R18恋愛官能小説 青山倉庫

快楽コサイン

第3話「あまい想い出」


 うちのキッチンは狭い。
 お母さんが晩ご飯にお好み焼きの下ごしらえをするのを手伝う。ボールに作った生地に、たくさんのお野菜と、イカゲソと、豚肉を加えてかき混ぜる。すぐには食べない。お腹がすいたら焼いて食べる。いつもは一人分だけど、智之お兄ちゃんが一緒に住むようになってから、二人分を作る。あたしはいつも別に夕食を作って、ひとりでお母さんの部屋で食べる。
 お兄ちゃんとはあまり喋らない。お兄ちゃんは変わらないのに、なんだか面と向かって喋ることが恥ずかしくなった。あたしに学校のことや、勉強のことや、ずっと習っていた珠算のことや、最近始めたバドミントンのことを訊く。お兄ちゃんはまだ声変わりしていなくて、子供っぽい声のままだけど、顔つきがすこし大人っぽくなって、あたしは急に意識するようになった。お兄ちゃんは唇が綺麗。朱い果物みたいに艶があって、美味しそうで、つい食べたくなってしまって、お兄ちゃんの濡れた瞳があたしをじっとみつめているのにきづいて、いつも目を逸らしてしまう。まるで嫌っているような仕草になるのを気に病んでも、あたしから声をかける勇気はない。
「恵未、サラダどうする?」
 お母さんがきく。あたしはボールの材料を混ぜながら、いらなーい、と答える。
「トモくんがいるでしょ。増えるわかめさんあるから、食べるときつくってあげてね」
「わかめさんなら、あたしも食べる」
「材料、冷蔵庫にしまっておいてね。ソースと紅いのはここにあるからね」
 そう言って、お母さんは着替えて家を出る。
 智之お兄ちゃんは中学生だから、あたしより帰りが遅い。部活はやっていない。習い事もしていない。お兄ちゃんは、きっと一部の子にモテる。すこし心配。
 部屋に入る。本棚からアルバムを引っ張り出す。今ではお兄ちゃんの部屋だけど、お兄ちゃんが帰ってくるまで、ベッドで横になる。お兄ちゃんのにおいがする。清潔な、蒼いにおい。お兄ちゃんが隣で寝ているような気がする。アルバムを開く。あたしと、お母さんと、浩一叔父さんと、智之お兄ちゃんが写った写真。あたしはお兄ちゃんにひどくべたべたくっついて、楽しそうにしている。去年まではこんなふうに接することができたのに。
 そう、去年は叔父さんとお母さんのいないところで、あたしたちはこっそり抱き合っていた。お兄ちゃんはアソコが大きくて、あたしが自分の股間をおしつけているとますます大きく硬くなって、パンツから飛び出して、その感触がとてもきもちよくてずっと抱き合っていた。お兄ちゃんを意識するようになったのは、それが原因かもしれない。あたしは、あの日以来、あの日のことを毎晩おもいだす。からだじゅうが焦れるような、あまい想い出。
 アルバムを閉じる。ワンピースの裾をまくりあげて、ショーツの上から股関節をなぞる。丸い恥骨の曲線をなでる。天井をみあげたまま、中指で薄い布ごしにわれめをなぞる。ショーツに手を入れて、直接触れる。お兄ちゃんのことをおもいだす。具体的に、抱き合っていたときのことをおもいだす。手を動かす。両脚とお尻が緩やかに痙攣して、布ずれのおとと、自分の呼吸のおとしか聴こえなくなる。
 あっ…。
 声が漏れる。お兄ちゃんが引っ越してくるまで、お母さんがいないあいだは声を出せたけど、今はいつ智之お兄ちゃんが帰ってくるかわからない。声をこらえる。でも、だめ。お兄ちゃんのにおいに包まれて、アソコからくちゃくちゃ音が響いて、ますますはしたないきもちになって、空気が漏れるようにか細い声が漏れ出して、オニイチャン、オニイチャン、とつぶやいてみると、恥ずかしいけど鳥肌がたつほどきもちいい。
 あっ…。
 あたしの声じゃない。頭を起こすと、部屋の入り口に制服姿の智之お兄ちゃんが立っている。あたしは飛び起きて、ベッドから飛び降りて、お兄ちゃんの脇を通って逃げ出す。お母さんの寝室に駆け込んで、襖をぴったりしめる。お布団に潜り込む。濡れたショーツが冷たい。
 恵未、恵未…。
 襖のむこうでお兄ちゃんの呼ぶ声がする。あたしは息を殺して、じっとしたまま。なにが起きたか、なにをみられたか、考えないようにするだけで必死。いちばんみられたくない人にみられてしまった。おとなしく、お母さんの部屋にいればよかったのに。

 トントン。
 襖をたたく音に目が覚める。
「恵未、晩ご飯できたよ」
 智之お兄ちゃんが襖の向こうで呼んでいる。部屋はスッカリ真っ暗。今何時? もう九時前。一眠りして、さっきの緊張もすこし和らいだ。だけど、お兄ちゃんと顔を合わせる勇気がない。そうおもっていると、襖がわずかに開いて、光の筋が暗い部屋に伸びる。あたしの潜り込んだお布団を照らして、あたしの顔に光がおちる。お兄ちゃんがのぞき込む。
「恵未、ご飯。お好み焼きだよ」
「いらない」
「ぼく、ひとりで食べきれないよ。恵未」
 お兄ちゃんはなんだか頼りない声をだす。お兄ちゃんはあたしの憐憫を誘うような、そういう狡いところがある。あたしが答えないでいると、お兄ちゃんは襖の隙間に立ったまま、じっと動かない。
「具合悪いの、先に食べて」
「大丈夫? お好み焼きじゃない方がよかった?」
「ううん、起きられないだけ」
 お兄ちゃんが襖の隙間から消える。あたしは頭を起こして隙間を覗く。見えない。上半身を起こして、キッチンの方を覗く。お盆を持ったお兄ちゃんが、足で襖を、すす、と開く。あたしは慌ててお布団に潜り込む。
「一緒に食べよう。恵未、おっき」
 そう言って、お兄ちゃんは枕元にお盆を置く。お好み焼きのいいにおいがする。お兄ちゃんがお箸を渡してくれる。あたしはお兄ちゃんが食べるとこををじっとみる。お兄ちゃんはお箸で切り分けたお好み焼きを近づけて、ほら、あーん、と言う。
「いいよ、自分で食べる」
 あたしはしぶしぶ起き上がる。一緒にお好み焼きを食べる。いつもより急いで食べる。のどに詰まる。お茶を飲んで、咳き込む。お兄ちゃんが背中をとんとんしてくれる。
「怖い夢をみていたの」とあたしは言う。
「夢って?」
「怖い夢みてて、寝言をいってたの。あえいでたでしょ、怖かったの」
 下手な嘘をつく。お兄ちゃんはキョトンとしたまま首を傾げるけど、急にほほえむ。
「ああ、そっか。怖かったんだね……」
「うん、こわかった」
「どんな夢?」
 あたしは、うーん、と斜め上を見上げておもいだすふりをして、追いかけられる、ゆめ? とへんなトーンで答える。お兄ちゃんは頷く。いいわけなんかしなければよかった。バレバレ。余計に恥ずかしい。
「じゃあ、怖い夢みても助けてあげられるように、今日はお兄ちゃんと一緒にねんねしよっか」
「一緒に?」
「うん、去年まで、くっついて寝てたでしょ」
 お兄ちゃんの熱いからだと、蒼いにおいと、守られているようなあの安堵が、途端に鮮やかによみがえる。あたしは、声を出さずに、うん、と頷く。
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