R18恋愛官能小説 青山倉庫

快楽コサイン

第4話「怪我」


 ぼくは携帯を持っていない。
 下校中、地下鉄駅の昇りエスカレータに乗ると、前に立つ太った男のひとが黒い携帯を持っている。何かの人気アニメとコラボデザインの携帯。ぼくはそういうのじゃなくて、もっと普通の携帯でいい。叔母さんに言えば持たせてもらえるはず。
 前に立っている太った男のひとはだらしない格好で、髪の毛がアメってて、量販店の二階で売ってるような寸胴のシャツと変色したチノパンという最悪の組み合わせで、あまつさえ酸っぱい臭いがする。その太った酸っぱい男は、更にその前に立つ同じ中学の女子生徒のスカートの下に携帯をかざす。堂々とした仕草だから、ぼくはしばらく呆然としてしまう。
「なにしてるんですか?」
 ぼくが大きな声で咎めると、太った酸っぱい男の人と、その前の女子生徒が振り返る。
「あ、夏美ちゃん」
「トモくん…わっ」
 太った酸っぱい男は夏美を突き飛ばしてエスカレータを駆け上る。ぼくは転びかけた夏美を受け止める。右足を踏み外して、エスカレータのぎざぎざした段で脛を思い切り引っ掻く。うめいてうずくまるぼくを、夏美が心配する。エスカレータを降りるとき、びっこをひく。さっきの太った酸っぱい男はもういない。
「トモくん、大丈夫? ごめんね、ごめんね」
「ううん、大丈夫だよ。夏美ちゃんは悪くないよ」
「あたしぼーっとしてたから、突き飛ばされちゃったんだね」
「えっ、違うよ。さっきのひと、夏美ちゃんのスカートのなか盗撮してたよ」
「うっそ、えー、気づかなかった」
 夏美はなんだか楽しそうに言う。ぼくのズボンの裾をめくる。脛に三本傷ができていて、血がだらだら滲み出す。夏美の表情が急に曇って、手当てしなくちゃと言い出す。救急車を呼ぶと言い出す。ちょっとパニック起こしてる。ぼくは夏美の両肩をつかんで、落ち着いて、と言う。
「ただの怪我だから、平気だよ。それより、交番行こう」
 不安そうな夏美の肩を借りて、駅を出る。駅前交番に入って、若い巡査に事情を説明する。巡査は調書を取る。ぼくは右足の靴下が血で濡れるのを感じる。平気、なんて言った割に、ひどい怪我かもしれない。巡査が調書を書いている最中、夏美が耳元でささやく。このひと、芝山さんだよ、ほらつぐみの…。
 交番を出ると、夏美がタクシー乗り場までぼくを引っ張る。
「あたしン家の方が近いから、おいで。手当てするよ」

 夏美の部屋は、恵未の部屋よりも女の子らしい。
 ぼくは甘いにおいのするベッドに腰掛けて、夏美が傷口を洗って、消毒するのをみつめる。痛いけど、おとこのこだから、我慢する。
「このまちに、盗撮なんてするやつがいるんだ……」
 夏美がつぶやく。ぼくは憤る。
「芝山さんに捕まえてもらわなきゃ」
「そうだね、でもあのひと、ちょっと頼りないよね」
「夏美ちゃんは、芝山さんをどうおもう?」
「あー、あたし年上すぎるのはあんまり…。てゆか、あの人浮気しそうじゃん」
 そう言って嗤う。クラスにはかわいい子、美人な子、ふつうな子、不憫な子、いろいろいるけど、夏美はちょっと違う。すごく綺麗な子なのに、なんだか現実離れした、遠い世界の少女のようにかんじる。微笑むと、わずかに笑窪ができる。むしろ、微笑んだとき以外、近寄りがたい空気をまとっている。
「ねぇ、トモくん。ズボンはいたままじゃ、包帯巻けないよ」
「うん、でも、ぼく」
「脱がしていい?」
「……うん」
 夏美の指先がベルトの金具に触れる。カチャカチャ、外れる。ジッパーを下ろす。心拍数があがっていく。夏美の指先が、制服のズボンを下ろす。傷口に触れないように、そっと脱がす。
「お父さんと、お母さんは、いないの?」
「うん、お父さんもお母さんも、お昼は働いているの。お母さんは、もうそろそろ帰ってくる頃かな」
 そう言いながら、夏美はぼくのぴったりしたボクサーパンツをチラ見する。ぼくのアソコは横向きに収まって、その形がくっきり浮かぶ。ぼくはシャツで隠す。夏美の指先が太ももをなぞる。傷口にガーゼをあてられる。指先の触れる感触に、昨夜の恵未をおもいだす。
 昨夜は熱帯夜で、ぼくはパンツ一枚、恵未もショーツ一枚で、ぴったり肌を合わせて眠った。汗ばんだ肌がぺたぺた触れあうのさえ心地よくて、指先で背中をなぞって、恵未の指先が肩をなで回して、太ももをくすぐって、大きくなったおちんちんがパンツから飛び出して、恵未はお腹と股間をこすりつけた。ぼくはもっと何かしたかったけれど、そこから先、どうすればいいかわからなくて、恵未ちゃんはちっちゃくてかわいいね、色が白くて綺麗だね、からだじゅう柔らかいね、と囁いて、恵未のからだを愛でた。
「できたよ…」
 夏美の声に我に返る。大きくなったアソコがパンツから飛び出して、シャツを突き上げる。腰をひいて、ありがとう、とつぶやく。顔をあげると、タンスのうえの写真立てが目に入る。暗いイメージの不鮮明な写真だけど、夏美と、夏美の両親が写っている。母親も父親も古くさい髪型で、顔が半分隠れるような眼鏡をかけている。夏美はシャツにできたテントをみつめて、ぼくをみあげて、朱くなって、エヘヘと笑う。
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