R18恋愛官能小説 青山倉庫

快楽コサイン

第16話「脅迫的詰問」


 片山大嗣のアパートの片付けのときに貰った英語の辞書をケースから取り出してひらくと、中身が四角くくりぬかれて、銀色の外付けハードディスクが入っていた。
 恵未のノートパソコンを借りて、ぼくはハードディスクの中身を調べる。フォルダがたくさん並んでいて、動画ファイルが大量に並ぶ。プールというフォルダを開いて、動画ファイルを再生する。ぼくが通う中学の女子更衣室が映る。女の子たちが着替えている。それだけの映像。他の動画ファイルを再生する。女の子が泳いでいる映像。別のフォルダを開く。教室内の映像。体育館の映像。理科室の映像。女子トイレの映像。どれも女子生徒しか映っていなくて、学校名にはモザイクがかかる。一番下に、『未整理』というフォルダがあって、その下は日付のフォルダが並ぶ。その中から、ぼくは百瀬家が失踪した日付のフォルダを開く。ひとつずつ動画を再生する。公園の景色。時計台の下に恵未が立っていて、ゆきえが入り口の車止めに腰掛ける。誘拐直前の映像。そんなんじゃない。ぼくは次々ファイルを開く。玄関先の映像。薄暗い映像で、たぶん明け方。玄関は開けっ放しだけど、電気はついていなくて、紀子と正樹が荷物をもって行ったり来たり。夏美の姿はみえない。どこにもいない。
 カメラのすぐ前で、紀子がカツラを脱ぐ。眼鏡を外す。映像から消える。
「ただいまー」
 玄関先で恵未の声がする。おじゃまします、というゆきえの声。ぼくは慌ててハードディスクを外す。引き出しに放り込む。恵未とゆきえが部屋にぱたぱた走り込む。ゆきえは、こんにちは、と言ってお辞儀をする。恵未はぼくの膝を跨ぐ。濡れた唇を重ねて、舌を差し出す。ぼくは恵未の舌を絡め取る。いちごの味。ゆきえが飴玉をボリボリかみ砕く。きっとエレベータのなかでキスをしていた。ぼくのしらないところで、恵未とゆきえがキスをしたり愛し合ったりしているとおもうと、なんだかへんな気分になる。
「今日ね、ゆきえがお泊まりできるの」と恵未が言う。
「泊まるの? 大丈夫?」
「今日から明日まで、お母さんがいないの。恵未ちゃんちに泊めてもらえるなら、そうしなさいって」とゆきえ。
「いままで、何度か泊まったことあるから、大丈夫だよ。お母さんもなにもいわないもん」
 そう言って、恵未はぼくに腰をすり寄せる。ぼくは瞬く間に硬くなる。
「ねぇ、しよう。早く、しよう」
 恵未がいつものように甘い声でおねだりする。

 早苗叔母さんが帰宅する。
 ゆきえは一晩泊まって、明け方帰宅した。恵未はぼくの隣で眠っている。一晩中、休みなくセックスに溺れていたから、ぼくだってヘトヘトでぐっすり眠りたい。叔母さんはいつものようにキッチンへ直行して、冷蔵庫から昨日の残りのグラタンを出して、レンジで温める。叔母さんは食べた後、お風呂に入ってすぐに眠ってしまう。その前に、ぼくは話したいことがある。なんどもなんども、頭の中で繰り返しリハーサル。ぼくはベッドから起き上がる。立ち上がる。リビングへ向かう。脚が震える。
「トモくん、おはよう」
 叔母さんが言う。ぼくもおはようございますと返す。
「恵未は?」
「まだ寝てるみたいです」
「郵便物、出しておいてってお願いしたのに……」
 早苗叔母さんはテーブルの上の封筒をひっくりかえす。お皿を並べる。
「トモくん、朝ご飯は?」
「すこし食べました。おなかいっぱいです」
「そう…」
 ぼくはテーブルにチラシを差し出す。小劇場の小さな舞台。その配役のなかに、ひとりだけぼくが赤丸で囲んだ子がいる。多田奈津実という少女。
「この子は、百瀬夏美じゃないですか?」
「え?」
「叔母さん、しってますよね」
「なんの話?」
「百瀬夏美です、失踪した家族の」
「ああ、うん。それが?」
「夏美はどこにいるんですか?」
「どうしてそんなこと、叔母さんに訊くの?」
 ぼくはトボけられるとおもっていなかったから、どう説明していいかわからない。物事は断片的で、何も示唆しない。事実だけをかいつまんで言えば、こうだ。
「百瀬紀子は、早苗叔母さんですよね」
「え?」
「失踪の夜、紀子さんはカツラと眼鏡を外しました。化粧は濃かったけれど、早苗叔母さんでした。ぼく、証拠をもっています」
 叔母さんは黙り込む。上目遣いでぼくを見つめる。叔母さんはまだ三十歳で、若いし、美人だし、それに、恵未に似ている。叔母さんに恵未の面影をみるたび、ぼくは十八も年上の身内に欲情して、まっすぐ眼をみて喋れない。だけど、今は、まるで恵未を責めているような気持ちで、いたたまれない。叔母さんは、泣きそうなまなざしでぼくをみつめる。蛍ヶ浦の住人たちを瞬く間に洗脳してしまった叔母さんの魔術には用心しなければならない。ぼくは視線を逸らして、続ける。
「夏美と会いたいです。会わせてください」
 叔母さんはため息をつく。お皿に盛られたサラダとお豆腐と、叔母さんが手作りする玉葱のドレッシングを眺める。
「会ってどうするの」
「ききたいことが、いっぱいあるんです」
「もう会えないとしたら、どうする?」
「失踪事件を調べている刑事さんに相談します」
 叔母さんはグラタンを食べる。怒っているのか、哀しいのか、叔母さんの気持ちは表情から読み取れない。すくなくとも、ぼくに非はない。遠くで犬の鳴き声がする。ペット禁止のマンションなのに、犬を飼っているひとが結構いる。
「こうやって食べていくには、お金が必要なのよ」
「はい」
「叔母さんひとりで生きていくことはできても、あなたや恵未を養っていくことはできないの」
「はい」
「蛍ヶ浦には仕事がないから、トモくんと恵未のために、汚い仕事でもやらなきゃいけないの。だけど、叔母さんはそういう仕事の中身を全部しってるわけじゃない。だから、説明はできないの」
「説明はいりません。ぼくは、夏美に会いたいだけです」
「夏美にききたいことって、なに? 叔母さんが訊いてあげるよ」
「直接会いたいんです。でなければ、今すぐ大内刑事に電話します」
 ぼくはポケットから携帯電話を取り出す。叔母さんに使用料を払って貰っている携帯で、叔母さんを脅している。叔母さんと眼が会う。頼りない表情でぼくをみつめて、ちょっと唇をとがらせて、いじけている子供みたいな仕草で、下を向いて、またぼくを見上げて、わかったわ、と呟く。
「すぐに会うのは難しいから、明日まで待って。叔母さん、すこし眠いし」
「わかりました」
 叔母さんは髪留めを外す。三十歳とはおもえない艶のある髪がふわりと解ける。三十歳とはおもえないあどけない表情で微笑む。薄いカーディガンを脱いで、三十歳とはおもえない瑞々しい肌をあらわにする。ぼくのパジャマの裾をひっぱって、顔を近づける。ぼくの瞳をじっとみて、お願い、待ってて、と囁く。ぼくはその瞬間、叔母さんとセックスすることを具体的に想像してしまう。恵未とそっくりだけど、恵未にはない大人の部分が、ぼくの心をぐっちゃぐちゃにかき乱す。ぼくは、唇だけで、はい、と答えて、逃げるように寝室へ戻る。ドアを閉める。鍵をかける。恵未のとなりに仰向けになる。ここへ引き取られて、ぼくは初めてオナニーをする。恵未の寝ている隣でオナニーする。恵未ではなく、ゆきえでもなく、夏美でもなく、ぼくは恵未のお母さんを思い浮かべる。
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