R18恋愛官能小説 青山倉庫

人形地獄

第16話「許せないおとこたち」


 夕方、撮影が終わっても、ぼくたちはダラダラと行為を続けていた。
 三姉妹が島を去ってから半月が過ぎた。優那と遥香、さくら、綾乃の四人を相手に、まいにち休み無く交わい、筋肉が引きつけをおこすまで律動し、声が枯れるまで悦びの悲鳴をあげる。
「都築さん、優香理さんはこないのですか?」
 フィルムを巻き上げる実次に、ぼくは訊く。抱き合うさくらと綾乃を後ろから突く。仰向けの優那と遥香の膣に指を入れる。スタヂヲに濡れた粘膜のおとが響く。
「ゆかりはもう来ません。本土に戻すのです」
 ブシャアッと派手に精を噴く。あまりの快感に涙が溢れる。さくらに覆い被さる綾乃の背中に、ぽたぽたと滴る。
「どうしてですか? ぼくのせい?」
 実次は答えない。スタヂヲのドアが開いて、麗奈が晃さんを連れて入ってくる。晃さんは、女中の珠莉におはようさんと挨拶をする。実次は優香理さんを連れてこなくなった代わりに、ぼくと仲の良い珠莉と、麗奈を助手として連れてくるようになった。だけど、現像室に入るのは実次と晃さんだけ。
 巻き上げたフィルムを実次が晃さんに渡す。二人とも現像室に入る。ぼくたちは作業が終わるまで、何時間も待つ必要はない。以前と違って、スタヂヲとお屋敷は近くなったし、島の南側には関係者以外は立ち入ることができない。裸のまま、歩いてお屋敷に帰ることもできる。だけどぼくたちは、いつも暗くなるまでスタヂヲで愛し合う。夜になると晃さんは演奏のために出かけてしまう。ごく稀に、ぼくたちを誘ってくれる。ぼくはそれを期待している。長身で厳つい風貌と暑苦しい関西訛りからは想像ができないほど、晃さんのヴァイオリンは繊細で儚く、かなしい旋律を紡ぐ。いちど聴いたら、かならずまた聴きたくなる。
「麗奈、優香理さんを、知らない?」
 麗奈に尋ねる。麗奈は白いくびれのないドレスを着て、ぼくらの傍らに腰掛ける。
「診療所から戻って、会っていませんわ」
 ぼくはさくらから陰茎を引き抜いて、四つん這いの綾乃に挿し込む。膣内の気泡がブリブリッと破廉恥な音をならして、体液の泡があふれだす。ぼくは綾乃を抱きおこす。背中から抱きしめる。小刻みに突きあげる。綾乃の肩越しに、仰向けで股をひらいたさくらを眺める。さくらの乳首を、優那と遥香が吸う。舐める。二人は鏡のようにおなじ仕草で、さくらの濡れたからだを愛撫する。さくらはぶるぶる震えて、じぶんを愛撫する優那と遥香の乳首をゆびさきでつまむ。
「まるで、なにかの、儀式のようですわ」
 綾乃が云う。ぼくは綾乃の薄い乳房をなでまわす。汗と精液に濡れた薄い胸板は、うっすら肋が浮く。
「みんな、撮影慣れしてきたのでしょう。ぼくも、美しいつながりかたを、意識するように、なりましたから」
「雅之さまは、どんなカタチでも、美しいとおもいますわ」
「ぼくだけが美しくても、しようがないのです。おんなとおとこが合体して、初めてうつくしいカタチになるのが、理想なのです」
 ぼくは両手を後ろについて、綾乃を突きあげる。白い壁と塗装の剥げた天井を眺めて、綾乃の細い背中に流れる汗の玉を指先でなぞる。綾乃は敏感にからだを反って、未熟な膣でぼくを締めあげる。
「ひとつ、綾乃に尋ねてもよいですか?」
 綾乃の背中に向かって訊く。面と向かい合ってはききにくいことだ。
「なん…でしょう」
「綾乃は、お兄様を、憎んでいるのですか?」
 ちゅるちゅる、ちゃぷちゃぷ、性器が濡れた音を響かせる。きもちよすぎて、ぼくは意識が朦朧となる。
「あれを、兄だとは、おもいたく、ありません」
「どうしてですか?」
「お兄様は、綾乃の姉を、おっ、犯したのです」
「お姉様が、いるのですか」
「自殺しました」
「エッ…」
 ぼくが驚いて動きをとめると、綾乃はゆっくり腰を浮かす。長大な肉のパイプがつるりと抜ける。綾乃は向きを変えて、ぼくに向き合って、再びぼくのパイプを胎内に沈める。綾乃自ら上下に動く。
「初め、兄は、綾乃を犯そうと、したのです。居合わせた姉は、綾乃の身代わりとなり、兄に強姦されました。兄は姉を恐喝し、毎晩、毎晩、繰り返し、繰り返し、幾度も幾度も、姉のからだを陵辱しました。お優しかったお姉様が、だんだんと心を失って、まるで人形のように冷たくなってしまわれて…。綾乃は耐えられず、お父様に相談したのです。お父様が、兄と姉を引き離したときには、姉の心はすでに、粉々に砕け散って、ある晩、首を…吊っ…」
 綾乃の膣ヒダがびくりびくりと引き攣って、ぼくを呑み込もうと蠕動する。
「許せないのです、綾乃は兄を許せないのです」
 パン、パン、パン。
 突然、乾いた破裂音が暗室から響く。晃さんの怒声、何かが床に落ちて、割れるおと。そしてまた、パン、パン、と破裂音。静かになる。ぼくたちは起き上がって、おのおの身を寄せ合ったまま、じっと耳を澄ます。傍らの珠莉と麗奈は立ちすくむ。ぼくは綾乃からゆっくり離れる。壁にかかった紺の二重廻しを肩にかけて、現像室のドアを開ける。

 ぼくたちが現像室だとおもっていた部屋は、ベッドルウムだった。
 幅が広くておおきなベッドの上に、裸の実次が座る。壁を背にして、肩から血を流す晃さんが床にへたり込む。その手には小さな拳銃が握られ、部屋の中に硝煙が立ちこめる。晃さんの目の前に、仰向けで横たわる下野優子。左目を打ち抜かれ、大量の血溜まりが床にひろがる。
「はぁ、はぁ…、おう、雅之」
「晃さん」
「救急箱、救急箱!」
「はい」
 ぼくが踵を返すと、麗奈が部屋の中を覗き込んでいる。焦げ臭さと、血のにおいに、麗奈は口をおさえてふらふらと壁際に崩れる。嘔吐する。苦しそうに咳き込む。
 ぼくは戸棚から救急箱を取って、娘たちに「来ちゃダメだ」と告げる。現像室に戻って、晃さんに救急箱を渡す。珠莉が麗奈を介抱する。晃さんは手早く自分自身を止血する。呆然としていた実次が我に返って、ベッドから飛び起きる。服を着る。晃さんに向かって云う。
「晃、すまないが…、この子たちを屋敷に」
「や、お前が連れて帰れ。ワシが始末をつける」
「なら医者を呼んでくる」
「はよこどもたちを。さくらもおるんやろ」
「あ…、ああ、そうだな」
 ぼくは実次に促されて、現像室を出る。はだかの少女たちに羽織を着せて、実次はスタヂヲを出る。
 島の夜は漆黒の闇だ。星空の明りだけが頼りだけど、実次が行燈に火を点ける。ゆるやかで狭いスロオプが、行燈の明りに照らされる。その焔が揺れているのか、スロオプが揺れているのか、それとも島が大海に浮かんで揺れているのか、ぼくは覚束ない足取りに地面が上下するのを感じる。
 青ざめた麗奈を珠莉が抱えるように歩く。真夏の温い風が吹く。赤い羽織を着たさくらがぼくに追いすがる。先頭を歩く実次に訊く。
「なにが、あったのですか?」
「拳銃が、暴発したのです」
「まぁ、拳銃が…」
 実次は黙ってしまう。さくらもそれ以上訊かない。綾乃がぼくと手をつなぐ。優那と遥香も手をつなぐ。
「拳銃が暴発したんですって」と優那が云う。
「鈴木さんが、怪我をしたのね」と遥香が云う。
「都築さんが撃ったのかしら」
「いいえ、優那、きっと違うわ」
「では誰が撃ったの?」
「きっと、おんなよ。おとこは意気地がないから、おとこを撃つことはできないわ」
「そうね、遥香、きっとそうだわ」
 島の夜は漆黒の闇だ。実次がどんな表情をしているのか、ぼくにはうかがい知ることはできない。
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