R18恋愛官能小説 青山倉庫

人形地獄

第17話「手紙」


 あの悲劇的な夜から三月半が過ぎた。
 あの夜以来、晃さんは姿を見せなくなった。優香理さんがどこへ行ったのかわからず、実次は以前にもまして無口になった。麗奈は本土の病院に転院し、ぼくらの面倒をみてくれるのは珠莉だけになった。
 寒くなるにつれて、撮影の回数は激減した。その代わり、暖炉の焔で暖められた広い寝室で、ぼくと少女たちは寝ても覚めても複雑に絡み合い、飽きることなく愛しあう。珠莉は一日中ぼくらの傍にいて、何か本を読んでいる。ときどき部屋を出て、食事を運んでくる。お風呂の準備をしてくれる。乱交にくたびれ果てて寝転んでいると、珠莉はぼくのからだを観察する。
「なにをみているのですか?」
 ぼくがそう訊くと、珠莉は恥ずかしそうに微笑む。
「雅之のからだは幼いのに、オトコの部分は…とてもたくましいのね」
「さわって、いいですよ」
 珠莉は手を伸ばすけど、ぼくに触れない。
「ごめんなさい。ご主人さまに、禁じられているのです」
 そういって、手をひっこめる。椅子に座り直して、ふたたび本に目を落とす。
 島の屋敷には暖炉が多く、いつも裸でいるぼくたちのために、少しでも寒いと火をくべて部屋を暖める。若い女中たちが入れ替わり立ち替わり、ぼくたちの寝室に出入りする。みんなぼくに話しかける。お天気のこと、お料理のこと、お洋服のこと。そうしてなるべく長い時間、ぼくたちを眺めている。ぼくらは見られることに慣れている。女中たちは、少女たちのからだに触れる。傷のない肌を褒める。愛でる。だけど、女中たちはだれもぼくに触れようとしない。

 その日は朝から大雪だった。
 久しぶりのスタヂヲ行きが中止になって、ぼくとさくらはテエブルの前で折り紙を折る。ベッドのうえで、綾乃が優那と遥香に責められて、甘い声で鳴いている。みんな裸だ。最後の撮影が半月前で、それ以来ぼくたちは何かを羽織った覚えがない。ずっと裸のままでいる。
 さくらは指先が器用で、いちまいの和紙に切れ込みを入れて、そこから四羽の鶴を折る。できあがった鶴は羽がつながっている。ぼくも真似をするけど、二羽目を折っている最中に一羽目を壊してしまう。かなしくなる。
「雅之さま、お手紙が届いていますよ」
 週明けから新調された給仕服を着て、珠莉が寝室に入ってくる。ぼくにお手紙を渡してくれる。
「こんな大雪なのに、定期船がきたのですか?」
 ぼくは珠莉に訊く。
「ええ、でもまだ港に。この雪が止むまで、出航できないそうですよ」
「積もっていますね」
「こんな大雪は、わたし初めてですわ。強い風が吹いていて、そとに出たら凍えてしまいそうなの」
 珠莉の新しい給仕服は、フリルのドロワースがなくなって、また少し短くなった。前のお屋敷にいたころから、徐々に新調されてきたのを目にしているせいで、それほど気にならないけど、最初の給仕服は足首までの長いスカアトと野暮ったいエプロン、すこしぶかぶかの着丈が垢抜けなかったし、給仕服はそういうものだと信じていた。いつの間にかからだの線が浮かぶカタチに変わって、スカアトも短くなって、リボンがついて、可愛らしくなった。
 ぼくは手紙をひろげる。三姉妹からの手紙、筆跡は果凛のものだ。

 前略。雅之さま。
 私たちは絵のモデルになっています。雅之さまに似た直央さまへの性の奉仕に明け暮れており、そのご奉仕を玲庵先生と、そのお弟子さんが絵に描く毎日です。退屈ではありませんが、からだを重ねるより大きな楽しみもありません。
 私たちは都築様のお屋敷とおなじくらい大きなお屋敷に住んでいて、人の出入りはすくなく、学校にも行っていませんから、書生のお兄さんに読み書きを教えて貰うのです。朝、起きたら愛しあい、食事をして愛しあい、モデルとなって愛しあい、風呂に入っても愛しあい、眠るまで延々と愛しあい続けます。私たちは、雅之さまからご奉仕を教わっただけでなく、雅之さまの精を胎内に授かって、生涯、行為することのできる性愛の人形と化したのだと玲庵先生にききました。そして雅之さまはとても大変なお方だとききました。私たちのような幼い娘たちを、永遠に愛でなければならない。だけれども、私たちにはそれは羨ましいことのようにかんじられます。
 直央さまはほんとうに雅之さまにソックリで、お顔も声も、大きな肉棒までも瓜二つなのです。私たちは直央さまに一処懸命ご奉仕することで、雅之さまとの夢のような一週間をおもいだすのです。直央さまはお優しく、私たちを丁寧に愛して下さいますが、どこか心ここにあらずといった雰囲気で、雅之さまに愛されたときのような、いてもたってもいられなくなるような絶頂を覚えることはありません。
 蘭聖島の港でのお別れが本意なく思われてなりません。いつかまたお会いできればと願っております。
 果凛、ほとみ、咲月。

 さくらがお手紙を覗き込む。ぼくはさくらが読み終わる前に便せんを閉じる。
「綾川さんたちから?」
 さくらが訊く。ぼくは黙って頷く。雪が窓枠にも降り積もって、雪の隙間から見える景色は鈍色に染まって、ほんとうに凍えてしまいそうなおそろしい風景だ。だけどぼくは立ち上がって、珠莉に云う。
「都築さんは、今どこにいますか?」
「お屋敷にはいませんわ。今日はお客様とお会いになって、北の宿泊所にお泊まりです」
「ちょっと行きたいところができました。珠莉さん、ぼくに合う防寒着はありませんか?」
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