倒れ込んでしまった。前日に一睡もしてなくて、ひどく眠たかった。起きたとき、外はもう真っ暗で、あたしはひどい偏頭痛を堪えながら、ひとりで帰宅した。達也がそばにいたと思うけれど、ちっとも思い出せない。どうやって帰ったのかも覚えていない。そういえば、達也があたしの肩に触れていた。夢の中に奈々のお母さんが現れて、あたしの髪を切ってくれた。
「覚えてない……」
「恵未ちゃんね、俺とエッチしようって言ったんだよ」
「うん」
「俺は、俺なんかでいいの?って訊いたんだ。そしたら、恵未ちゃんは元気よく、うん、って」
「それで?」
「恵未ちゃんは浴衣だったし、俺も服濡れてたからさ、脱いで、恵未ちゃんに入れようとしたんだ。だけど、恵未ちゃんすごく痛がって、結局はいんなかった…」
「そうなんだ」
「恵未ちゃんはまだ処女だし、まーしょうがないよね。俺も避妊してなかったからさ、次はちゃんとしてからしようって、約束したし」
「ふうん」
「でも恵未さぁ、あはは、くちでしてくれたの覚えてる? 覚えてないんだよね」
「くちで?」
「うん、ちょーきもちよかった。ちゅぼっ、ちゅぼっ、て吸い込んで、俺二回も出して、恵未全部飲んじゃったし。フェラの才能あんじゃない?」
「ねぇ、嘘でしょ?」
「なにが?」
「それ全部、嘘でしょ?」
「嘘じゃねーよ。俺、写真撮ったよ。これ、智之にみせていーい?」
「やめてよ!」
 あたしは通話を切る。手がぶるぶる震えてる。怒りとか、恐怖とか、嫌悪とか、いろいろどす黒いものが湧きあがって、あたしはめまいがして、手摺を掴んでその場に座り込む。吐きそう。吐きそう。

「恵未、どうしたの? 元気ないよ」
 ゆきえがあたしを覗き込む。今日も髪型を変えた奈々があたしの二の腕を抱いて、具合悪いの?と訊く。
「うん、すこし……。さっきちょっと、吐きそうだった」
 あたしはお弁当を半分も食べられない。お弁当箱をしまう。体育館の裏。相変わらずまいにち暑いけど、裏庭のちいさな林道から吹き込む風が涼しい。今日は登校日だから、給食もなくて、もう帰宅できるけど、あたしたちはお弁当を持ち寄ってたべる。帰宅せずに遊びに行くから。よくそうやってお喋りする。大笑いする。今日は、あたしに笑顔がない。
「保健室行く?」とゆきえ。
「ううん、そういうんじゃないから……」
「トモくんと喧嘩した?」
「ううん、お兄ちゃんとは喧嘩しないよ」
「まいにち愛しあってるもんね」
 あたしは肩をすくめて、元気のない笑顔。智之お兄ちゃんのことをおもいだすと、すこし気が楽になる。あたしの一度の間違いで、お兄ちゃんは怒ったりしない気がする。それに、お兄ちゃんだって、ゆきえとセックスしている。あたしの目の前で、ゆきえとつながっている。最近、それに慣れてきた。ゆきえは、お兄ちゃんじゃなくて、あたしとすることを妄想している。ゆきえはあたしとしたいだけ。あたしも、お兄ちゃんみたいにおおきなおちんちんがあれば、最初にゆきえとセックスする。おちんちんがあれば、あたしは奈々ともセックスしてみたい。隣の席の美紀ともヤりたい、蜜恵ちゃんともヤりたい。蜜恵ちゃんはバックから挿入したい。体育館のギャラリから、恵未ちゃんのおちんちんがきもちいいです、って恥ずかしい言葉をいっぱい叫ばせて、泣かしたい。
「恵未っ」
 ゆきえが顔を近づける。
「なに? びっくりした」
「すごいぼーっとしてるし、なんかニヤけてる。あー、エッチなこと考えてるんだ」
「ちがうよー」
 あたしは顔が熱くなる。あたしがすごくエッチな妄想をするようになったのは、ゆきえとお兄ちゃんのせい。クラスのみんなの前でお兄ちゃんとセックスする妄想、満員の電車内でお兄ちゃんとつながる妄想、市民プールでお兄ちゃんとつながったまま流れていく妄想、みんなあたしたちの行為に気づいているけど、なにも言わずにただみている。セックスで得られる快感は堪らないものだけれど、それはあたしにとって必ずしも必要なものではなく、あたしは血縁のお兄ちゃんと愛しあっていることを周りの誰かにみてもらいたいだけ。
「妊娠したんじゃない?」
 奈々が言う。突然。
「だれが?」
「恵未ちゃんが」
「あたしはしないよ」
「どうして?」
「初潮もないもん」
「わかんないよ。ショチョーで妊娠するひともいるんじゃない?」
 ついこのあいだ、お兄ちゃんに冗談で言ったことば。赤ちゃんできちゃうよ。冗談だったけど、もしそうなったら、どうすればいいんだろう。奈々があたしのお腹を触る。
「恵未ちゃん調べてもらった方がいいんじゃない? こどもがこどもを産むことになっちゃうよ」
「うん……」
「あっ、動いた!」
「あはは、ちょっと奈々ちゃん、くすぐったい」
 ゆきえもあたしのお腹に触る。あたしの耳元で囁く。ねぇ、明日はお誕生日でしょ。あたし、今日から泊まりにいってもいい?
 あたしは小さく頷いて、いいよ、と呟く。ゆきえは、いっぱい愛しあおうね、と囁く。
「なにひそひそ話してるの?」
 奈々がふくれる。奈々のほっぺたをゆきえが摘んで、キスしようとする。奈々は仰け反って仰向けに転がる。ケラケラ嗤う。嗤いながら、遠くをみている。視線の先に、学校で飼っている柴犬のトロ助がいる。トロ助は柴犬のくせに太って動きが鈍くて、運動神経も鈍いから、ほんとうの名前はべつにあるらしいけれど、みんなからトロ助と呼ばれるようになった。いつも綱につながれているのに、自由に歩き回っている。
「トロ助、脱走してるよ。なんか穴掘ってる」
 奈々が言う。あたしたちは立ち上がって、そっとトロ助に近づく。あたしたちに気づいたトロ助は、掘りかけの穴をそのままにしてどたどたと逃げ出す。奈々が指をさす。あれ、なに?
 穴のそばに、干物。肘から先、千切れた腕のカタチをした、干物が落ちている。
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