R18恋愛官能小説 青山倉庫

びろうどカンヴァス

第12話「琴美の結婚」


 木村琴美は、大正天皇の婚礼から流行し始めた神前結婚式で式をあげることになった。
 巫女さんたちの舞を観て、参列者が祝辞を述べる。ぼくには退屈な行事だったけれど、普段見慣れている給仕服姿の琴美が、白粉を塗って紅をさし、見違えるほど美しく着飾って雛人形のように上座にちょこなんと座る姿に、三人の娘たちが興味を惹かれている。ぼくは大人しく新婦側の席に座る。綾川家と木村家は近しい親族ではなかったけれど、木村家のご主人から特別に招かれた。だけど、肺炎が悪化した玲庵先生は参列できない。琴美が三三九度の杯を取り交わす姿を瞼に焼き付けて、カンヴァスに描くことも叶わない。
 その美しい儀式が終わって、参列者は神前から退出し、場所を変えて食事をする。料亭の大部屋を貸し切って、神前式と同じ順番に座る。すぐに料理が運ばれてくる。玲庵先生の席は空いたまま。もしかすると、新郎の安西家とのしがらみから、出席を辞退したのかもしれない。ぼくの座る位置から一番とおい席に、白髪の安西浩光が座っている。新郎の父親は安西先生の息子だと聞いた。
「直央様、食べないのですか?」
 向かいに座った初音が訊く。食事が始まったのに、ぼくはぼんやり考え事をしていて、料理に箸をつけていない。
「朱理さんは来ないのですね」とぼくは言う。
「朱理様は、まだ綾川の血筋ではありませんから…」
「そうですね…」
「直央様、どうされたのですか? 元気がありませんわ」
 ぼくは俯く。隣に座る咲月がぼくの皿から出汁巻きを奪っていく。
「初音も…」
「はい?」
「初音も、そのうちに」
「…はい」
「なんでもありません」
「あら」
「なんでもないのです」
 初音は茶碗蒸しを食べる。安西が木村家のご主人と何か喋っている。新郎も席を立って、新婦席で酌をしてまわる。当主不在の綾川の一団をみて戸惑う。新郎新婦共に貴族ではないから、式の雰囲気は想像したよりずっと庶民的で、堅苦しくない。
「私がお嫁にいってしまうのが、不安なのですか?」
 初音が言う。核心を突かれて、ぼくは口籠もる。
「直央様は、淋しいのですか?」
「いえ、そんなことは…」
「淋しくないのですか」
 ぼくは首を横に振る。
「淋しいのですね」
「…すこし」
 初音の箸が、焼き魚を裂く。口に運ぶ。ぼくもようやく料理に箸をつける。舟盛りの刺身からイカを掬う。
「直央様が、私を貰ってくれればよいのですよ」
「えっ」
「としも、みっつしか違わないのですから」
「あっ、はい…」
 ぼくはみるみる耳まで真っ赤になる。想像もしたことのない提案をされて、ぼくはひどく狼狽えて、顔を上げて初音に目を合わせることもできない。初音が冷やかして笑ってくれることを期待したけど、初音はその言葉のあと、ずっと沈黙してしまう。新郎が酌をしに来てくれたときだけ、二言三言、言葉を発する。初音が横を向いているときだけ、ぼくは顔をあげて、初音の横顔をみつめる。

 琴音の式の翌日、初音が新しい女中を連れて挨拶に来る。その女中は、ぼくたちのしっているひとだった。
「松島菊子と申します。以前、湯島様のお屋敷でお目にかかりましたね。よろしくお願い致します」
 そう言って畳に両手を揃える。ぼくらも同じように挨拶する。
 菊子は琴音と同い年で、ぼくらが会った時と違って髪を短く切りそろえている。落ち着いた雰囲気の女性で、梅文様の地味な着物に白肌が映える。
「松島さんは、湯島家からお出になる前に、琴音からお話していたのですよ」と初音が言う。
「湯島さんのところは、どうされたのですか?」
 果凛が尋ねる。
「ご存じかも知れませんが、湯島家は奥様がお亡くなりになって、わたくしたちは暇を出されたのですよ」
「画廊は無くなるのですか?」と果凛。
 初音と菊子は顔を合わせて微笑む。菊子が答える。
「湯島の画廊は、玲庵先生がお買いになったのです」
「じゃあ、画廊に遊びにいけるのですね」
「ええ、もちろんですわ。先生のご病気も早く治るとよいですね」
 娘たちは微笑む。ぼくは愛想笑いを浮かべる。ずっと菊子を見つめる。初音が菊子と喋っているときに、初音を見つめる。初音が振り向くと、視線を逸らす。いままでこんなふうに初音を意識したことはない。
「ではのちほど、写生のお時間にまた参ります」
 初音はそう言って、菊子を連れ立って部屋を出る。

 その日の写生は午後から始まった。
 いつもと違って、初音と菊子が朱理の傍に仕え、菊子は朱理の服を脱がせる。ぼくはぎこちなくほとみを愛撫し始める。普段と違って動きがかたくて、果凛と咲月が「ゆっくりでいいのよ」と気遣ってくれる。
「菊子さんが、気になるのですね」
 ほとみが囁く。
「ええ、少し。でも、すぐに慣れます」
 ほんとうは菊子は気にならない。ぼくたちの絵をしっているし、いつも落ち着いている。
 愛撫もほどほどに、ほとみはぼくを引き寄せて、胎内に導く。ぼくはからだを波打たせ、大きな振幅でほとみを突く。ほとみは奔放に声を上げる。ほとみの首筋に舌を這わせながら、ぼくは絵筆を走らせる朱理をみる。菊子をみる。初音をみる。二人の女中は畳の上に正座したまま、しずかにぼくたちをみつめる。明かり取りの窓から挿し込む斜陽が、ふたりの着物を朱く染める。
 びゅるっ、びゅるっ、びゅるるっ。
 ぼくはほとみのなかで激しく脈打つ。緊張していると、いつもより間隔が短くなる。ぼくは抜かずに突き続ける。溢れた精液が布団に滲む。初音が菊子に耳打ちする。二人は立ち上がって、部屋を出る。ぼくは落ち着いて、いつものペエスを取り戻す。

 写生が終わる時間になると、初音と菊子が戻る。
 菊子は朱理に着物を着せる。画材を片付ける。初音はぼくたちのからだを濡れタオルで拭く。初音の指先が肌に触れただけでぼくは敏感に反応し、おちつきかけた性器がふたたび硬くそりかえる。初音は少し微笑んで、性器を咥える。根元まで飲み込んでしまう。すごい音をたてて、愛撫する。ぼくは顔が火照って、じっと俯いてされるがまま。
『直央の棒は、おんなが口で綺麗にするのよ。布きれで拭くなんて、だめよ』
 咲月にそう指摘されてから、初音はぼくの性器を口で綺麗にする。以前は単なる快楽だったけれど、今はすこし違う。ぼくは溜息を漏らす。初音が口を離す。
「お風呂が沸いていますわ。すぐにお入りになりますか?」
 初音が訊く。ぼくは頷く。
 ぼくたちは初音に付き添われて、風呂場へ行く。菊子もついてくる。ぼくも娘たちも裸になる。初音も給仕服を脱ぐ。娘たちが湯船に浸かると、浴槽から湯が溢れる。ぼくは檜の椅子に座る。初音が百貨店で買ってきた良い香りのするソオプで、からだを洗って貰う。菊子は浴室の入り口にしゃがんで、初音の仕事をみる。だけど、初音は普段、お風呂の世話などしてくれない。初音はぼくを背中から抱いて、まだ未熟な乳房を押しつけて、ぼくの両脚と両腕と胸を洗う。そして殊更丁寧に性器を洗う。
 ぼくを洗い終わると、初音はお互いのからだにお湯を流す。ぼくは果凛と交代して、湯船に浸かる。ほとみと咲月のお喋りを聞き流す。果凛は初音に抱かれて、からだを洗って貰う。初音は果凛の性器も丁寧に洗う。果凛は甘い鼻声を漏らす。
 窓の庇にホオジロが降りたって、ちょこちょこと歩き回る。あの独特な鳴き声を披露する。
『ホオジロが窓枠を叩くと、その家に人死にが出るという迷信がある』
 死んだ甲斐さんの言葉をふとおもいだす。
<< 前のページ 戻る