R18恋愛官能小説 青山倉庫

人形地獄

第6話「恥辱と忍従のカルメン」


 鈍色の空から、生ぬるい雨がしとしと降りそそぐ。今年の梅雨はまだ明けない。
 汗だくの那須野雅美は、おなじように汗びっしょりの優那と向かい合って、交替でお手玉をする。その横で、仰向けの遥香をぼくが突き下ろす。今日、この部屋にさくらはいない。女中の麗奈もいない。朝から二人、部屋を出てから戻らない。
 優那がお手玉をみっつ投げ、雅美がうたを唱う。
「まるたけえびすに、おしおいけ、あねさんろっかく、たこにしき…」
 優那が笑って、お手玉を落とす。
「雅美さん、それは、お手玉歌では、ないわ」
「あら、わたくしは、いつもこのうたを唱うのよ」
「雅美さんは、京のお生まれなの?」
「いいえ、わたくしではなく、亡くなったお母様が…」
「お父様は?」
「お父様は、しりません。九大の医学部ですから、九州ではないでしょうか」
 優那と雅美はふたたびお手玉を始める。今度は優那が唱う。その歌の律動にあわせて、ぼくは遥香を往復する。お手玉と、優那のはかない歌声と、遥香の甘い悲鳴と、愛しあうぼくと少女の粘膜が、悖徳にまみれた、まえみごろ。
 ドアを叩くおと。ぼくは、はい、と応える。
「雅之さま、ご主人様がお呼びです」
 朝から姿のみえなかった麗奈が、部屋へ入って首を垂れる。
「スグ、ですか?」
「はい…、お急ぎの用と承っております」
 麗奈の言葉がいつもより堅い。ぼくは遥香に唇を重ねる。そっと抜き取る。遥香は名残惜しそうに、ぼくの陰茎を撫でる。
 麗奈はベッドの縁に寄り、濡れタヲルでぼくを丁寧に拭く。先端をくちで愛撫し、残った体液を啜りとる。服を着るだけでもそうやって丁寧にかしずかれ、いつも余計に欲情してしまう。
「優那と遥香は…」
「ご主人様は、雅之さまだけをお呼びなのです」
「そうですか」
 ぼくは服を着せてもらう。いつも着る洋服ではなく、藍色の着物を羽織るだけ。長い性器は上向きにして、帯でかるく固定する。麗奈に手を曳かれ、部屋を出る。振り返ると、遥香はお手玉の輪に加わっている。

 一階の客間に入ると、そこにはちいさくなって泣いているさくらがいた。
 暖炉の前の椅子に座った実次は、天井をみあげる。さくらのむかいには、晃さんが座って煙草を吹かす。さくらは、ぼくをみあげる。目を伏せる。諦めたような表情で床をみつめる。
「麗奈、衝立を…」
 実次が指示をする。麗奈は壁際に置かれた漆塗りの衝立ふたつを、さくらが座るソファベッドの脇に並べる。お辞儀をする。部屋をでる。ぼくは取り残される。
「さくら、もういっぺん、あの遊郭界隈を見物してみっか?」
 晃さんが言う。さくらは首をよこに振る。
「いいえお父様、もうじゅうぶんです」
「車からみえたなかで、いっちゃんデカい建物があったやないか。古町屋女郎閣ちゅうところやで。お前をそこの主人に紹介してやる。明日か明後日、ここを出て、あの座敷牢で生活せえ」
「いや」
「上流の客しか来えへん。心配せんでええ」
「いやよ」
「お前なら人気の遊女になれるやろ。大勢のようしらん男たちに抱かれてよ。覚えとるか、娼家のまえに張りついとるおとこたちを。脂ぎって、強欲で、そん代わり懐が温かい、欲望がそのまま顔に顕れたような…」
「いやあっ」
 さくらは大声を出して泣きだす。晃さんは溜息をつく。背もたれごしに、ようやくぼくを見る。
「お、雅之くん、来とったんか。こっちこんね」
 ぼくは晃さんの前に立つ。晃さんはソファを手で叩いて、座らんね、と云う。ぼくはおそるおそる腰掛ける。晃さんはぼくの肩に腕をまわして引き寄せる。煙草のにおいがする。囁くように云う。
「雅之くん、さくらはどうね。こういう小娘は、好かんの?」
「いいえ、さくらさんのことは、すきです」
「なんで、抱かんの?」
「さくらさんが、ぼくのことを厭がるのです。ぼくは、厭がる子を抱きたくありません。かわいそうです」
「ふうん、優しいな」
 晃さんは立ち上がる。さくらが座る臙脂色のソファベッドに腰掛ける。
「どうする? さくら」
 さくらは俯く。涙が太股にぽたぽたと落ちる。
「何千人もの身元のわからん醜い男に弄ばれるのがいいか、貴族出の美しい雅之くんに抱かれるのを選ぶか。ええか、俺はもうお前を養ってやれん。そやからここに連れてきた。自分、ここでただ飯食わしてもろて、なんもせんでええおもっとったんじゃあるまいな。そんな都合のええ話あらへんで」
 さくらはじっと黙ったまま、自分の太股に目を落とす。なにか呟く。晃が耳に手をあてて云う。
「きこえんで」
「抱かれます…」
「あ?」
「雅之さまに、抱かれます」
 晃さんは立ち上がる。ぼくに手招きする。ぼくがさくらのソファに座り直すと、晃さんは衝立でソファを囲う。背の低い衝立の隙間から、晃さんと実次がみえる。ふたりは、何かを囁きあう。ぼくらは隣り合って座ったまま、長い沈黙を守る。

 さくらがぼくの着物の帯をひく。ほどける。さくらは囁く。
「抱いて、くださ…」
 ぼくの着物の前がはだけて、屹立する性器が露わになると、さくらは身をひく。ぼくは着物を脱いで、はだかになる。さくらの太股に手を載せる。さくらが着せられるワンピイスは、夏になってますます薄い生地のものに変わった。さくらはその透けたワンピイスの裾をしっかり握って、爪先を震わせる。
「怖いのですか?」
 さくらは首をよこに振る。
 ぼくはさくらに覆い被さって、頬に唇を近づける。さくらは顔を横に背けて、ぼくから逃れようと肘掛けに乗り上げる。ぼくはさくらから離れる。衝立の隙間をみる。実次の脚しかみえない。
「やめましょう…」
 さくらは顔をあげる。かなしそうな目でぼくをみる。
「そんなに、ぼくが、お嫌いなのですね…」
 ぼくはいちど脱いだ着物を羽織る。帯を手に取る。さくらは慌てて飛び起きて、ぼくの太股に手を置いて、哀願するような目で首を振る。
「ごめんなさい、ごめんなさい、あたし、恥ずかしくて、どうしてよいか、わからなくて…」
 かすれた声で呟く。涙に濡れた瞳が充血して、憐れなほどに朱い。散々、泣き尽くして、涙が涸れたようだ。
 ぼくはさくらの手を取って、ぼくの性器を握らせる。肩を引き寄せる。
「ぼくも、恥ずかしくて、どうしてよいか、わからないのです。ぼくは奉仕されるばかりで、みずから奉仕したことがありません。さくらさんに拒絶されると、頭がまっしろになってしまって…。ぼくはかなしくなったり、つらくなったり、おそろしくなっても、ここが萎んでしまうことがないのです。隠したくても、隠せない…。だから、余計に恥ずかしいのです」
 さくらの指先が、濡れた先端にからみついて、やさしく愛撫するようにうごく。そして、囁く。
「あたしは、雅之さまの、おちんぽを、しゃぶればよいのですか?」
「はい、お願いします…」
 上目遣いのまま、さくらはぼくの先端を咥える。粘膜の部分だけを唇と舌でなでまわして、ちゅるちゅるおとをたてる。さくらの髪がふわりとぼくのお腹を撫でる。
 衝立の隙間から、吸わないと那須野先生の恩寵煙草を辞した実次が、茶色の葉巻に火をつける姿がみえる。紫煙がたちのぼり、晃さんが椅子からたちあがるおと。晃さんは実次のまえで直立し、ヴァイオリンを調整する。
「さくら、さくら…」
「はい」
 さくらはくちを離す。唾液と体液が糸をひく。
「仰向けに、そのまま…」
 さくらは仰向けになって、自らワンピイスの裾をあげる。股をひらく。ぼくはさくらの股間に顔を埋めて、幼い割れ目に舌をさしこむ。小さな陰核を掘り返して、おとをたてて吸い込む。さくらはお尻を浮かして、細かく震える。下唇を噛んで、声を堪える。息が荒い。かんじているような仕草だけど、処女の膣口から愛の雫はそう易々と滲まない。
 やがて晃さんがヴァイオリンを弾き始める。カルメン幻想曲、ぼくもしっている曲。減り張りの強い曲調を、晃さんは優雅に奏でる。さくらがぼくの髪の毛に指先を絡めて、くしゃくしゃにする。声がもれる。
「いいきもち…、いいきもちよ…」
 曲が始まって、さくらのからだが、ぱっと燃えあがるように熱くなって、処女の穴から体液がトロトロ溢れだす。ぼくは念入りに愛撫する。ゆっくり、焦らず、さくらのからだを溶かしていく。自ずと腰を浮かし、股をひらいてぶるぶると震えだすと、ぼくはさくらに覆い被さり、なにも訊かずに処女を貫く。
 カルメン幻想曲、ぼくもしっているその曲に、さくらの焦燥に充ちた喘ぎが混じる。
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